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竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
第二部
23/41

南のお城に行こう

シエルは人間型竜皇に即刻適応済み。

 暗い。

 多分朝だけど外は真っ暗。

 北の果てにある竜皇のお城は、夏至に一日太陽が沈まない「白夜」になる代わり、今の冬至の時期、一日日が昇らない「極夜」になる。

 暖炉の火は暖かいけど、何となく起き出せなくて、お布団の中でごろごろする。

 この間行ってきた南神殿はちょっと暑いくらいにぽかぽかでよかったなぁ。出された果物もすごくおいしかったし。

 南神殿は冬なのにすごく暖かかった。あの辺りは一年中ずっと暖かいんだって。

 出迎えてくれた神殿長は、竜皇を見て腰を抜かしちゃって大変だったけど。でもすごくいい人だった。

 巫女姫のお勤めにまだなれてないだろうからって、あいさつだけは下神殿の神殿長や国の偉そうなひとがいっぱいの前でしなくちゃいけなかったけど、それ以外はこじんまりともてなしてくれた。

 だから安心して、出された果物ぱくぱく食べて来ちゃったけど、よくなかったかなぁ。

 だって食べるのはもちろん、見るのも初めての物ばっかりだったし。


 そんなことを思い返しながらごろごろしていると、扉が叩かれた。

「シエル。まだ寝ているのか?」

「目は覚めてるけど」

 今までだったら、竜皇に会いに大広間に行かなきゃいけなかったけど、人の姿になった竜皇は部屋まで来てくれる。

 だからこうやってだらだらしちゃうのかもしれない。

「入っても構わないか?」

「うん。どーぞ」

 ベッドに潜ったままそう言うと、竜皇が部屋に入ってきた。

 そして私を見て軽く眉を寄せる。

「何処か具合が悪いのか?」

 あ、そう見えちゃうんだ。

「寒い場所と暖かい場所を行き来したからな」

 つぶやく竜皇には悪いけど。

「私は元気だよ」

「では、起き出さないのは何故だ?」

 それはね。

「暗くて寒いから冬眠」

「空腹になって、すぐに寝床から出てきそうだが」

 う。確かにその通りになりそうだから、言い返せない。

「昨日までは平気だっただろうに」

「寝てても竜皇が来てくれるもん」

 そう言うと、ちょっと笑って頭をなでてくれる。

「だからといって、寝ているのは良くない」

 そうだよね。でも起きたくない。

 そうだ。

「しばらくソイエさんのお屋敷に行って来てもいい?」


 沈黙。


 ……あれ?

 ごそごそと布団から顔を出すと、竜皇はなんだか難しい顔をしている。

「竜皇?」

「……何故、プリマヴェーラの屋敷に?」

 なんだか機嫌悪くないかなぁ。

「ここよりあったかいから」

 ソイエさんのお屋敷があるフルヒリング王国も冬だけど、ここよりはそんなに寒くない。雪もそんなに降らないし。

「……それだけか?」

「うん」

 それ以外に別に理由はないけど。


 また沈黙。


「どうかした?」

 何か悪いこと言ったかな?

「いや、なんでもない。それならば、出掛けようか」

 お出かけ?

「どこに?」

「陽射しのある、暖かい所に」

「行くっ!」

 がばっと起きあがる。

 暖かいところ行きたいっ!

「南に冬用の別荘がある。そこならば暖かい」

 そんなのあったんだ。

「もっと早く教えてくれればよかったのに」

「竜の姿では、いられる場所がないのでな」

 そっか。人になれるの、ほんの数日前まで秘密だったもんね。

「それと、鏡を置いていないので、プリマヴェーラとの行き来ができなくなる」

 えー。しばらくソイエさん達と会えなくなっちゃうんだ。どうしよう。

「じゃあ、やっぱり、しばらくソイエさんのところにいって……」

「別荘へ行くなら、挨拶だけしてくれば問題ない」

 ……いってこようかな、って言おうとしたらさえぎられた。

 普段は、何か言いかけてるときはちゃんと聞いてくれるのに。




「南の城へですか?」

 ソイエさんはもう王城にお仕事に行ってしまっていて、あいさつできなかったので、ウォレフさんに伝言をお願いした。

「そうだが、何かあるか?」

「……いろいろとありますが、こちらの事情ですので、意見は致しません」

 そう言いながら、ウォレフさんの目がどこか遠くを見ている。

「どうしたの?」

「いえ、何も。南の城は冬でもこの城の夏に近い気候ですから、お体に気をつけて下さい」

 そういって優しく笑ってくれるけど、なんだかどこか暗い。

 どうしたんだろう。




 そんな訳で。

 夏と秋に着ていた服を何枚かまとめて、その他こまごまとしたものを用意して。

 いつも通りにカゴに乗って、竜になった竜皇に運んでもらう。

 一日中夜のお城を離れて南へ。

 進んでいくと、夜から朝へ、そしておひさまの射す昼間へ変わっていく。

 何枚も着込んだ服は暑くなってきたから上着を脱いで。

 ずっとずっと南に進んで、陽射しがどんどん強くなる。

 下に見える景色も変わっていって、そして。

 太陽が少し傾いてきた頃、見えてきたのは青い水平線。

 海。

 ずっとずっと広がる水。

 こんなものがあるなんて、ついこの間まで知らなかった。

 竜皇は海の上を進んでいく。

「どこまで行くの?」

 下に広がる、少し緑がかった青の水。

『もう少し先へ』

 進んでいくと、水平線の上に何かとがったものが見えた。

『見えてきた』

 少し岩が見え隠れする中、北のお城よりも小さいけど、十分大きいお城が見える。

 うわぁ。

 神殿にある儀式の間と同じ位の広さがあるテラスは、水とすれすれの高さ。

 そこに降りると、竜皇は私のカゴを降ろし、人間に姿を変える。

「うわー、波ーっ」

「濡れるぞ」

 あきれたような竜皇の声を聞きながら波打ち際に近寄る。

 南神殿に行ったときに海は見たけど、こんなに近づくのは初めて。

 波に手をひたすと、冷たくはなくてちょっと不思議。

「海って冷たくないの?」

「ああ、ここは気候が暖かいからな。水も冷たくはない。北の海ならば凍るほどに冷たいぞ」

 う。寒いのはイヤ。

「まずは城の中を案内しよう」

「はーい」

 竜皇に手を引かれて、お城の中に入る。中はどうなってるんだろう。海でも遊びたいし、こっちのお城も探検したい。楽しみがいっぱいありそう。




「日差しが強いから帽子を被れ」

 南のお城に来て次の日、波打ち際に出ようとしたら、竜皇にぽすっと帽子を被せられた。

「ここは冬でも北の夏よりも日差しが強い。油断すると陽に焼けるぞ」

「大丈夫だよ」

 陽に焼けるって、肌が黒くなる事だよね。そんなに大変な事なのかな。

「お前の白さでは、黒くなる前に赤くなって熱を持つ。痛むぞ」

「えー」

 痛いのは嫌ー。でも外出たーい。

「少し暑くても袖の長い物を着るといい。それと、暑かったらすぐに日陰に入るように」

「はーい」

 袖の短い服の上に薄い服を一枚はおらされる。


「なんだか竜皇って、お母さんみたい」


 壁から布を張って日陰にした場所で本を広げようとしていた竜皇の手から本が落ちる。

 どうしたんだろう。

「求めるものから更に遠ざかって行くのは何故だ……」

 そのまま水辺に走っていった私には、そんな竜皇のぼやきが聞こえるはずも無かった。


 寄せては返す波に、素足をつけて遊ばせる。

 ずっと見てても海はあきない。

「シエル、少し日陰に入った方がいい」

 近くまで呼びに来てくれた竜皇に振り向く。

「平気ー。ねぇ、竜皇。キレイなお魚がいっぱいいる」

 水の中には、青や赤、鮮やかな色の小さなお魚が泳いでいる。

 竜皇は隣に来ると、指差しながら魚の名前を教えてくれた。

「どれがおいしい?」

「……」

 なんで黙るの?

「いや、言うだろうとは思っていたが……。小さいからな、あまり食いではないだろう。恐らく美味くはない」

 そっかー。

「もう少し先へ行こうか? もっと魚がいる」

 先?

 竜皇に言われて、示す先を見る。

「だって、岩が無いよ? 私泳げないし」

「問題はない。おいで」

 手を取られる。

 その竜皇の足元は、水。

「え?」

 驚いて見上げると、優しい微笑み。

「水の上を渡れる。掴まっていれば大丈夫だ」

 で、でも、沈んじゃいそうだし。

 おそるおそる水の上に足を踏み出し。

「やっぱり怖いっ」

 深くないことはわかってるけど、ざぱんて沈んじゃいそうで怖い。

 行ってみたいけど。

「心配か?」

「うん、だってつかんでれば大丈夫でも、放したら沈んじゃうでしょ?」

 何か面白いもの見つけたら、放しちゃいそうだし。

「そうだな。ではこうしよう」

 ひょいと体が持ち上げられる。

「きゃ!」

 抱き上げられると、竜皇の顔がすぐそばにある。

「これで大丈夫だろう」

 た、確かに沈んじゃう心配はないだろうけど、心臓がすごくどきどきいってる。

 視線がいつもより高いし、抱き上げられてるだけじゃ不安で、竜皇の首に腕を回す。

 竜皇はそのまま波の上を歩いて、しばらく進んだところで立ち止まる。

「下を見てみるといい」

 下を除くと、波の間にいろいろなお魚が見える。

「うわぁ」

「もっと見たいか?」

「うんっ」

「では、しっかり掴まっていろ」

「え……?!」

 視線が下がって、水面が近づく。

 そして。

「きゃーっ……あれ?」

 波が顔の高さに迫って、思わず竜皇にしがみついて。

 でも、水が触れてこないことに気が付いてまわりを見渡す。

「なに、これ?」

「怖がることはない。ちょっとした魔術だ」

 目の前をお魚が泳いでいる。

 足元も、頭の上にも。

 見上げると、水の向こうに太陽が見える。

 竜皇の周りは、丸い空気に包まれてて、まるで水の中の泡に包まれているみたい。

「もう少し進もうか」

 竜皇が動くと、私たちを包んでいる空気も動く。

 なんだか、不思議。

「うわっ」

 急に視界を大きなものが通りぬけて驚く。

「魚だ、心配はいらない」

 少し離れたところに、大きくて平べったい魚?がいる。

「あれは無理だが……そうだな、こちらの魚ならば」

 示す先には黒っぽいお魚。

「美味らしいが」

 よし、夕ご飯決定。

 でも、釣りできないし、モリとかでぐさってすればいいのかな?


 そのまま、しばらく海の中を散歩して、お城に戻っての夕ご飯は誰が獲ってきてくれたのかお魚だった。

 白身で美味しい。

 暖かいし、いろいろあるし、しばらくこっちのお城にいてもいいな。

日が沈まないのは白夜は良く知られますが、日が昇らない「極夜」とか

避暑地の反対の「避寒地」は割とマイナーですね。

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