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出会ったもの

作者: 桜木翡翠

 ただの興味、好奇心、恐怖心。暑さが思考を鈍くさせ、判断力さえ衰えさせる。

「こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいましたら『はい』に移動してください」

 私はやりたくなかった。怖いからとか、禁止されているものをやって怒られるからとかそんなことだけじゃない。なんだか嫌なことが、恐ろしいことが起こる気がして。

「あ、動いた!」

「う、嘘……」

 みんなで指を乗せている10円玉がゆっくりと動き出した。全員の顔を確認するがいたずらしている様子はなく、全員が驚きに満ちた表情をしている。本当にこっくりさんが現れたというのだろうか。

 ゆっくりと動いていた10円玉は『はい』の上まで行くとそのまま止まった。

「ほ、本当に来ちゃったのかな」

「やっぱりやめようよ」

「こんなのただの遊びなんだからそんなに怖がることないよ。ほら誰か質問してみようよ」

 私がやんわりとやめるように促すが誰も聞いてはくれない。皆の恐怖心と好奇心がやめようという気持ちにはならないようだ。

「じゃあゆかちゃんの好きな人は誰ですか?」

「ちょ、ちょっとやめてよ~」

 質問をすると10円玉はゆっくりと動き出した。『ま』『さ』『と』と順番に動いてた。

「え、ゆかちゃん、まさとくんが好きなのー!」

「な、なんで。誰にも言ったことないのに……」

反応からしてゆかちゃんの好きな人はまさとくんで合っているようだ。

「じゃあ次の質問はどうしようか〜」

その後も次々に質問をしていく。質問の答えを知る者はこっくりさんの回答に驚きを隠せない様子だ。

太陽が傾き、夕日が教室を照らし、自分達の影が大きく感じる。夢中になっていたら随分と時間が経っていたようだ。

「じゃ、そろそろ終わりにしようか」

その声を聞き、私はやっと終われる。家に帰れると安心した。

「こっくりさんこっくりさん、お帰りください」

ゆっくり10円玉が動き出す。

早く終わってほしい。10円玉がゆっくりとした動きにもどかしさを感じる。早く帰ってくれ。そう願いながら10円玉の動きが止まるのを待った。

「え、嘘……」

 10円玉の止まった先は『はい』ではなく『いいえ』だった。

「な、なんなのよ。こっくりさんこっくりさん、お帰りください」

「ひ、ひぃぃ」

 10円玉はぐるぐると『いいえ』の周りを回って止まらない。

「キャー!!!」

「ちょ、ちょっと!!」

誰かの叫び声により、パニックが起こった。それぞれが叫び声を上げ、そのまま教室から走り出して逃げ出してしまった。教室に残ったのは私とこっくりさんをやろうと言い出した子だけだ。

「こ、これどうするのよ」

「ど、どうするもこうするも……。こっくりさんに帰ってもらって終わらせるしかないよ……」

「こっくりさんこっくりさん、お帰りください」

何度も唱えるが10円玉は『いいえ』の周りをグルグルと回るだけで帰ってくれない。

「こっくりさんこっくりさん、お帰りください」

どのくらい同じ言葉を唱えただろうか。指先の感覚が鈍くなってきた。

「え、」

その時、動き回っていた10円玉がぴたっと止まり、ゆっくりと『はい』に向かって動き出した。

そして、そのまま『はい』の上で止まり、動かなくなった。

教室を包んでいた重苦しい空気もなくなった。

「か、帰ってくれた……?」

「よかった……」

私たちはゆっくりと10円玉から指を離し、強ばりっぱなしだった体の力を抜いた。

「ゆかちゃんたちがビビって帰っちゃうから悪いんだからね。もう早く帰ろ」

そう言うと、今まで使っていた紙をビリビリに破き、「持って帰るのは気持ち悪いしね」と言いながら教室のゴミ箱に10円玉も一緒に捨ててしまった。

「捨てちゃって大丈夫かな」

「もう大丈夫でしょ。こっくりさんもちゃんと帰ってくれたんだし。それより早く家に帰らないとママに怒られちゃうよ」

そう言いながら、私を置いて帰ろうとするため、私は慌てて荷物をまとめ、その背中を追う。

下駄箱で靴を履き替え、校門を出た時、「今日のことは誰にも言っちゃダメだよ」と言い、私の返事を聞く間もなく帰って行った。

1人で帰るのは心細かったが、家の方向も違うため仕方なく歩き出した。



夕日も沈みかかっているため辺りはだいぶ薄暗い。学校から家までは歩いて15分程。それなのに今日は無限に思えるくらい長く感じる。早く家に着いてほしい。遅い時間のためか一通りもなく、それがまた不安を強くさせる。家に帰ったらお母さんに怒られちゃうかな……。

「あれ……?」

なんだかおかしい。もう学校から出て随分時間が経った気がする。それなのにまだ家が見えてこない。

気のせいなのか。さっき怖い思いをした事がそういう風に思ってしまうだけなのだろうか。辺りの暗さも変わってない気もするし。

だけど、いくら歩いても家に着かない。それどころか見慣れない家が増えてきた。

一旦道を戻ろうか、そう思い、来た道を振り返った。

「な、なに」

振り返った先には大人ぐらいの大きさの黒い塊がいた。なんだかそれは見てはいけないもののような気がして私はもう一度振り返り、走り出した。

走り出して後ろを確認すると黒い塊は私のことを追いかけてきていた。

「お母さん、お母さん」

私は泣きそうになりながら走り続けた。早く、早く家に帰りたい。その思いで必死に走った。

「あっ」

 疲労からか、足がもつれて転んでしまった。膝を思い切りぶつけ、擦りむいてしまい血が出ている。早く立ち上がって逃げないと。そう思うがうまく力が入らない。

 私がもたついている内に後ろから何かが近づいてくる気配が強くなってくる。

 そして、グッと何かに肩を掴まれた。恐る恐る上を見上げてしまうとその黒い何かと目が合ってしまった。

「い、いや……」



『……速報です。本日未明、小学生くらいの子供の遺体が発見されました。遺体は損傷が激しく、目撃者によると「びりびりに破かれたように見えた」とのこと。また市内で同じような遺体が複数見つかっており、警察が調べを進めています』




                                            終

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