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竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
第一部
3/41

夏の日の決断3

『では、明日改めて迎えに来る。これは巫女となる契約をした証。決して、他人には渡さぬように』

 そう言って、竜皇様は私に小さな宝石のついたペンダントを下さった。

 深い蒼なのに、角度を変えると虹色にも見える不思議な石。

 すごくきれい。

 竜髄石っていうらしい。

 なるべくなら見せない方がいいというので、服の中につける。身に着けるだけで、何だか安心する。護られている気がして。




「お前が竜皇様に巫女姫として認められたなどと、馬鹿なことを言うものではありません」

 目を覚ました神殿長に、巫女姫として選ばれたことを告げると、一蹴された。


 ……白目むいて倒れてたこと、みんなにいっちゃおうかなぁ。


 一瞬、そんなことを考えたけど、ぐっとこらえた。

 竜皇様は、すでに神殿を去り、神託は、テラスの床に魔力で書き付けてあった。

 なんでも、竜皇様の姿を見て倒れる神殿長は珍しくないらしくて、まともに会話が出来ない場合には、こうしているのだとおっしゃっていた。

 内容は、今年の冬は雪が多くなるので、大雪と春の雪解け水に対する注意と、私を巫女姫にするので明日の正午に迎えに来る、ということ。

 それを読んでも、まだ神殿長は納得していない様子だった。後半部分は私が書いたんじゃないかと疑うくらいに。

「ああ、でも、お前に読み書きなどできるはずがありませんわね」

 読み書きくらいできるものっ。

 言い返しそうになったけど、これもこらえる。

 冷静に考えれば、私が読み書きができたところで、魔力で文字を書くなんてことが出来ないことくらい、わかりそうなものなのに。


 あと一日。

 自分に言い聞かせる。

 あと一日だけがまんすれば、全部はっきりする。


「まぁ、明日になれば真実かどうかわかります。それまでは、一応、巫女姫として扱いましょうか。ですが、もし偽りであったなら、容赦はしませんよ」


 広間に戻り、私が巫女姫に選ばれたことを告げると、一気にざわめきが広がった。

 誰も、信じていない。

 無理ないか。

「どのみち、神殿を出るのです。荷物もないでしょうが、今まで使っていた部屋は片付けていきなさい」

 その場にいたはずの神殿長が、これだもの。

 ああ、倒れてたこと言っちゃいたいっ。




 朝、支度をした部屋に戻って、普段の服に着替え、私が使っている部屋……というか、納屋の屋根裏に行く。

 ベッドと、小さいテーブル、古ぼけた衣装箱。

 たった、それだけの部屋。

 衣装箱を開ける。

 夏物と冬物、それぞれほんの少しの服。

 ……竜皇の巫女が着るにはあまりにみすぼらしい。

 服の下に隠すようにしまっておいた、細長い包みを取り出す。

 包みを解くと、中にあるのは、一本のペン。

 銀製で、繊細な花の彫刻がしてあって、多分、とても高価なもの。

 私の、たった一つの宝物。

 育ててくれた神殿長様が、文字を教えてくれた時に、くださったもの。

 持って行きたいものは、これだけ。

 包みをポケットにしまうと、部屋の掃除にとりかかる。

 窓を開けて、床をはいて、ふいて、ベッドを整えて……終わり。

 明日が夏至だから、日は長い。

 時間的には夕方だけど、まだ明るいから、今日のうちにみんなにあいさつしておこう。




 いままでお世話になった神殿の下働きの人たちにあいさつに行く。

 やっぱり、誰も信じてくれなくて、

「竜皇様の巫女姫としてお仕えすることになりました」

と言っても、

「そんなことを言わなくてもいい」

と、ひたすら同情されてしまった。


 ……なんだか、複雑。


 一通りあいさつしてまわって、それから、神殿のはずれにある墓地に行く。

 ここは、代々の神殿長が眠る場所。

 その中で、一番新しいお墓、神殿長様が眠る場所にひざをつく。

「神殿長様。私、竜皇様の巫女姫としてお仕えすることになりました。精一杯お努めしますから、見守っていてください」




 そのまま、しばらくそうしていると、不意に人の気配がした。

 振り返ると貴族令嬢とそのとりまき、合計三名。

 なんか、イヤな感じ。

「お墓にまで嘘をつくなんて、気でも触れたのかしら?」

「嘘なんて、ついていません」

 竜皇様は、迎えに来て下さるって、そう、おっしゃっていたもの。

「ならば、その証をお見せなさい」

 証?

「竜皇様と契約したのなら、その証を持っているはず」

 竜髄石のこと、かな?

 でも、見せない方がいいって言われてるし。

「証って、神託を聞かれたでしょう?」

「ならば何故、巫女を選んだ場にいらっしゃったはずの神殿長様が、あのような事をおっしゃるの?」

 ……気絶してたからなんだけど。

「お前が本当に巫女に選ばれたのなら、竜髄石を戴いているはずでしょう。それをお出しなさい」

 やっぱり。

 出して見せたら、信じるのかな?

 でも、見せない方がいいって言ってたし。竜皇様との約束破っちゃうことになるし。

 それに、なんだか、様子が変じゃない?


「……竜髄石って、なんですか?」

 だから、逆に聞いてみた。

 どうして見せちゃいけないのか、どうしてそんなに見たがるのか、気になったから。

「お前、そんなことも知らずにこんな嘘をついたの?」

 思いっきり軽蔑の眼差しを向けられた。

 だから、嘘じゃないのにぃっ!

 怒りをこらえて、うつむいて、拳を固める。

 それが、嘘がばれて、悔しがっているように見えたらしい。

「竜髄石は、竜皇が何らかの契約を交わした相手に証として下賜される宝石よ。深い蒼に、角度によって虹色の光が現れるの。古代の竜の骨が宝石になったのものだとも言われているわ。とても貴重な宝石で、一粒で小さな国と引き換えられるとも言われているほど高価なのよ。お前は目にしたことなどないでしょうけれど、私はフルヒリング王国のプリマヴェーラ女公爵様が身につけておいでの品を、拝見した事がありますわ。それはもう神秘的で、美しい宝石ですのよ」

 竜皇様が、人に見せちゃいけないと言った理由が、なんとなくわかった。

 なんだろう、この変な雰囲気。

 目の色が変わってる?

「そんなことも知らずに、よくも恥知らずな大嘘がつけますこと。全く、ずうずうしい限りですわ」

 吐き捨てるようにそう言って、巫女たちは立ち去った。

 服の上から、竜髄石を握り締める。

 証はここにあるのに、それを見せることが出来ない。それが悔しい。

 日が暮れてきた。時間的には深夜に近い。

 どうしよう。部屋に戻ろうか。

 ……いいや、ここにいよう。眠れそうにないし。

 もう、お墓参りに来られないかも知れないし。




「オニキス、こんな所で眠ると風邪を引きますよ」

 肩をゆすられて、気がついた。うたたねしてたみたい。

 夏の紅い月に照らされて立っていたのは、副神殿長。

 前の神殿長様と同じようにずっとお世話になってる女性で、下働きになった今も何かと私を気にかけてくれる。

「ごめんなさいね、こんな事になってしまって……」

 神殿長が私を巫女選びの儀式に立たせようとするのを反対してくれた人の一人だ。私が神殿を出て行かなくちゃいけないことに、責任を感じてるのかもしれない。

「でも、竜皇様の巫女姫に選ばれたんですよ?」

「お前は……」

 ああ、副神殿長も信じてくれてないんだ。

「本当、です」

 信じてもらえないことが哀しい。

 ここまで信じてもらえないと、明日、本当に竜皇様が迎えに来て下さるのか、不安になってくる。

 うつむいていると、副神殿長が何かに気付いた。

「何を首に掛けているの?」

 うつむいたときに、首に掛けた鎖が見えてしまったらしい。

「お、お守り、です」

 言いよどむ。

 信用できる人だと思う。信じて欲しい相手でもある。

 でも、見せていいの?

「ちょっと、いいかしら?」

 嫌だ、とは、言えなかった。

 鎖を引っ張って、服の中から出てきた石に、目をみはり、息を呑んだのがわかる。

 紅い月の光を受けても、なお蒼い光を放つ宝石。

「……こ、これは……!」

 手が止まっているようなので、悪いけど鎖を引っ張って、石を服の中に納める。

 固まった副神殿長が復活するのに、もう少し時間がかかった。

「……頂いたのですか?」

「お預かりしているだけです」

「……そう」

 副神殿長は私の肩を優しく抱いた。

「本当だったのですね」

 涙声だった。

「……ずっとそう言ってます」

 誰も信じてくれなかった。

 副神殿長さえ、竜髄石を見るまで。

「そうですね、信じなくてごめんなさい」

 涙を抑えて、更に続けた。

「心配していたのです。神殿を出て、行く宛ても無く迷うくらいなら、儀式の間から飛び降りるのではないかと」

 ……は?

 確かに、儀式の間のテラスの先は崖。そのずっと下は河。落ちたらひとたまりもない高さ。だからって。

「神殿長様に拾ってい頂いた命です。粗末になんてしません」

「そうですね。オニキス、お前は強い子です」

 優しく頭をなでられた。

「……そのお守りは、見つからないように仕舞っておきなさい」

 声をひそめて、周囲を気にしながら、真剣な顔で言われた。

「はい」

 なんだろう、やっぱり、様子が変だ。


「あのう、副神殿長」

「なに?」

「さっき、巫女のお姉さま達に聞いたんですけど、竜髄石って、なんですか?」

 沈黙。

 なにをいっているのかと、私をしみじみ見ている。

「何を聞きました?」

「さっき初めて聞きました。竜皇様が契約の証として下さる宝石で、とても高価だとか」

「その通りです。それが何か?」

 副神殿長は首をかしげた。でも、首をかしげたいのは、こっち。

「なんだか、竜髄石についてしゃべってる時とか、様子がおかしい気がして」

「ああ」

 納得したように、呟いた。

「お前は神殿の外のことは知らないのでしたね」

 そして、ちょっと複雑な顔で続けた。

「竜髄石には、竜皇様の力が宿るといわれます。それを持つものは、王になれるとも。それ故に、求めるものは多く、中には強引な手段を取ることもあるでしょう」

「強引な手段?」

「正当な所有者から、無理やり奪い取ることもある、ということです」

「そこまでして欲しいものなんですか?」

 わからない。確かにきれいだけど。

「世の中には、一日の食事を得るために、人を傷つける者もいます。大きな権力を求める者の中には、多くの命を踏みにじっても平気な者もいます」

 哀しいことですけれど、と小さく付け加えた。

「世の中にいくつの竜髄石があるのかわかりませんが、所有していることを公にしている方は数えるほどです。他の竜髄石を求める者に、危害を加えられることが多いですから。もしくは、正当な手段で手に入れたものではないから。有名なものは数年前に失われたアウテナの王冠と、フルヒリング王国のプリマヴェーラ女公爵がお持ちのものでしょうね。どちらも、先祖が竜皇様から下賜されたと伝えられているものです」

「奪い取っても、力があるんですか?」

 むしろ、竜皇様の怒りを買いそうな。

「それはわかりませんが」

 少し言いよどんだ。

「石自体に力があることは、確かなようです。そして、強い力を前にすると、人は……、少し、狂うものなのです」

 狂う?

「力に魅了され、それを己のものにしたくなるのです。大金を前に心を動かさぬ者、権力の前に心乱さぬものは、非常に稀です」

 そんなものなんだろうか。

「竜髄石は、美しさ、高価さ、魔力、様々な力を備え持っています。その力を前に正気を保てる者は、恐らくいないに等しいでしょう」

「でも」

 さっき副神殿長は見たはず。それでも平気だったじゃない。

「……平常心では、無かったのですよ」

 そんな。

「それでも、踏み止まれたのは、お前が、いえ、貴女が身に着けているからでしょう」

 ……もっとよくわからない。

「貴女が、それを持つに相応しいから」

 副神殿長は墓石を軽くなでた。

「亡くなった神殿長が仰っていました。『オニキスならば、竜皇様にお仕え出来るでしょう』と。その時は、仰ることがよくわかりませんでした。今も、どこがどう、とははっきり言えないのですが、それでも、神殿長の仰っていた意味がわかるような気がします」

 私にはますますわからない。

「さて、少しは休みなさい。もう夜明けまで間がありませんよ」

「眠れません」

「さっき眠っていたでしょうに」

 う。

 仕方がありませんね、と副神殿長が笑う。

「いらっしゃい、夏とはいえ夜は冷えます。暖かいものでも飲みましょう」

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