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運命の扉

四姉妹と共に理事長室へ向かう悠真は、胸の中に説明のつかない不安を抱えていた。


「特別な理由」とは一体何なのか。その問いに答えを見つけられないまま、重厚な扉の前に立つ。


ノックの音が廊下に響き、扉が静かに開かれた。


中に足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、威厳を感じさせる調度品の数々だった。深紅の絨毯が床一面に敷かれ、天井には荘厳なシャンデリアが輝いている。壁には、学園の長い歴史を物語るような肖像画や賞状が飾られていた。


「ようこそ、皆さん。」


部屋の奥、品格漂うデスクの背後に座っているのは、四季学園の理事長兼校長、四季院織子だった。


優雅に和装をまとい、きりっと結い上げた白髪が目を引く。まるで時代を超えて存在しているかのような風格を持つ彼女が、静かに立ち上がる。


「どうぞ、座ってください。」


織子が手を差し出すと、悠真と四姉妹は用意された椅子に腰を下ろした。


全員が無言のまま、彼女の次の言葉を待つ。悠真の心臓は、緊張から早鐘を打っていた。


「まず、千葉悠真君。」


織子は悠真に目を向ける。その瞳には優しさと共に、内面を見透かすような鋭さがあった。悠真はその視線に思わず姿勢を正す。


「君がこの学園に入学した理由は、ご自身でも理解しているつもりでしょうが、実際には少し違います。」


「……違う?」


織子の言葉に、悠真は困惑を隠せなかった。自分はただ、奨学金を得て、学費免除の条件で入学したに過ぎない。そのはずだった。


「そうです。千葉君、君にはこの学園で特別な役目を担ってもらうために来てもらいました。」


織子は言葉を一度切り、静かに四姉妹に視線を移した。


「春花さん、美波さん、澪さん、雪さん。この四人は、私たち四季家の未来を背負う者たちです。しかし、その中から次期理事長を選ばなければなりません。そして、その選定を手伝うのが、千葉君、あなたの役目です。」


「……僕の?」


悠真の口から反射的に言葉が漏れる。彼の頭は一瞬で混乱に陥った。


「その通りです。」


織子は淡々とした口調で続ける。


「この四姉妹は、それぞれ特別な才能を持っています。しかし、その才能を開花させ、学園を支える人間に育てるためには、外部からの適切な助言や指導が必要です。千葉君、君はこの学園における彼女たちの導き手となり、最終的には次期理事長にふさわしい一人を見極めなければなりません。」


「……待ってください!」


悠真は思わず立ち上がりそうになるのを必死にこらえた。


「それ、本気で言ってるんですか?僕はそんなことを聞いていませんし……第一、どうして僕なんです?」


その問いに、織子は微笑を浮かべた。それは温かさも感じさせるが、悠真にとってはどこか試されているような不気味さがあった。


「千葉君、君はまだ知らないかもしれませんが、私は君の父親と古くからの知り合いです。君がここに来るきっかけを作ったのも、彼との信頼関係があってのこと。」


「……父が?」


悠真は驚きに言葉を失った。父はそのことを一切話していなかった。


「君の父親は、君が適任だと信じてこの話を受け入れたのです。もちろん、君の意志を無視するつもりはありません。ただし、これは試練でもあります。自分自身の可能性を試し、他者を導く力を身につける貴重な機会です。」


織子の言葉は重みがあり、悠真は反論する隙を与えられなかった。


一方、四姉妹の反応はそれぞれ違った。


春花は目を大きく見開き、驚きと戸惑いの表情を浮かべている。美波は腕を組み、悠真を一瞥してから目をそらした。


澪は冷静を装っているが、僅かに眉間にしわを寄せている。そして雪は、怯えたように俯いたまま動かない。


「私が求めているのは完璧なリーダーではありません。」


織子は続ける。


「むしろ、君たちが共に成長し、互いを支え合いながら進んでいくこと。それが理想です。ただし、最終的には一人を選ばなければなりません。それがこの学園の未来を決める鍵となるからです。」


悠真は言葉を失った。選ぶ――?自分が、彼女たちの中から一人を選ぶというのか。その重圧が、悠真の肩にのしかかった。


「分かりましたか?」


織子が優しく問いかけるが、その声の奥には強い意志があった。


「……はい。」


悠真は絞り出すように答えた。それが彼にとって最初の「覚悟」を求められる瞬間だった



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