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竜皇といっしょ。  作者: 凍雅
第二部
19/41

迷子

シエル、お城で迷子になっております

 竜皇のお城は、広い。 

 とにかく広い。

 無駄に広い。

 大広間が広いのは仕方がない。竜皇が大きいんだから。

 でも。

 その上の、人間に合わせた大きさの、いわゆるお城部分。

 このお城の住人が竜皇と巫女姫しかいないのに、つまりは巫女姫一人しか使わないのに。

「なんだって、こんなにやたらに広いのよぉー!!」

 『のよぉー、よぉー、ぉー』

 思わず上げた叫びが、廊下にこだまする。

 それに反応するものも、うるさいってとがめる人もいない。

「ああっ、もう! ここどこ!?」

 ちょっと、いやかなり、お行儀が悪いけど、廊下にしゃがみこんで見取り図を広げる。

 見取り図はあるけれど、このお城、地上というか大広間よりも上の部分だけでも六層はある。部屋数はもう、数える気にもならない。中には吹き抜けや、中階も多い。

 はっきりいって、迷路。

 竜皇のお城に帰ってきてから、私の部屋は上のお城部分を使いなさいっていって、大広間にあった天幕は片付けられてしまった。

 仕方がないから、今は大広間までの道が一番わかりやすい部屋を使っているけど、これだけお部屋があるんだから、一番気に入ったお部屋を使いたい。

 そんなわけで、私の日課はお城の探検。


 見取り図は竜皇がくれたけど、これだけじゃわからないから。絶対。


 気に入った部屋はいくつかあったんだけど、問題は。

「……もう一回行こうとしても、たどりつけないことだよね」

 見取り図に書き込んだ印と、回りの景色を見比べるけど、自分がいるのが何階なのかすらわからない。

 方向音痴じゃないはずなのに……。

 前に比べたら、すその長い巫女の略装じゃなくてソイエさんが作ってくれた服で、スカートが短い分動きやすいけど。

 別に、お城にいるのに巫女服を着てる必要はなくて、こっちの方がいいならそれでいいって竜皇が言ってくれた。

 それに『かわいい』って言ってくれたの。

 だから、私もこっちの方が好きだし、巫女服はやめて普通の服を着ている。


 今でも、月の三分の一くらいはソイエさんのお屋敷に行ってお勉強は続けてて、時折『秘密会議』に来るベルタさんやグレンさんとも会える。

 グレンさんが作ってくれるお菓子は、いつもおいしい。

 最近は、ソイエさんのお屋敷の厨房を借りて、お菓子の作り方を教えてもらったりしている。

 お城でも普通の服を着てるので、ソイエさんだけじゃなく、最近はベルタさんも楽しそうに私の服を選んでくれる。

 というか、ソイエさんが選んでくれる服でも、ひらひらふわふわだと思ってたけど、ベルタさんが加わると、レースやフリルが三割は増えて、かなり大変なことになった。

 落ち着いていて、かわいいというよりも、きれいなものが似合うベルタさんだけど、実はソイエさんよりも、かわいいものが好きらしい。 


 …それはそれとして。

 しばらく、見取り図とにらめっこする。

 たしかこの辺を歩いてたはずなんだけど、この廊下の飾りからすると、今いるのってこっちなんだよね。

 でも、間の廊下も部屋も通った記憶がないんだけど……。

 むぅ。まっすぐ来たはずなのに、なんで全然違う所にいるんだろう。気のせいかと思ってたけど、絶対おかしい。

 どうしようもなくなったら、竜皇を呼べば、大広間まで道案内をつけてくれるんだけど、最近はなんかくやしいし。

 でも今はそれよりも。

「おなか空いた……」

 朝ご飯を食べて、今日こそは自力で書庫に行くんだから、って大広間を出てからしばらく。

 今どこにいるのかよくわからないから、影をみてもいまいちよくわからないけど、時刻はきっともうお昼。

 神殿にいた頃は、もっと少ないご飯で、もっと働いてたはずなのにっ。

 見取り図と廊下とにらめっこ。

 手帳に書き出してある書き付けも見比べて、またうなることしばらく。

 ……だめ。わかんない。

「りゅーおー!」

 声を上げる。降参の合図。

 その声を聞きつけて現れたのは、小さな竜。翼をたたんで座れば、両手に乗るくらいの大きさの、竜皇の幻影。

「降参です。大広間に連れて行って下さい」

 目の高さに浮かぶ竜にお願いすると、先導するように羽ばたきだす。

 その後をついていく。

 いくつも角を曲がって、扉を抜けて、階段を通って、見慣れた大きな扉の前で、竜の幻は消える。

 扉を開くと、がらんと広い大広間。

『おかえり』

「ただいまー」

 出迎えてくれる竜皇とごはん。

 そえてある水差しで手を洗うと、見計らったように食卓の覆いが外されて、広がる湯気といい香り。

「いただきまーす」

 うん、おいしい。




 お腹が落ち着いた所で竜皇に質問。

「ねーねー竜皇」

『どうした?』

「やっぱりこのお城、おかしいと思うの」

 見取り図持ってるのにこんなに迷うなんて、絶対おかしいもの。

『確かに、あまり素直な造りではないが』

 そうだよね。

 普通、階段上って突き当たりの扉を開けたら今度は下り階段になってたりとか、扉を開けたら吹き抜けになってて落ちそうになったりとか、ないよね。

 でもそれ以上に。

「見取り図通りに歩いてるのに、全然違う所にでるよ?」

 竜皇はちょっと考えて。

『……ああ』

 ちょっとため息混じりにつぶやく声が暗い。

『先代の夫婦喧嘩の痕だろうな』

 ふーふげんか?

『空間をねじ曲げて、本来離れた場所をつなげる魔法がある。それが残っているのだろう』

「ふぅん。でも何でそれが夫婦ゲンカ?」

『いや、何でもない』

 ……気になる。

『先代の巫女姫が、暮らしやすいように居室と城内のよく足を運ぶ場所をつないでいた。その名残だろう』

 なるほど。それならわかる。

 でもなんで夫婦ゲンカなんだろう?

 竜皇じゃ上のお城の方には入れないと思うんだけど。ほかの人が暮らしてたことがあるのかな?

『目に付くところは直したと思ったのだが、まだ残っていたか』

 そして、私を見て。

『気に入った部屋が見つかったのなら、広間や書庫とつなげるのは簡単だが』

「ううん、ちゃんと歩く。それより、その魔法がかかっているところがあるなら、早く直して欲しい」

 そんな魔法がかかってたら、迷子になるの当たり前じゃない。

『見つけたら直しておこう』

「うん」

 さて、食後のお茶も飲んだし。

『午後はどうする?』

「絶対自分で書庫まで行く」

 今度こそ、今度こそ迷子にならないんだからっ!

 ぐっと拳を固める私を見て、竜皇は優しく笑うと言った。

『日が傾く前には戻っておいで。好きなだけ探検してくるといい』



 その後。

「……やっぱり迷ったぁ」

 結局、竜皇に助けてもらうことになってしまった。

 明日こそ、ちゃんと目的地に行くんだからっ。

竜皇のお城が迷路仕様なのは、竜皇側の事情も多々あり。

「先代」と言っているように、竜皇は一応世代交代します。

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