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竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
第三部
34/41

巫女姫シエル 5(終)

「北神殿では、神殿の揉め事に巻き込まれたそうで、大変でしたわね」

 数日後、ソイエさんのお屋敷に行くと、ベルタさんとグレンさんも来てくれた。

「ええと、私は特に大変っていうほどではないですけど」

 他の人の方が大変そうだった。

 それに、帰ってから竜皇に言われたことの方が私としては大変で、自分の生まれはとか、あの絵の人はとか、何から悩んでいいのかよくわからなくて頭が混乱してる。

 でも、あれ?

「北神殿のことが、もうわかるんですか?」

 北神殿は大陸の北、ノールド王国でもさらに北の方。

 ここフルヒリングは、大陸の東。街道があるとは言ってたけど、数日で行き来はできないはず。

「手紙を送る手段はいろいろありますので」

 ソイエさんはそう言って続けた。

「まったく、姫に対して失礼な話です。アウテナの方はアマリルがどうにかするでしょうけれど、図々しい名乗りを挙げた連中には反省して頂かなければなりませんわね」

 口調は穏やかだけど、にっこり笑ってるけど、ちょっと怖い。

「反省してもらうって、どうするんですか?」

「竜皇様が直接手を下されるよりは穏便ですのでご安心下さいませ」

 そ、それは本当に安心していいのかな……。

 でも、やっぱり私の生まれがわからないことで、あっちこっちに迷惑かけてるみたいだし。


「私は、誰かだった方がいいんでしょうか?」

 ずっとくすぶっている疑問が思わず口に出た。

 一瞬、空気がこわばった気がする。

 言っちゃいけないことを言ってしまった気がして、なんでもないですごめんなさいって取り消そうとしたら。


「むしろ困りますわね」


 予想外の一言が返ってきた。

「困る、ですか?」

 声の主――ベルタさんを見る。

 ――見れば見るほど、あの絵の人に似てる。

「センテルのドロク大神官とは政治的に対立関係です。ノールドは一応同盟国ではありますが、エイフ侯爵には個人的に不愉快な記憶があります。アウテナとは縁が深く、リュタスティア姫は私の従妹にあたる方ですが……」

 ベルタさんは少しの間だけ黙ると、言葉を選ぶように続けた。

「アウテナで反乱があった際、私達は何も出来ませんでした。遠方のことですから、知った時にはもう遅かったという事情はありますが。正式に政治に関わるようになったばかりで国内のことに手一杯だったこともあって、遺体の確認に疑問のあった姫の捜索さえままなりませんでした。アウテナ側も生き残りの王族は少なく国内は混乱していましたから、亡くなったということで早々に事を納めています。ですから、身内であった者ほど、利用するためにその名を今更引き合いに出すことなど躊躇われるものでしように。恥を知れと言いたくなりますわ」

 言われた内容がよくわからない。かといって質問もしにくい。

「つまりね」

 私がわかってないのを察してくれたみたいで、グレンさんが説明してくれた。

「いなくなったときに探しもしないで、面倒だから死んだことにしていたのに、偉くなった孤児が目と髪の色と年が近いのを見て『あれはいなくなったうちの子に違い無い』って名乗りを上げるなんて、『いなくなった子供を今まで見捨てていました。出世しなければ探しもせず見捨てたままでした』と言っているのと同じだから、本当なら恥ずかしいよねって」

 なんだかさらっとひどいことを言ってるような気がするけど。

「でも、それは今までそんな子がいるのを知らなかったからじゃないんですか?」

「神殿関係を含め一部では、先の北神殿長が拾った子供を下神殿の孤児院に入れずに、養女として上神殿においていたことを、容姿や年格好を含めて噂としては聞いていたはずです。私の耳にも届いてはおりました。それを数年間放置しておきながら、今更名乗り出るなど、余りに下心が見え透いて見苦しいものです」

 ベルタさんは不機嫌そうにカップを口に運んだ。

「名前を使われた子にとっても、勝手に親だって名乗りを上げられた子にとっても迷惑な話だよね。似たようなことは世間によくあるけど」

 お茶のお代わりを入れながら、グレンさんはいつも通り穏やか。

 そんなによくあることなのかな?


「でも、アウテナのお姫様が生きていたらどうしますか?」

 話の流れだから大丈夫かな、と思って聞いてみると。

「それは嬉しいですけれど、だからといって何かするというものでもありません」

 ベルタさんの答えはやっぱりあっさりしてた。

「生活に困っているようならば、遠回しに援助くらいは致しますが。そうですね、もしも王家の再興を目指すというのであれば……」

 すっ、と、ベルタさんの表情が変わった。穏やかさが冷たさに変わって、声も淡々としたものになる。


「アウテナについては今の新しい王を認めて外交関係を深めているところです。まだ妃を迎えていませんので、リュタスティア姫と今の王を政略結婚させるか、あるいは今の王をどうにかして正統の女王として即位させるかになりますが、いずれにせよ、一度お預かりして教育いたしましょう」

「そうね。あのお二人の子供なら顔に問題はないでしょうけど、苦労してほどほどに性格が歪んでいるといいわね。男の四五人手玉に取って捨てても良心に毛ほどの傷も付かないくらい」


 性格が、ゆがんで??


「そうですわね。王位を取り戻した後、過去の動乱に関わった者たちを迷わず粛清できるくらいには」


 しゅ、しゅくせい?!


 予想外の展開についていけなくておろおろしてると、グレンさんが軽く手を叩いた。

「二人が言うと変に生々しいからそこまで。姫が怖がってるから」

 それを合図にしたように、ベルタさんもソイエさんもいつも通りに戻ったけれど、今まで黙っていたウォレフさんがうめくように言った。

「何をやったんだお前達は……」

「いろいろ」「ええ、いろいろと」

「若い女性一人で家を背負うといろいろあるのよ」

 ねえ、と二人で笑いあう女王様二人がちょっと怖い。

「まあ、誰が何を騒いでいようと捨て置いて結構ですわ。いずれにしても、私の巫女姫の眷属としての役目には何の変わりもありませんし」

 ソイエさんはそう言ってくれる。にこやかにしてるソイエさん達も、なんかものすごく大変な事を乗り越えてるんだなぁと、細かいことはわからないなりに思う。

 私はそんな風になれるのかな。

 生まれについては、とりあえずなにがあっても知りませんごめんなさいで済ませることができるとしても、竜皇の方はどうしたらいいんだろう。

「まだ、お悩みが晴れませんか?」

「いえ、その事はもういいんですけど……」

「他に何か……まさか竜皇に何かされましたか?!」

 ソイエさんの表情が一気に険しくなった。

「そういうわけじゃないですけど、ただ」

「ただ?」

 う、みんなそろってそんな怖い顔にならなくても。

「巫女姫は竜皇のお嫁さんだって言われたから、本当に私でいいのかなぁって」

 気おされながら、ぼそぼそというと、変な緊張感はなくなった。

「自分の生まれよりそっちが気になって」

 付け加えると、みんなほっとしたように、でも顔を寄せあって何か相談を始めた。


「そんな気はしていましたけど、やはりご存じなかったのですわねぇ」

「……考え込むような事を増やして、元の悩みを相対的に小さくするとか、やることがセコイわね」

「いや、多分竜皇様にそんな気はなくて、予想外に姫に悩まれてへこんでると思うよ」


 そして、私の方に向き直ると、ソイエさんが口を開く。

「それで、何をお悩みですか?」

「私でいいのかなぁって」

「竜皇様が姫を選ばれたのですから、何の問題もありません。姫が竜皇様の事を嫌いであれば問題ですけど」

「そんなことはないです。竜皇のことは好きです」

「では、何が問題でしょうか?」

 言われてみれば何も問題がないというか、何が問題なのかよくわからない。でも。

「そんなこと、考えた事なかったんです……」

 だから、頭が混乱してるというか。

「何か嫌なことをされそうになったら竜皇を蹴倒してこちらに逃げておいでになるとよろしいですわ。巫女姫の眷族というのは、要するに竜皇と巫女姫が夫婦喧嘩をした時の巫女姫の逃げ込み先だそうですから」

 け倒すのはちょっと無理です。それにケンカとかもしたくないです。

「蹴倒すよりは泣いた方が多分効果がありますわよ」

 ベルタさんも言ってくれるけど、それもなんかちょっと違う気がする。

「まさか数年の猶予はありますでしょう。その間にゆっくりお考えになったらよろしいですわ。私とグレンは、生まれる前からの許嫁でございましたし」

「それでも、僕たちの場合は、幼なじみとして育って、実際結婚するまでには、お互いに好きになれたからね」

 目の前の幸せそうな夫婦に言われると、そういうものなのかなっていう気もする。

 ということは悩む必要がないことなのかな。

 でも、自分が実はお姫様だとかいう以上に、竜皇のお妃な自分なんて想像つかないような……。



「ただいまー」

「お帰り」

 お城に帰ると、竜皇はやっぱりいつも通りだった。

 何もわかってなかったのは私だけなんだから、それも当たり前なんだろうけど。

「少しは元気が出たか?」

 あ、やっぱり気にしてたんだ。

「うん」

 竜皇の腕に抱きつくと、空いている方の手で頭をなでてくれる。そしてちょっとかがんできて、おでこになにか。

 ……えーと。

 えーとえーと。

 と、とりあえず今は気にしない事にしていいかな。

「どうした?」

 どうかしたのは竜皇の方だと思うけど、別に変わった様子はないから、やっぱり気にしないことにしておこう。

 竜皇を見上げる。

 竜皇のことは好き。ソイエさんとか、ベルタさんとか、神殿長様とか、副神殿長とかを好きなのとどう違うのかよくわからない。そのうち、わかるものなのかな。

 私が昔誰だったかは、思い出せないし、多分これからも思い出さない。それで迷惑をかける人もいるかもしれないけど、それはごめんなさいっていう以外にどうしようもないし。

 もう、ここが私のいる場所だから。

「なんでもない」

 竜皇に抱きつく腕にぎゅっと力を込めると、なだめるように頭をなでられる。

 今はこうしてもらうのが気持ちいい。この先は変わるかもしれないけど、多分いっしょにいたい相手は変わらない。


 だから、これからもずっと、竜皇といっしょ。

巫女姫シエル編完結です。

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