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竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
第二部
28/41

動物を飼おう?

 ソイエさんのお屋敷には街の中なのに広い庭がある。

 竜皇のお城の方がもっと広いけど、あれはもう庭というより野原とか森って感じだし。

 ソイエさんのお屋敷の方は、大きな木も生えているけど、石畳の散歩道があって、一年中なにかしら花が咲いている。春になればそれはたくさん。

 花を見ながら庭を歩くと、そうじや草木の手入れをしている人に会うのも、お城と違うところ。

 私とソイエさんとウォレフさんで庭を歩いていると、向こうからなにか白いものが近づいてきた。

「ん?」

 ソイエさんがそれを見つけて立ち止まる。

 ずんずんずんずんと近づいてきたのは、白くてふさふさの毛並みの犬。

「あら、二十三号」


 にじゅうさんごう。


 何回聞いてもあんまりだと思う。

 このお屋敷で飼われている番犬は、みんなこんな名前。ソイエさんが当主になってから飼った犬は、二号から順番に名前をつけていて、今は八号から先が交代で庭に放されている。

 二十三号は一番最近来た犬だけど、この一年近くですくすくすくすく育って、もうかなり大きい。多分後ろ足で立ち上がったら、私の肩に前足がかけられるくらい。

「……また何か拾ってきたわね」

 ソイエさんのうんざりした声によく見ると、確かに何かをくわえている。

 白い犬は、私達の前まで来ると、くわえていたものを静かに地面に置いて座り、ふさふさのしっぽをぱたぱた振った。

 ほめて欲しいんだろうなぁ。

「あー、わかったわかった。お前はいいこ」

 ソイエさんが、わしわしと犬の頭から背中を撫でながら、くわえて来たものを見下ろして、不審そうに呟いた。

「ネコ?」

 確かに、どうみても子ネコだった。

 目をつぶって、丸くなってる。おなかは動いてるから、寝てるみたい。

「ウォレフ、どう?」

「普通の猫だな。使い魔の類いではないし、魔力も感じない」

 ウォレフさんがネコを持ち上げる。

 手にのせられても、起きる気配まったくなし。よく寝てる。

「どこから入って来たのかしらね。野良猫に入り込まれるなんて、穴でもあるんじゃないの?」

「結界に関しては乱れはない。それに、この警戒心の無さは飼い猫だな。大方、誰かが拾ってきて、隠して飼っているんだろう」

「許可無く生き物を持ち込むなって言ってるのに。しかも猫だし」

 なんとな、ソイエさんの言葉にトゲがある。

「ソイエさん、ネコが嫌いなんですか?」

 かわいいのに。金茶色の毛とかふわふわしてるし。まだ小さいから無理だろうけど、大きくなったらネズミも捕るし。

「あまり好きではありませんわね。気紛れですし、その辺りのものを引っ掻いて布地や家具をボロボロにしますしね」

「……同属嫌悪だと思うが」

「何か言った?」

「お前はネコ寄りの性格だろうと」

「アンタなんかそのまま犬じゃないのよ」

 あーまた始まってるなぁ。

 二人の息を付く間もないやり取りを聞きながら、足元に寄ってきた犬をなでる。

 普通の状態で私の腰くらいまである大きな犬だけど、すごくひとなつこい。

「よしよし。よく見つけて来たね。ふさふさ」

 二十三号は、一匹だけ他の犬と種類が違う。

 他の犬は、やっぱり大きいけれど、体が細くて毛も短いし、顔立ちもきりっとして怖い感じ。みんな同じ種類らしくて、少し毛色が違う程度の差しかない。

 ソイエさんやウォレフさん、あと犬の世話係の人にはちゃんと見分けが付くみたいだけど。

 だから、一匹だけ毛が長くて、のんぴりして人なつこい二十三号は、ふさふさとか、もさもさとか、もふもふとか、わりと勝手な名前で呼ばれて、お屋敷のみんなにかわいがられている。

 実はこの犬、去年ソイエさんと犬を見に行った時になぜか私になついてた子犬。

 結局、あれから少し経った後に、ソイエさんがもらってきてくれた。

 お城に連れて行ってもいいって言われたけど、お城で生まれた動物以外は竜皇のことが怖いらしいし、それに一匹だけでもさみしいだろうし。犬はお肉食べるからエサ用意するの大変だし。そもそも竜皇が許さなかったら、お城には誰も入って来れないから、番犬いらないし。


 と、不意に犬がけたたましく吠えるのが聞こえた。

 それに答えるように声がもうひとつ重なる。

 そして、人間の悲鳴。女の人?

「ウォレフ」

 ソイエさんが声をかけると、ウォレフさんはネコをソイエさんに渡して、声の方へ走っていった。

「……ネコ押し付けてくな、アホ」

 この騒ぎにさすがにネコも目を覚ました。

「痛っ! 爪立てるんじゃないわよ!」

 手の上の子ネコが毛を逆立ててうなって、ソイエさんとにらみあう。確かにちょっとネコっぽいかも。

「えーと、こっちおいで」

 手を伸ばすと、ネコは私の手の上に乗ってきたので、そのまま抱きかかえる。

 ふわふわしてて可愛い。

「ソイエさん、手、大丈夫ですか?」

「ご心配なく。傷にはなっていないようですので。姫もお気をつけくださいね。獣の爪や牙は病気が入りますから」

 とりあえず今は、なでると気持ちよさそうにのどを鳴らしてるから大丈夫かな。

「ソイエ」

 戻ってきたウォレフさん、あと犬が二匹。犬に挟まれて、おびえているメイドさんが一人。

「侵入者かと思ったら、アジサイじゃないの」

 犬二匹を両脇に呼び寄せて、両手で頭をなでながら、ソイエさんが声をかける。

 ちなみに、ソイエさんのお屋敷で働いている人は、みんな植物の名前を仕事用にもらっている。同じ名前にならないように、っていうことらしい。

「犬に吠えられるなんて、何やってたの?」

 問い詰める声は少し厳しい。

 番犬は、お屋敷の人には普通吠えない。だから、吠えられたっていうことは、何かあやしいって思われたっていうこと。

「その、探し物を……。あ」

 私を見て、アジサイさんは声を上げた。

「そ、その猫です」

「持ち込んだのはお前かっ!」

 ソイエさんの一喝に、私の腕の中のネコと、足元の二十三号もびくっと身をすくめた。もちろん私も。

「なんでもそうだけど、特に動物は勝手に持ち込むなと言ってあるはずだけど?」

「ですが、まだ子猫です。人間に危害を加えるなど」

「甘いわ。魔術師が目を共有していることもあるし、魔術の媒体に使うこともある。魔術に関わらなくたって、爪に毒を塗りつけておくこともできる。ただの捨て猫だって、病気を持っている可能性もあるでしょう。ここは女公爵の屋敷なのよ。仕えるならばそれなりの用心をなさい」

 きつい口調でそう言ってから、ソイエさんは一つ溜息をついて、普通の口調に戻って続けた。

「それと。見つけたのが二十三号だったからまだいいけど、こっちの二十二号だったらどうなってたと思う?」


 二十二号もふさふさと同じ時期に来たまだ若い犬だけど、とても気が荒い上に、よくかむ。

 人間は服だけかんで、体まではかまないようにしつけられてるそうだけど、小さい生き物だったら、もしかしたら、がぶっていっちゃうかも。

 それは、ちょっと。


 それを想像したのか、アジサイさんの顔が青ざめる。

「で。これはどうしたの」

「先日、裏門の警備小屋の影で生まれたのですが、母猫が帰ってこなくなりまして……。数人で世話をしていたのですが、生き残っているのはこの子一匹だけなんです」

「……あとで処分考えるから、関係者全員名乗り出なさい」

「かしこまりました。あの、ではその子猫は?」

 アジサイさんが心配そうに聞いてくる。

「私の事を無益な殺生が好きな人間だと思うなら、今すぐ辞めていいわよ」

「い、いえそのようなことは」

「一応飼い主くらい探すわよ。この屋敷で飼う気は毛頭ないけど」

「ありがとうございます」

「じゃあ、このこどうしますか?」

 話はまとまったみたいだし、いつまでも抱っこしてるのもなんだから声をかける。

「とりあえず、いままで置いてたあたりで面倒見てなさい。一応、小屋の中に入れるのは許すから。でも母屋の中には入れるな」

「かしこまりました」

 アジサイさんにネコを渡して、裏門の方へ歩いていくのを見送る。

 犬もそれぞれに散らばって行った。


「ソイエさん、本当にネコ嫌いなんですか?」

「魔術師の目。魔術の媒体。爪に毒。これはすべて昔ありましたわね。どういうわけか、好んで猫を使う魔術師が多いものですから」

 ああ、なるほど。それじゃ嫌いになるかも。

「お気に召されたなら、姫がお持ち帰りくださっても構いませんけれど」

 うーん、かわいいけど、でも。竜皇、ネコ好きかなー。ネコの方でも、竜皇が怖いだろうし。それに、お城にネズミはいないし。

 むしろ。

「お城にいる小鳥が危ない気がするので、やめておきます」

 多分、ネコを見たことないだろうし、警戒心とか絶対ないと思う。

「ああ、なるほど。そうですわね。まぁ、あの方は小動物にも嫉妬しそうですし」

 しっと? そうかな。

 でも、ウォレフさんがなんか地味にうなずいている。

「お城でも何か飼われたらよろしいのではありませんか? 広いでしょうから、大きなものでも大丈夫だと思いますけれど。巨大なトカゲ一匹だけでなく」

「だからお前は神を敬えと言うのに」

 あー、でも最近は竜でいることあんまりないかも。

「小鳥はいっぱいいますし、森にはリスなんかもいますよ。探してみれば、ほかにもいろいろいると思います」

「そうですか。何かご入用でしたらこちらでも手配いたしますのでおっしゃってくださいね」

 あ、どうせなら。

「牛とか」

「……うし、ですか?」

「あ、ちょっと大きすぎるからヤギのほうがいいかも」

「……やぎ……」

 神殿にいた頃、乳しぼりとか、チーズ作ったりとか、お手伝いしてたからできるはず。

「……ご用意している食事になにか不備がありましたか?」

「ご飯はいつもおいしいですよ?」

「牧場は、それはそれで複雑な顔をされそうですわね……」




「ねー、竜皇」

 思いついたので、帰って竜皇に聞いてみる。

「ヤギ飼っていい?」

 竜皇は、しばらく黙り込んだ。

「……山羊?」

「うん、ヤギ」

 竜皇はもう一回黙り込んだ。

「……何故?」

「乳しぼりしたりとか。庭に放しておいたら、勝手に草食べると思うし」

「食事に何か問題があるか?」

「ご飯はいつもおいしいよ?」

 なんでソイエさんと同じこと言うんだろう。

「トカゲや蛇を飼おうとしたり、獅子や虎を飼おうとした過去の巫女姫よりはマシなのだろうが……」

 なんかぶつぶつと小さく呟いている。

「じゃあ、ヒツジは?」

「……毛を取るのか?」

「うん。しばらくやってないから、糸のつむぎ方とか忘れちゃうし」

「忘れても問題はないと思うのだが……」

 えー、だってせっかく教えてもらったのに。

「それより、作法の復習をするといい。先だって、東神殿の神殿長に注意されたのだろう?」

 う。

「まずは、茶会の作法でも見直そうか」

「あ、お茶の時間だね。ソイエさんにお茶菓子もらってきたから、お茶入れてくる」

 さくさくの薄い焼き菓子をもらってきたはず。あれをお皿にだして、お茶はどれがいいかな。

「自給自足でもする気なのか……」

 竜皇が何か呟いているのは、よく聞こえなかった。

一号はもちろん黒いイヌです。

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