07話 怒り
マツノ・コーポレーションの研究室。松野ゆかり社長は、注射器を取り出すと、老人の顔をした子の腕に注射針を刺す。
「うううううう」
老人の子供は、うめき声をあげると、体がどんどんと大きくなって、怪物の姿へと変貌を遂げる。
「さぁ、侵入者を退治してきな」
「うおおおおおおお!!」
(こっちに来る!!)
中をのぞいていた奥田ゆずきは、急いで物陰に隠れる。ドアを開けて、怪物が目の前を通って行く。
ドスドスドスドス
怪物が去ったのを確認して、再びゆずきは中の様子を探る。
「若さを吸い取った後、使い道が無くて困っていたのよね。まぁ、あの子達は孤児だから、誰も悲しまないわ。それに、生まれてきた意味を持たせたあげた私に感謝して欲しいわ。生きてたって誰からも必要とされないんだもの」
(ひどい!!)
ゆずきは、怒りがこみあげて来て、
バン!
気がついたら研究室のドアを開けていた。
「ひどいじゃないか!! 必要とされないからなんて!!」
「突然誰なの? 警備員、この子供を捕まえなさい」
「はい!!」
「はい!!」
「コノセカイヨコワレテシマエ」
ゆずきが両腕を二人の警備員の方に向け唱えると、両腕を黒い闇が包み込む。警備員の動きが止まると、
「うっ」
「くっ」
スウウウ……
警備員が苦しそうな顔で空中に浮かんでいく。じたばた暴れ出すと、動きが止まり気絶してしまった。
「あなた古代の魔法使いだったのね。ここには監視カメラもある」
監視カメラのほうを指さす松野社長。
「あなたの顔もばっちり映ってる。警察に突き出してあげるわ」
「うるさい!! あなたを許さない!!」
バキッ
ゆずきが監視カメラに手を向けると、音を立てて潰れる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。欲しいものは何? お金? 地位? 私なら望むものをあなたにあげられる」
「そんなものいらない!! 必要とされない命なんて無い!! そんなの悲しすぎる!!」
ゆずきが黒い闇に包まれた両手を左右に広げると、
ドオオオオン!! ドオオオオン!! ドオオオオン!!
研究機材が次々に潰れて爆発していく。
「ひいいいいいい」
松野社長は、その場で腰を抜かす。研究所内は炎に包まれていく。
研究室へと続く廊下、物陰に隠れた森野くるみの前を怪物が通り過ぎて行く。
ドスドスドスドス
「なんだったの今の怪物は? それに奥で爆発が。何が起きてるの? ゆずきは大丈夫かしら。急がなきゃ」
鉄パイプにまたがり、空飛ぶ魔法で爆発が聞こえた場所へ、猛スピードで飛んで行く。
「あれ? こいつさっきの二人組の一人よね?」
廊下で、杉田かくの相棒、山崎ようすけが気絶していた。
「さっきの怪物にでもやられたのかしら。 そんなことよりゆずきを」
ようすけのことは気にせず、進んで行くと、煙と炎が上がる研究室が見える。中をのぞくと、
「ゆずき!!」
両手を黒い闇がおおうゆずきの姿が。
「闇の魔法を使っちゃダメ!! お母さんを連れ戻しに来たんでしょ!!」
松野社長が、それを聞き、
「そうか、この女はあんたの母親だったのね」
腰が抜けた体で、必死に懐から魔法銃を取り出し、意識を失っているゆずきの母の頭に突きつける。
「あんたの母親がどうなっても良いの? ここは退きなさい。退いたら返したあげるわ」
ドオオオオオン!!
爆発が誘発されて、どんどんと火があちこちに移っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ。 ……あつっ!! なにこれ!? どうなってるんだ?」
魔法銃を突きつけられた母を見て、我に返るゆずき。怒りに身を任せていたことを覚えていない。
「忘れたの? あなたがやったんじゃない。私の研究が、データが燃える」
「僕が…… 僕は何をしたの?」
両手を見つめるゆずき。手が震えている。
「怖い」
ペタン
床にへたり込むゆずき。それをくるみが抱きしめる。
「ゆずきは悪く無いのよ。お母さんを連れて、今はここから出ましょ」
「……うん」
「さぁ、今すぐ撤退するからゆずきの母親を返して!!」
松野が銃をしまうと、くるみはゆずきの母親をかつぐが、くるみ一人では重たくて持てない。
「重いよ。ゆずきなにやってるの? 手伝って!!」
「う、うん」
両脇からゆずきの母親を二人で抱え上げ、燃えさかる研究所を後にする。
その頃、倉谷らいちと杉田かくの戦いは続いていた。
「なんだか奥が騒がしいな。そろそろ終わりにしよう。ねずみみたいな戦いかたしやがって。出てこいよ!!」
「へへへへ。嫌なこった」
「うごおおおおおおお!!」
おたけびをあげて、工場内に怪物が入ってくる。
「アレ使ったのか。うわぁ!! こっちじゃないあっちだって!!」
怪物がかくに向かって突進していく。
ドゴオオオン!!
間一髪避け、怪物は機械に激突する。かくはらいちのほうへ走る。
「おい、助けてくれ!!」
「なんなんだよあれは!?」
「暴走してる!! 敵も味方も関係無くなってるんだ!!」
「パチパチアメ」
ボオオオオオオ
らいちが唱えると、火の玉が浮かび上がり、みるみる大きくなっていく。振りかぶるらいち。
「ちゃんと避けろよ」
「待て待て!! こっちに投げんなよ」
「むん!!」
らいちが、こちらに走ってくるかくに向かって投げる。後ろには追ってくる怪物。
「本気かよ!!」
スッ
かくが地面にうつ伏せになり避ける。
ボオオオオオンン!!
怪物に当たり。大爆発を起こす。
「おい!! 殺す気かよ!!」
かくがらいちに詰め寄る。
「忘れたのか。俺達は敵同士だぞ」
「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
立ち込める煙。
「ぐおおおおおおお!!」
爆発の煙の中から怪物のおたけびが聞こえ、煙の中から怪物が現れてこちらに突進してくる。
ドスドスドスドス
「まじかよ!?」
「ダメだ。びくともしない」
「なんとかしてくれ…………」
かくは目を閉じて身構える。何も音が聞こえなくなった。
「目を開けてみな」
かくが目を開けると、怪物は仁王立ちして、カチコチに固まっていた。最後の命の炎が燃え尽きていた。
「ふー。助かったぜ」
「なんで敵に助け求めてるんだよ」
「だってよ。困ったときはお互い様だろ」
ゆずきとくるみが母親をかついて奥から現れる。
「らいち!! 逃げるよ!!」
「おお。くるみでかしたぞ」
らいちがかくに手を差し出すと、
パシ
かくがそれに答えて握手をする。
「命拾いしたな。続きは今度な。楽しかったぜ」
「もうあんたの相手はこりごりだ。次は、別の形で会いたいな」
かくがらいちに、別れを告げると、森野くるみが、
「あんたの相棒、廊下で気絶してたわよ」
ようすけが気絶していたことを教えた上げる。
「ようすけが? ないやってんだよあいつは」
かくは、ようすけを探しにその場を後にする。
「パチパチアメ」
らいちが唱えると、黒いカラスへと形を変えて、ゆずきの母親を足で掴み空へと飛ぶ。くるみは鉄パイプを掴みまたがると、
「ゆずき、後ろに乗って」
「うん」
ゆずきを乗せて、空へと飛ぶ。
「待ってくれ!! 俺も乗っけてくれ!!」
振り向くと猫のこだまが、叫んでいる。
「どこに行ってたのよ。あんたは自分で帰れるでしょ!!」
「ちくしょおおおお!!」
猫のこだまを無視して、空高く飛ぶ。ゆずきが後ろを振り向くと、マツノ・コーポレーションから煙が立ち上る。
(老人の顔した子供たちは、大丈夫だったかな……)
飛んでいくゆずきとくるみを、ビルの上、黒いマントで覆い隠す男が見つめている。
「ゆずきくん。君の力は想像以上だ。やはり、予言の子」