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第四話 政務の始まり

 戴冠式から二日後の朝。クフ―リは城の王の間で玉座に座っていた。この椅子こそがこの東海国の主たる者が座る椅子。この国で最も権威ある者のみが腰かける事を許されている椅子。そう王の椅子―すなわち玉座である。

「ああ、俺って王さまになったんだな…。この国で一番偉いんだ…」

 そんな能天気な事を考えていた。

 そこへ大臣たちがぞろぞろと雁首揃えて王の間へと入って来た。そして玉座に座って独り悦に浸っているクフ―リを見つけると、恭しくお辞儀してから口々に朝の挨拶をする。

「これはこれは、おはようございます王様。お早いご登庁で恐縮いたします」

「おはようございます王様」

「おはようございます王様、お早いですね」

 皆次々と頭を垂れて丁寧に挨拶していく。クフ―リは何か自分がひどく偉い気分になってきた。もちろん本当に偉いのだけれども…。

 クフ―リは意気揚々となって、玉座の上で少しふんぞり返りながら挨拶を返す。

「やぁやぁ皆さんおはようございます。今朝の気分はどうですか?私はこの上なくよろしいですよ。今朝はもう格別の気分でした」

 と謙虚な性格故に臣下に向かってつい敬語を使ってしまうクフ―リ王。これには大臣達も微笑ましくなってつい口々に突っ込みを入れる。

「王様、敬語でなくともよろしいですぞ」

「そうそう。王たる者、威厳がなくては」

「敬語は禁止ですな」

 クフ―リは少したじろいで、呟く。

「そうか…敬語はなし…か。分かったよ」

 そうこうしている内にこの東海国の宰相であるウォーレンが王の間へと入って来た。齢五十の中年のひげ面の男である。体格は細身で如何にも文人といった出で立ちで、頭を良く使って来たゆえなのか、中央部が見事に禿げ上がっている。見た目、神経質そうな小役人といった印象である。

「これはこれは王様。お早いご登庁でなによりでございます。昨晩は良く眠れましたかな」

 と挨拶もそこそこに話を続ける。

「今日から王様の政務が始まります。我ら大臣一同王様の手となり足となり粉骨砕身働きますゆえ、遠慮なく雑事をお申しつけ下さいませ。あっ申し遅れましたが私が現在この東海国の宰相を務めさせて頂いております、ウォーレン・フォードと申します。ま、ご存知だとは思われますが…」

 とクフ―リが王子だった時にも二、三度言葉を交わしている間柄なのを確認する。もちろんクフ―リもそのつもりである。

「ああ、知っている。ウォーレン宰相殿、これから非力な私を何かと助けて欲しい。よろしく頼むよ」

「ええ、御意で御座ります」

 ウォーレンは恭しく頭を垂れて臣下の礼を取った。

「えー、それでは早速政務に入りたいと思いますがよろしいですかな」

 とウォーレンはいきなりそう切り出してきた。不意を突かれたクフ―リは思わず絶句した。そんなクフ―リの様子を見て取ったにも関わらずウォーレンは話を続ける。

「まず新国王となって始めに決めなければいけないのは、国家予算の配分です」

「国家予算の配分?ああ、つまり軍事費がいくらとか、開墾や都市開発にいくらとか、外交政策にいくら使うのかとか…そういうやつでしょ?」

 クフ―リはさらりと概要を述べた。

 ウォーレンは「ええ、良くご存じで。ちゃんと勉強されていますね」と言っておいてから「これ」と従者を呼びつけると、何やら書類の束を受け取り、それに目を通し始める。そうして「ふむふむ」と時折頷きながら考え込み、また「ふむふむ」と頷きまた考え込む。そうして一段落着いたらしくクフ―リに向かって何やら説明し出した。

「これから一つつづご説明をいたしますから、分からない事があったら何でも聞いてください。では――まず、各種税率の見直しからです――」

(え?初日からいきなり始めんの?)

 正直クフ―リは面食らった。確かにクフ―リは国の王子だったので、専門の家庭教師が付けられて政治面の勉強もそこそこはして来ているので、全く知識がないという訳ではない。しかしクフ―リはそれほど熱心に勉強をするタイプではなかったので、政治についてまだイマイチ深く理解していない部分も多い。そしてクフ―リはそれほど頭が切れる方でもないし、飲み込みが早い訳でもない。つまり、いきなり本番をやるには準備不足なのである。

「ちょっと待ってよ。ウォーレン宰相…」

「待つ?何をです?」

「いや…だからね…私はまだ…その辺りは良く理解してない…というか…」

「ああ、分からないという事ですね」

 直球でキタッ!何?このおっさん?

「まぁそういう事かな…」

「大丈夫です。何でも聞いてください。全部説明しますから。徐々にでいいですから覚えていって下さい」

「えっ、マジで?」

 こういう風にいきなりクフ―リの政務は始まった。

 ウォーレン宰相殿は切れ者の現実主義者っぽかった。

(ついていけるかな?俺…)

 王としてやっていけるかどうか、クフ―リは初っ端から自信がなくなって来た。

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