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竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
第二部
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おくりもの

お返しがしたかったんです。

「竜皇、ただいまーっ」

 ソイエさんのお屋敷から帰ってきて、竜皇に駆け寄って抱きつく。

『おかえり、シエル』

 竜皇がちょっと目を細めて笑ってくれる。

「竜皇あのねっ」

 腕に掛けていたカバンから、キレイにリボンをかけた包みを取り出す。

「いつもありがとう」

 いつも優しくしてくれる竜皇にお礼。

『私にか?』

「うん、お礼なの」

『そうか』

 ウロコに覆われた顔は表情をほとんど変えないけれど、それでも、ちょっとうれしそうに笑ってくれたのが、声でわかる。

『開けても良いか?』

「うん」

 気に入ってくれるといいな。

 包みがふわりと浮き上がって、浮いたままするするとリボンがほどけて、丁寧に包み紙がとかれて。

『……』

 あれ。

 なんだか眉の……眉もないんだけど、人間で言うなら眉の間に思いっきりシワが寄ってそうな感じ。

『逃げるなウォレフ』

 帰ろうとしていたウォレフさんを何故か止めて、でも竜皇はいつも通り優しく言った。

『シエルが選んだのか?』

「うん。みんなにいろいろ聞いて」

『「みんな」か』

 小さく、でも深いため息をつく。

 あれ、気に入らなかったの……かな?

「きらい?」

『シエルが選んだものだ。喜んで受け取ろう』

 でも、あんまり好きじゃなかったみたい。みんなにいろいろ聞いて回ったのに。

『ところで。誰に、何と言われてコレになったのか』

「ええとね」




 ソイエさんのお屋敷で、ベルタさんとグレンさんといっしょにお茶会をしていて。

 お茶受けには木の実をたくさん使った焼き菓子。

 私がこの実が好きだって言ったら、グレンさんが作ってくれた。甘くて香ばしくて、ちょっと歯ごたえがあっておいしい。

 ソイエさんにもベルタさんにもグレンさんにも、いろいろもらってばっかりだから、たまにはお返ししなくちゃいけないと思うの。

 そう言ったら。

「沢山頂いてますわ、癒しを」

「ええ。和みを」

「平和とかもね」

 三人ともそう答えてくれた。私、何もしてないのに。

「遊びに来て下さるだけで十分ですのよ」

 ソイエさんはそう言うし。

「こうしてお茶会が出来るだけで十分ですわ」

 ベルタさんも。

「作ったお菓子を、美味しいって食べてもらえたらそれで十分だよ」

 グレンさんも。

 それじゃあって、ウォレフさんに振り向いたら。

「存在して下さるだけで、有り難く存じます」

 もっとよくわからない答えが返ってきた。

「むー」

 どうしたらいいんだろう。あ、大事な人がいる。人じゃないけど。

「竜皇が好きなものってなんだろう?」

 直接聞いたら意味がないし、誰か知ってる人いないかな。

 ウォレフさんを見る。

「姫が側にいらっしゃるだけでいいと、仰いそうですが」

 でもそれじゃダメなの。

 竜皇、多分男の人だから。

「グレンさん何か知りませんか?」

「物語に出てくるような竜なら、可愛い女の子が好きみたいだけど」

 ……女の子?

「食べちゃうの?」

「食べ……」

 グレンさんは一瞬黙り込んだ。

「連れて帰って巫女姫にするくらいには好きだと思うけれど。食べるのとはまた違うね」

 そうかー、でも、太ったらおいしそうに見えちゃうかもしれない。念の為気をつけよう。

「……まぁ、ある意味食う気よね。きっと」

「余計な事を言うな」

 ん? またウォレフさんがソイエさんを止めてるけどなんだろう。

 うーん。物知りそうな人はー。

「ベルタさんは?」

「そうですわね」

 ベルタさんはちょっと考えて言った。

「アウテナ王家がお酒を献上していたと聞きますので、お酒は召し上がるのではないかと」

「お酒?」

「ええ、アウテナのとても強い蒸留酒だそうです」

 お酒かー。

 あと、人間で竜皇に近い人って言ったらソイエさん。

「ソイエさんは知ってる?」

「トカゲのエサならともかく竜ですからね」

 トカゲ? トカゲかぁ。

「お前はもう少し神を敬え」

「何も大トカゲとは言ってないでしょ。そもそも食事されるのかがわかりませんので何とも。姫が渡したものなら、どんな小さなものでも喜ばれると思いますけど」

 そうなのかなー。でも、竜皇の好きなもの選びたいし。




「えーと、この辺かな?」

 竜皇に贈り物をあげようと思い立って、ソイエさんたちに聞いてもよくわからなかったので、ソイエさんのお屋敷の書庫で本を探す。

 本当にいろんな本があるから、調べ物をするにはちょうどいい。

 本棚の林の中、生物関係の本があるところにたどり着く。

 竜について書いてある本は、と。

 ないなぁ。こっちじゃないのかな。

 本を出してはめくって、戻してをくり返していると。

「何をお探しですか?」

 声をかけられた。

 ひょろりと背の高い男の人。髪を一つにくくって、そんなので本当に見えるのかなって思うくらい、ぶ厚いメガネをかけている。

 この人は、ケナフさん。この書庫の管理をしている人。

 つまりこの書庫は、専門の人を置く必要があるくらいすごいものだっていうことでもある。

 本を持ち出したりする時には、入り口近くの席でいつも本を読んでいるケナフさんに声をかけるのが決まり。

 探し物をする時も、手伝ってもらうと早い。

「えーと」

 手伝ってもらおうかな。でも、『竜の食べ物』って変だよね。どうしよう。

「あの、動物がどんなもの食べるのか知りたいなって」

 ちょっとぼかして伝えてみた。

「動物の食べ物といいますと、何か飼われるのですか?」

「えーと、そんな感じかな」

 飼うって言うより、私が飼われてる気もするけど。

「では、この辺りなら、姫様にも読みやすいと思いますが」

 取り出してくれたのは、『愛玩動物の飼い方』。

 めくってみる。

 犬、猫、小鳥……ちょっと違うかも。

「ええとね、ウロコがあるやつなの」

 付け足すと、ちょっと驚かれたようだった。メガネで表情よく見えないけど。

「ええと、それは」

 言葉につまって、少し考え込んで。それから、ああ、と呟いた。

「トカゲ……ですか?」

「はい。何でわかるんですか?」

 他にもヘビとかいるのに。

「竜のぬいぐるみをお持ちでしょう?」

 ああ、それでトカゲ好きってみられてるのかな。

「そうですね。トカゲの飼い方は……」




 取り出してもらった『爬虫類を愛する者へ』をめくっていると、また声を掛けられた。

「お一人で読書ですか?」

 いつもはウォレフさんが側にいるけど、今日はソイエさんと一緒に登城している。

 確かに、私が一人でいるのは珍しいかもしれない。

 声を掛けてきたのは、アロエさんといって、このお屋敷お抱えの薬師さん。重そうな分厚い本を持っている。

「アロエさんは何か調べものですか?」

「はい。なかなか治らない病気の患者がいまして」

 アロエさんはお屋敷の人を優先的に治療するというだけで、普段は普通の街のお医者さん。いろんな患者さんを診ている。

「そうですか」

「姫様も何か調べ物ですか?」

「はい。あの」

 この人も物知りだ。ちょっと聞いてみよう。

 開いた本の一ヶ所を示す。

「こういうのってどうやって捕まえたらいいですか?」

「……これ、ですか?」

 あー、ちょっと唐突過ぎたかも。

 アロエさんはちょっと言葉を濁して、ちょっと考え込んだ。

「ものにもよりますが、何かにお使いですか?」

「ええと」

 なんか中途半端に言う方がかえって怪しい気もするなぁ。どうしよう。

「酒に漬け込んだものならば、何種類かありますので、もし、それで用が足りる様でしたらご用意できますが」

 ん? お酒?

 それいいかも!

「どんなのがあるんですか?」




『……それで?』

 竜皇、なんかだんだん疲れた顔になってるよ?

「それで、じゃあこれって言ったら、どうぞってくれたの」

 強いお酒だし、いいと思ったんだけど。

『それで、これか……』

 深いため息を吐く。

『ウォレフ』

 低い呟きはとても不機嫌で。

「私の責任なのですか!?」

 鏡に張り付くように、後ずさっているウォレフさん。

『お前の教育の悪さがそもそもの原因だろうが』

「あの家の者達は昔から代々あのような性格です! その元凶はあの娘では」

『少なくとも当代に限ればお前の責任は大きい』

 なんでもめてるんだろう。

「……きらいだった?」

 変なもの、贈っちゃったのかなぁ。

 声をかけると、竜皇がはっとしたようにこちらに視線を向けた。

『いや、そんなことはない』

「でも……」

 なら、なんでそんなに機嫌悪いの?

「では、御前失礼致します……」

 竜皇は、おずおずと帰っていくウォレフさんには厳しい視線を向けて、それでも私には優しい視線を向けてくれる。

『これは、薬になるものだから、取っておくことにしよう。ありがとう』

 うーん、でもやっぱりうれしそうには見えない。

 好きじゃないのかな。

 

 ムカデ酒。

 

 お酒が好きみたいだし、トカゲの食べ物って虫だっていうから、絶対いいと思ったんだけどなー。

 やっぱり活きのいい虫じゃないとダメかな。


『……念の為言っておくが、私は食事はしなくても平気だが、食べるのは人間と同じようなものだぞ』

 竜皇が何か言ったけれど、考え込んでいて聞き逃した。

シエル「サソリの方が良かった?」

竜皇『……(そうじゃない)』


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