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婚約破棄

「フレイ! 君との婚約は解消させてもらう!

 クリスへ対する暴虐の数々、知らないとは言わせないぞ!

 君のふるまいは王族に相応しくない!」


「そんな! わたくしは従者として最低限の作法を指摘しただけです。

 本日もカイル様のために良かれと思って世話をさせたのです」


「ではなぜこんな粗末な衣服を着せたのだ!

 側仕えと言えど今宵は夜会の場、ドレスを用意してやるべきではなかったのか!

 それなのに君ときたらこんな辱めを……

 もう勘弁ならぬ!」


「まさか…… その平民の娘をお側へ置こうと言うのですか?

 国王陛下が許すはずございません!」


「父上の意向は無関係だ!

 私は私の道を行く、クリスと共にな」


 なんだろうこの茶番は。まあでもこれで長かった令嬢生活ともおさらばだ。暮らしは豪華だけど堅苦しくて窮屈な屋敷住まい、礼儀作法にうるさい執事たちにどやされることも無くなる。気がかりなのはカイル王子お目当てのクリスがあまりうれしそうじゃないところくらいか。


 それにしても婚約破棄を言い渡されることがこんなにも心に響くとはね。本気で泣いてしまうなんて、私にも多少は乙女心があったらしい。自分でも知らなかった一面を教えてくれたカイル様には感謝してもいい。あとは無事にクリスを口説き落としてくれることを願うだけである。


 とりあえず予定通りことを進めることが出来ている。あとはこの国を離れ、カイル様とクリスが結婚すれば成功報酬が手に入りすべて終わりとなる。私はあふれる涙をぬぐいながら広間を出て廊下を走っていった。だがその行く手が何者かに遮られた。


「フレイ、平気かい?

 さあこれで涙をふきなさい。

 僕の従者に案内させるから部屋で少し休むと良いだろう」


「ろ、ロウナル殿下、いけません。

 わたくしはもう追放される身、情けをおかけいただくわけには参りませぬ」


 第一王子が慰めてくれるなんて思わぬ展開に焦ってしまったが、この場を何とか切り抜けて抜け出さなければ。表で馬車が待っているのだから早くこの国を離れて村へ帰りたい。


 せっかく何年も偽令嬢を演じてきたと言うのに全てを無駄にするわけには行かない。なんといっても私が百人束で一生かかっても稼げないほどの富を手に入れたのだから絶対に村へ持ち帰ってみせる!


「まあそう遠慮するものではない。

 カイルはなにか誤解をしているのだろう。

 そなたの涙がその身の潔白を証明しているではないか」


「それは……」


 ロウナル第一王子は女嫌いと聞いていた。だからこそ今まで婚姻どころか婚約相手も定めず生きて来たのではなかったのか。それなのになぜ私に興味を持つのだろうか。


「僕は気付いたのだよ。

 愛のために涙を流す女性の美しさ、なんと尊きものなのかと。

 カイルが正気を取り戻すまで僕の屋敷で暮らすと良い。

 微力ながら助けとなろうではないか」


「い、いいえ、わたくしはもうお近くにはいられません。

 未練もございませんし旅に出ようと思います。

 幸いにも遠国に親族がおりますゆえ、そこへ出向いて心を鎮めようと考えております」


「なるほど、それは殊勝な心がけよ。

 よしわかった、それならば僕もついていくことにしよう。

 なに、旅費なら僕が全部持つから心配はいらない。

 女性一人で遠国までの旅では危険も多いだろう」


「とんでもございません。

 殿下のお手を煩わすなど恐れ多い。

 わたくし一人で充分でございます」


「なんと思慮深いことか。

 ますます気に入った、カイルはなぜ捨ててしまうなどと申すのだろうな。

 君は未練などないと言ったな。

 それならば僕の伴侶にならないか?」


「ええ!? 殿下! ご冗談が過ぎます。

 傷心のわたくしなら簡単に振り向くとでも!?

 それともただの憐みでしょうか」


「勘違いさせたなら申し訳ない。

 僕は今まで女性に惹かれたことは一度もなかった。

 なぜならば欲と打算にまみれた者しか近づいてこなかったからだ。

 しかしフレイ、君は違うではないか。

 僕の援助をきっぱりと断る高貴な心に感銘を受けたよ」


「それには事情がございまして……

 両親や親族のためにですね……」


「なんと! わが身わが立場よりもまずご両親や親族のことを考えるとは!

 すばらしい! ますます気に入った、必ずや振り向かせて見せよう。

 まずはアクスアル家へ出向いてご両親へ挨拶をせねばなるまい」


「りょ、両親!? 挨拶、ですか!?

 そ、それはアクスアル伯爵様へでしょうか……?」


「自身の親を伯爵と呼ぶとは変わっているな。

 それとも緊張しておるのか?

 心配には及ばぬ、さすがに礼儀は弁えているつもりだ。

 いきなり君を妻として迎えたいなどとは申さぬ」


「いけません、私のようなものに構うなぞ!

 そんな資格は持ち合わせておりません」


「よし、それなら城を出てアクスアル家へ婿入りでも構わない。

 きっとこの気持ちが話に聞く一目惚れと言うものなのだろうな」


 そんなことまで言われてしまうと私だって女の子、ときめかずにはいられない。この押しの強さはさすが兄弟、血は争えないものだ。平民出身の従者であるクリスに一目ぼれしてしまいなんとか結婚したいと画策したカイル第二王子と本質的な部分は似ているのかもしれない。


 私はそんなことを感じながら頭を悩ませていた。


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