表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
第三部
31/41

巫女姫シエル 2

 広間に続く扉が開かれると、そのすぐ側にファエルさんとアマリルさんが待っていた。


「御行幸、誠に有り難く存じます。北神殿とその下に祈る者に代わりまして、東神殿長アルカス・ファエル」

「並びに西神殿女神官長エベイン・アマリルが御礼申し上げます」


 型通りに一礼する二人の奥に、神官が集まっているのがわかる。

 去年は、北神殿の上下両方の偉い人と巫女選びに出なかった巫女くらいしかいなかったけど、なんかいっぱいいる。西神殿や東神殿の時よりも多い。

 整列するわけじゃなくなんとなく三つに分かれて固まってるけど、とりあえず一年でぐるっと回ってきたから、服とか髪の色の偏り具合でどこの人なのか大体わかる。

 左手は髪の色が淡いし服も北の人たちだけど、知らない人ばっかりだから多分ノールドの王都神殿関係。

 右はアマリルさんと同じような型の服で、なんとなく見たことがあるようなないような人もいるから西神殿の人。

 真ん中は、神殿で働いていた頃にたまに来ていた使者と同じ服だから、中央神殿。

 肝心のここ、北神殿の人たちは、副神殿長とか居場所が決まっている人が定位置にいる他は、あちこちに散らばっている。


 なんか、思ってたよりも嫌な感じかも。

 でも、お仕事だし。よし。


 ちょっと気合いを入れて足を踏み出した。

 ざわめきが聞こえる。いつもは出迎えてくれた人が話を進めてくれるから付いていくだけだど、さっき今回はファエルさんが進行役って言ってたよね。

 ファエルさんを見ると、もう少し前に進むようにうながされた。

 視線が集まる。だけどざわめきは収まらない。


「巫女姫様より神託が御座います」


 ファエルさんのぴしっとした一声が響く。やっと広間が静まりかえった。

 格の違いってこういうのなのかな。私じゃ無理だよね。

 そんなことを考えながら様子を見ていると、副神殿長と下神殿の神殿長が進み出て来た。それに、王都神殿と中央神殿の集団からも、一人ずつ。二人とも、少し型は違うけれど高位の女神官の装束を着ている。年齢は、ソイエさんやアマリルさんと同じかもう少し上くらい。つまりその位にいる女神官としてはかなり若い。

 これが、さっき話に出てた二人かな。でも、静かににらみ合わないで欲しい。

「エイフ・シリー、ドロク・アイセ。貴女方はまだ北神殿に属してはおりません。この場はお下がりください」

 ファエルさんが続けると、二人がこちらを見た。というか、にらんだ。

 二人ともきれいな人だ。だけど、王都神殿の方はつんと取り澄ましたいかにも貴族のお姫様。中央神殿の方は、笑顔なのに目がちょっと怖いから、笑ってるというより笑われてる気がする。

 どちらもあんまり近づきたくない。お仕事だし、そんなことは言っちゃいけないんだろうけど。

 しばらくの沈黙の後、二人は不満そうではあったけれど、二歩ほど後ろに下がった。

 貫禄の差でファエルさんの勝ち、かな?


 代わりに、私も知っている副神殿長と、山の下にある下神殿長が一歩前に出た。

「北神殿神殿長に代わり、上神殿副神殿長シラヤと下神殿神殿長が神託を承ります」

 副神殿長が口上を述べる。

 今までお世話になっていた人を見下ろすのは、なんか変な感じだ。でも、やっとこれで話が進みそう。

「竜皇よりお言葉がございます」

 何回も練習してきた神託を告げる。

 神託の内容は秋からいつもより寒くて、冬に入ったら大雪注意。割と早めに雪が降り始めるから、冬の備えも早めに。元々雪が積もると危ない山道は多分通るのムリだから。毎年夏と冬で移動する村もあるけど、普段はなんとかそのまま冬を越せる村も、移動した方がいい場所がありそう。春先は早めに温かくなるけど、だから余計と雪崩や雪解け水での増水も心配。でも、それだけ気を付ければ、春の作付けから先で水不足になる心配はあまりないはず。というもの。

 忘れてるものはないはず。

 一通り話し終わって様子を見る。

 質問が無ければ、今までと同じなら贈り物が運ばれて来て、おもてなしの席があるはずだけど。どうなるのかなぁ。

「北の地より巫女姫様に捧げ物が御座います。どうぞお受け下さいませ」

 副神殿長がそう言って、色々な物が運ばれて来る。毛織の反物、絵柄が織り出された壁掛け布、石に彫刻を施した飾り箱、砂金に宝石。相変わらずもらってもどうしたらいいのかわからない。神殿に預けてるけど、一年でこれだとこの先どのくらい貯まるんだろう。でも欲しいものも別にないし、次の年の巫女姫を迎える準備に使ってもらえばいいのかなぁ。

「では、これは神殿にて管理を」

 あ。今まで、迎えに出てくれる神殿長とかに管理をお願いしてきたんだけど、今回はどうしたらいいんだろう。一応代行は副神殿長でいいのかなこの場合。

「新しい神殿長が定まっていないとのことですので、管理は副神殿長にお願いします」


「恐れながら」


 中央神殿の集団の中から、なんか偉そうなおじさんが一歩進んで声を挙げた。

「巫女姫のお言葉を遮るとは不調法にほどがありましょう。お下がりください」

 ファエルさんがぴしっと言っても、おじさんは引く気配がない。雰囲気が一気に悪くなる。

「そう申されますな、東神殿長殿。巫女姫様には、ご機嫌麗う。私は中央神殿北方総括のイルフクと申します。この度の御行幸に際し、北神殿神殿長が定まらぬという失態、心よりお詫び申し上げます」

 お作法通りの礼。丁寧な言葉と口調。でも、内容と偉そうな態度が合ってない。

「現在、北神殿の新しい神殿長は、エイフ・シリーとドロク・アイセの両名まで候補が絞られましたものの、いずれも甲乙つけがたい人材であり、選出を任されている身としても悩ましいところでございまして、恐れながら、ここは巫女姫の推挙をいただけますれば僥倖と存じます」


 う、やっぱり言われた。けど、ええと、聞こえないことにしていいんだっけ?

 でもちゃんと聞こえちゃってるし、どうしたらいいんだろう。


 黙っていると、またファエルさんが応対してくれた。

「イルフク卿。無礼にもほどがあります。巫女姫は神殿の人事には関わられません。神殿長の選出は、神殿の中で定める事でございます」

「しかしながら四方神殿の神殿長ともなれば、巫女姫に最も近くお仕えする身。巫女姫にとって望ましい者であるべきでしょう。これより、おもてなしの席でご歓談の上、お考えいただければと」

 おじさんの隣に、話題の候補者二人が並ぶ。三人とも笑顔なのに、なんか怖い。

 それで決めていいなら、むしろどっちもちょっと……あんまり仲良くなれない気がする。ごめんなさい。

 どうしようかなぁと考えながら、ファエルさんと偉いおじさんのまだまだ続くやり取りを聞いていると、ふと部屋が暗くなった。


 雲が出てきたのかな?


 竜皇が降りている間は、絶対に晴れる事になっている。

 というか、天気を変えるのはよくないという竜皇でも、濡れたくないからかその数時間だけはすくなくとも雨雲を散らすって言ってた。そして今日はきれいに晴れたお天気。

 明かり取りの窓を見ると、窓の向こうに何かがあって光をさえぎっている。

 私が少し振り向いたのに気がついた広間に集まった神官たちが、窓の向こうの影を見つけてざわめいた。

 この窓の向こうは、竜皇がいる儀式の間。つまり、そこにいて高い場所にある明り取りの窓をふさげるくらい大きくて青いものが何かって言ったらもちろん。


 ……なにやってるの竜皇?


『これは開かぬのか』

 頭の中に竜皇の声が響く。多分私にだけ聞こえてるはず。

 竜のままで、私たちがさっき使った扉を使うのはいくら何でも無理だよ? 爪の先しか出ないと思う。

『ここが大きな扉になっているはずなのだが』

 言われてよく見ると、人が通るふつうの扉があるのは壁の端の方。そこから細い柱を挟んで、広い壁だと思っていたところは、中央あたりに縦の深い筋が入っていて左右に分かれそう。上も明かり取りの窓の下は横に筋が入っていて、手すりか飾りだと思っていた横棒はかんぬきみたいだった。よく見たら大きい錠前もついてる。

 確かに大きいけど、でも竜皇が通れるほどではないよ?

『構わない。開けさせなさい』

 扉がきしむ音に、神官のざわめきが大きくなる。

 え、うわ。竜皇っ。


 みしっていってる!

 めりっていってる!

 壊れちゃうからちょっと待って!


 口に出そうなのをこらえながら竜皇に向かって強く思う。

 あ、壁にくっついてた飾りが落ちたし。ぶつかったら危ないからっ!

 ええと、ここの鍵を持ってそうなのは。

「副神殿長」

 呆然と窓の向こうの影――竜皇を見ていた副神殿長に声をかけると、ちょっと遅れて返事があった。

「は、はい」

「ここは扉になっていますか?」

「はい。この二〇年ほどのうち、開けたことは数えるほどしかございませんが」

「今、開けられますか?」

 広間が静まり返った。

 あれ、何か変なこと言った?

「可能、ではありますが……」

「竜皇が、開けるようにとおっしゃっています」

 というか、開けないと蹴破りそうなくらい機嫌悪いみたいです。なにが悪いかわからないけど。

 あ、すでに一部壊れてるか。ごめんなさい……。

「……かしこまりました。少々お時間を」

 副神殿長はそういうと、下神殿長に声をかけて、とりあえずこの部屋にいる下神殿所属で腕力のありそうな若めの男性神官を集めた。

 私は邪魔にならないようにちょっとどいて、副神殿長が錠前をはずして、集まった人たちが扉を開けるのを待つ。

 扉が開くとそこには竜皇がいた。

 男性神官が扉を押さえたままその場で立ちすくむ。後ろの神官が集まっている所からは押し殺しきれない小さな悲鳴も聞こえた。

 誰もしゃべれないし、動けない。


 ――私以外は。


 みんなが凍り付いたように動かない中、広間に集まった人からも顔が見えるように頭を下げた竜皇の側に近寄る。

「どうしたの?」

『巫女姫が何者であるか、神殿長の務めは何かを忘れている者が多いようなのでな』

 巫女姫は巫女姫だと思うし、神殿長の務めって神託を受け取ってみんなに知らせることじゃないの?

『東神殿長を呼びなさい』

 はーい。

 でも、別に自分で話しかければいいのに、何で私に言うんだろう。

「東神殿長。竜皇がお呼びです」

 伝言すると、ファエルさんが側に来た。何年も神託を受けているだけあって、さすがに怖がったりしている様子はない。

「お召しでございましょうか」

『巫女姫が席を外している間、この場で好きなだけ議論し、神殿長を定めよと告げるがいい。ふさわしい者があれば、我が直々にその任を命じる』

 それは、竜皇が直接決めるっていうこと? そんなことしていいの?

『私に仕える者を、私が選んで何か不都合があるか?』

 こっちの言葉は多分私にだけ。

 それもそうか。

 ファエルさんを見ると、少し考えるような様子だったけれど、やがて深く一礼した。

「畏まりました」

 そして、振り返って広間に集まった人たちにおごそかに伝えた。

「竜皇様のお言葉を伝えます。北神殿神殿長の人事については、竜皇様直々に御指名賜るとの仰せです。故に、御前にて存分に議論を尽くすようにとのお計らいにございます」

 声は抑えているけれど、広間に動揺が広がるのがわかる。確かに、竜皇が直接決めるって言い出したら驚くよね。

「その間、巫女姫様は別室でご休憩なさいます。北神殿副神殿長、お任せいたします」

 ファエルさんがそういうと、広間の視線が副神殿長に集まった。副神殿長は少し困ったような様子だったけれど、ひとつ深呼吸すると、近くに来た。

「ささやかではございますが、おもてなしの席を用意してございます。どうぞお受けくださいませ」

 行ってきていいんだよね?

 一応、確認の為に竜皇を見る。

『ゆっくりしてきなさい』

「では、行ってきます」

「どうぞこちらへ」

 副神殿長に促されるまま、広間を出る。

 なんか、この後ものすごーくもめそうな感じだけど大丈夫なのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ