06話 二次利用
奥田ゆずきは、老人の顔をした子供に教えられた道を進み。母親が連れてかれたとされる、客間の前へと到着していた。客間のドアを開けようとすると、中から話し声が聞こえてくる。
「あんたたちへましたでしょ?」
「いえ、そ、そ、そんなことは。ちゃんと連れて来ましたよ」
「じゃあ、これはなんなの?」
倉谷らいちが変身したカラスに、抱えられる森野くるみが、モニターに映し出される。
「こいつは!?」
「あんたたち、女も連れてくるのが仕事なの?」
「いやー。なんででしょう。誰なんだこいつは? なぁ、ようすけ」
「俺もわかんないですよ」
とぼける杉田かくと山崎ようすけ。客間では、マツノ・コーポレーション社長、松野ゆかりに二人が問い詰められていた。
ドアを少しだけ開けて、中の様子を覗くゆずき。
「!?」
ゆずきの母が、ロープで縛られているのを発見する。気絶しているようだ。
(お母さん!! 今助けるからね。でもどうしよう……)
「今回の報酬は無しね」
「そんなのないですよ。こっちは命かけてやってんですから。半分だけでも。いや、三割でも良いんで。家賃を払わなきゃなんないんですよ」
「侵入者を撃退しなさい。そしたら、倍払うわ。無理そうならアレを使う」
「アレはまだコントロールが難しいのでは?」
「良いから、撃退しに早く行きなさい」
「はい!!」
「はい!!」
(まずいこっちに来た)
かくとようへいが入口のほうに向かって歩いてくる。ゆずきは急いで物陰に隠れた。かくとようへいが廊下に出てくる。
「松野社長の相手は疲れるな」
「どうしますこの仕事? 相手は古代の魔法使いですよ」
「倍も報酬がもらえるんだ。やるしかないだろう。やらなきゃ飢え死にだ」
「ですね…… やりますか。アレ使うんですかね?」
「無理なら使うしかない。ただ、使うのはリスキーだな」
かくとようへいは侵入したくるみとらいちの元へと向かう。二人が去った後、廊下から、
タタタタタ
タタタタタ
警備員が二人走ってくる。そして警備員が客間へ入って行く。
「まつの社長。お呼びでしょうか?」
「この女を研究室に運ぶの手伝ってちょうだい」
「かしこまりました」
くるみとらいちは、顔をスカーフで隠し、会社の工場まで潜入していた。
「この先が、本社と研究所みたいね。今日が休日で良かったわ」
「ああ、先を急ごう」
先を急ぐ二人を、
ドオオオオオオオオン!!
突然の爆発が巻き込む。
「かくさん。やりすぎです。魔法機械壊しちゃったら、後で請求されるんじゃないですか? めちゃくちゃ高いですよこれ」
「そ、そ、そうだな。魔法火薬の量を間違えた。でもこれで侵入者もお陀仏だろう」
かくがらいちとくるみを狙って、通り道に魔法爆弾を仕掛けていた。
「パチパチアメ」
唱える声が聞こえると、
ボオオオオオオ
かくとようすけに炎の弾が飛んでくる。
「うわ!!」
「あちちちちち」
かくとようすけの足に火が移り、
パタパタパタパタ
火を叩き消す二人。
「俺の得意な魔法は火なんでな。爆発の炎が当たる瞬間消さしてもらった」
くるみを覆い、炎から守ったらいちがそこにいた。
「誰なんだよ。おまえは!! なんで一人増えてるんだよ」
「ちょっと派手に潜入し過ぎたか。ここまで来たら力技で通さしてもらう」
「パチパチアメ」
らいちが唱えると、
ボワ ボワ ボワ ボワ
両手からいくつもの火の玉を出し、ライチの周りを飛ぶ。
「ちょっと待て!! タイム!! 俺たちはな、生活かかってんだよ。こんちくしょー」
そう言うと、かくはようへいと話し合う。
「ちょっとだけ待ってやるよ」
ス ス ス ス
らいちは火の玉を消すと、かくとようすけを待つ。
「ようへい。俺たちに勝ち目はない。先に行ってアレを連れてこい」
「先輩一人で大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとか時間を稼ぐ」
くるみは、らいちが待っているのに疑問を持つ。
「こっちはゆずきの母親の命がかかってんだから、お情けなんてくれなくても良いのよ」
「そうだった。おーい。作戦会議大丈夫か? こっちは急いでんだ」
「ああ。ありがとう。おまえとは違うところで会いたかったぜ」
かくは服の中から、魔法爆弾を取り出し、くるみとらいちの方へ投げる。
ピ ピ ピ ピ ドオオオオオン
くるみとらいちの目の前、空中で爆発する。爆発が消えると、ようへいがいなくなっていた。
「もう一人がいないぞ。どこへ行った。くるみ、どこから来るかわからない。周囲に気を配れ」
かくは工場の隅にある、布にかかったものを開く。
バサ
あらかじめ魔法機関銃を隠しておいた。持ち上げると、
ダダダダダダダ
打ち込んで来る。
「隠れろ」
「きゃあ」
「奥の手は取っとくもんだぜ。へへへへ」
「パチパチアメ」
ボボボボボボボボボボボ
らいちが唱えると、火の玉が数十個浮かび上がる。
「手加減は無しで良いんだな!!」
「おいおい、そんなに浮かべてどうするんだよ」
「こうするんだよ」
シュッ
らいちが手を振ると、かくの元へと数十個の火の玉が飛んで行く。
「これはまずい」
かくは機関銃を放り投げて、その場から逃げる。
ドドドドドドドドドドドド
火の玉が次々と、ぶつかり爆発していく。
「くるみ。今のうちに先に行け。ここは俺一人で大丈夫だ」
「わかった」
ドドドドドドドドドドドド
火の玉が次々に爆発していくうちに、くるみは工場に置いてあった鉄パイプにまたがり、空を飛ぶ魔法で、爆発を飛び越えて先に行く。
ドドドドドドド……
爆発が終わるとかくが顔を出す。
「おい!! もう少し手加減できないのかよ。あれ? もう一人のお嬢ちゃんはどこ行った?」
「ちょっと、トイレに行きたいんだと」
「そっか、トイレね。ってこんなときにそんなわけあるか!! 乗り突っ込みさせるんじゃないよ!!」
「女の子にはいろいろとあるだろ。気が利かない男はモテないぞ」
ゆずきは、研究室に連れてかれた母の後をつけて、研究室の入口で機会をうかがっていた。中を覗き込む。
(お母さん。必ず助けるからね)
「アレを連れてきな。かくとようすけの二人じゃ足止めにしかならないだろう」
「はい」
松野社長が警備員二人に指示を出す。研究室の奥から頭に装置を付けぐったりした、老人の顔をした子供を連れてくる。
「二次利用させてもらうよ」
松野は注射器を取り出すと、
ブス
「う……」
老人の顔した子供に刺す。苦しそうな顔をすると、
メキメキメキメキ
体がどんどんと大きくなって、怪物の姿へと変貌を遂げた。
「うおおおおおおおおおお!!」