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第一章 世界樹の写し木 第十三話

 腕一本。ただそれだけの存在感にソラとスカーは意識が呑まれ、指一つとして動かすことができない。無意識にでも呼吸を止め、心音を止め、自身の生命活動を止めてでも、その存在に認識されることを避けようとしていた。

 本来ならソラとスカーの物語はこの場で幕を閉じることとなっていたが、ただ一つの救いとして、この場には絶望的な存在感に比類する一柱の悪魔が顕現していた。

 

 アスタロトはその存在が表に現れると同時に、右腕の蛇を遣わせていた。嬢王蟻を呑み込んだ時よりも更に大きく、10mを超える大きさへと頭部を巨大化させ、飛び出た片腕ごと残った下腹部を丸呑みにした。

 あまりに大きな物を呑み込んだ為、胴体が伝説の生き物であるツチノコのように膨らんでいる。するとその膨らみを解消して消化するつもりなのか、ミシミシと軋むような音と共にその身を収縮させていく。

 やがて3mほどに縮まったところで、恐る恐るソラがアスタロトを見るが、アスタロトは人型の表情は厳しい。

 直後に蛇が苦しそうな顔をして人型の方を向くと、巨大な破裂音を伴い、蛇の胴体が弾け飛んだ。

 

 破裂した蛇の血飛沫と共に、嬢王により産み落とされた悪夢がこの地に降臨する。その身は人型ではあるが三面六臂の異形をとり、全身は黒い装甲としか表現できない甲殻に覆われていた。手の指は掌のサイズに不釣り合いな程に長く、数多の関節から構成されている。関節の節目からは絶えず黒い火花を散らされ、能面の様な顔より赤く光る六つの瞳が、辺りを睥睨している。


「……ペサディージャ・デ・オルミーガ」


 全容を露わにした姿を見て、ソラが苦虫を噛むようにその異形の名を呼んだ。


 魔道書院が定める危険度は必ずしも戦闘能力のみで評価されているわけではなく、人類に対する様々な影響力を加味した上で評価が下される。

 ハングリーアントを例に取ると、それ単体の戦闘能力においては 4 ~ 5 程度で評価されるが、最も危険視されているのは嬢王蟻が率いる群れに対してである。単一では大きな危険度には至らないが、嬢王蟻が率いる数千、時として数億にも上る群れでの被害を考慮して、嬢王蟻の危険度は 8 と定められている。

 ペサディージャ・デ・オルミーガ。通称、悪夢の蟻と呼ばれるその魔物は、単純な戦闘力のみを評価しての危険度 9 が下されている。人類史においてその存在が確認されたのは二度のみで、両方とも人類による討伐記録は存在しない。一度目は龍種、二度目は巨人族の王との戦闘により死亡が確認されている。

 幸いにも好戦的な性格により、弱者は相手にせず、より強力な好敵手を求めて戦闘を繰り返すため、与えた影響はそれぞれ国を一つ滅ぼされるだけで済んでいる。その圧倒的な戦闘能力から人類の歴史に敗北の二文字を与え、悪夢の蟻の異名でアント種の最上位種に定められた。 


 視線に竦められているソラ達とは対照的に、自らを見下すその視線に苛立ちを感じたアスタロトは左手でドラゴンを撫でる。すると一際大きく息を吸い込むと、これまでとは異なる暗く黒い息吹吹きつけた。

 傲慢とも言うべきか、ペサディージャは息吹を避けることはせず、真正面から受け止める。その姿を見たアスタロトは馬鹿にしたように表情を笑みを浮かべるも、その笑みは一瞬で崩れることとなった。


 息吹の中、ペサディージャが振り上げた足を踏み下ろす。ただそれだけの動作で地が揺れ、地が歪み、地が割けた。まるでダンジョンを崩壊させるかのような衝撃に、息吹は散らされ、二対の支配者の間を遮るものは消え去った。それは助走の為の踏み込みだったのか、勢いのままにペサディージャはわずか一歩でアスタロトとの距離を詰め寄ると、右半身から15本の煌めく爪を降り下ろす。


 咄嗟に左手で印を結び結界を張り巡らせたアスタロトであったが、降り下ろされる凶爪から身を守ることは叶わず、全身を無数の肉塊に切り分けられる。ギリギリ守り切った頭部が微かな声で詠唱を紡ぐと、突如としてペサディージャの背後から九つの首をもつ大蛇がその身を呑み込むように喰らいつく。

  

 余りある感知能力の高さから、背後の存在を感じ取っていたペサディージャは、振り向きながら迎え撃つように反撃を繰り出す。けれども反射的な一撃は大蛇の身を切り刻めど、全ての首を殺すことはできず、足止めをくらうことになる。

 その隙に詠唱を続けたアスタロトは、損傷した肉体を人型の五体満足な肉体へと再生させた。頭部を含めバラバラにされてドラゴンの頭部を横目で確認し、一瞬だけ少し悲しげな表情になるも、ソラへと語り掛ける。


「あと 3 分だ」

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