04話 リバース
「ううううん。ううううん」
朝、奥田ゆずきはうなされて起きた。昨日の夜、疲れた猫のこだまを自分の部屋に泊めた。ベットを取られたゆずきは仕方無く床で寝ていたのに、ベットで寝ているはずのこだまはゆずきのお腹の上で寝ていた。ゆずきは目を覚ます。
「ベッド貸してあげたのに、なんでこっちに寝てるんだよ。こだま様起きてください!!」
「うにゃ。もうちょい寝かしてくれ」
「起きてよ!! 重い!!」
「にゃー!? うるさいっての」
こだまはゆずきのお腹の上から退き。ゆずきは学校に行くための準備をはじめる。
「気持ち良かったのに」
「ふあああ。おかげでこっちは寝不足だよ」
リビングに行くと、母が朝食を用意してくれている。焼きたてのパンと、目玉焼きと、ハムに、レタスが出てくる。ゆずきはパン派だ。
「昨日ね。若返る魔法機を使ったら、顔がグチャグチャになったのよ」
「え!? そ、それは夢だよ!! だってお母さんの顔なにもなってないよ」
「たしかに覚えているのよね。魔法機も壊れてるし」
「それはあれだよ。あれ」
焦るゆずき。母は話を続ける。
「さっきマツノ・コーポレーションに電話したのよ。そしたら、全然話を聞いてくれないから、証拠の動画があるっておどしたら、すぐに謝罪に行かせてもらいますだって」
「えっ!? 来てもらわなくて良いよ」
「なに言っての!! 言うときは言わないとダメよ!! もう!!」
(どうしよう母は怒ると話を聞いてくれない…… こだま様に相談しよう)
自分の部屋に戻ると、窓が開け放たれ、もうこだまは帰ってしまっていた。
「もう、帰っちゃった…… 水晶で連絡取ろう。隠れ村に繋がれ」
ゆずきは、水晶に両手を当てて唱えると、
パアアアア
水晶が光りだす。
「なんじゃ?」
隠れ村の長老、森野まつにつながった。
「あのー。僕のおかあさんが、マツノ・コーポレーションに連絡しちゃったんです。しかも母が証拠があるとか言って、おどしたらすぐに来ますって」
「それはまずい。すぐにこっちでなんとかする。危ないからゆずきは学校に行ってな」
「わかりました。母をお願いします!!」
水晶の光が静まり、ゆずきは気持ちを抑えて学校鞄を持って家を出た。
「自分ではどうすることもできない。隠れ村の人たちを信じよう」
数分後、奥田ゆずきの家の前に黒ずくめの男二人が立っていた。
「ここがそうか」
「とっとと終わらせちゃいましょうよ。なんでこんなに朝早く呼ばれなきゃなんないんですか」
「ようすけ。仕事のときはシャキッとしろよ」
「大丈夫ですよ。かく先輩、やるときはやる男ですよ俺は」
「足引っ張るなよ」
マツノ・コーポレーションに雇われた裏の仕事を扱う男たち。杉田かくと、山崎ようすけは、上着の内ポケットから目指し帽を取り出し被る。
「良し、行くぞ」
「ミダレガミバッハ」
バチバチバチバチ
二人の男の頭上から雷が降り注ぐ。
「うわあああああ!!」
スカーフで顔を隠した森野くるみが、ほうきにまたがり、空を飛ぶ。かくとようすけの上空から雷の魔法を降らせた。かくは避けたのだが、ようすけは雷を受けてしまった。
「ようすけ!! くそっ。楽な仕事だと思ったのに」
「あなたたちがやってることがどういうことかわかってるの?」
「あぁ。申し訳ないが俺たちはこれで飯を食ってるんでな」
内ポケットから魔法機械を取り出すかく。手に収まるような小さな機械が、
ウィーン ガチャン ガチャン
形を変えて、銃の形へと変わる。
「お嬢さん。退かないとケガするぜ」
「やってみなさい」
パアアアアン!!
魔法の弾がくるみに向かって飛んでくる。くるみは両手を広げ真正面からそれを受けると、
ドン!! ドン!!
魔法の弾が二つに割れてくるみを通り過ぎ、家の塀にぶつかる。ゆっくりとかくへと歩み寄るくるみ。
「そっちが退きなさい」
「ふー。今日は割に合わないな」
「きゃあ!!」
ゆずきの家の中から叫び声が聞こえる。
「かく先輩から離れろ!!」
ようすけがゆずきの母親を羽交い締めで玄関から出てくる。
「しまった……」
ゆずきの母の頭には、魔法の銃が突きつけられている。
「でかしたぞ。さぁ、退きな」
「その人をどうするの?」
「さぁ。連れてこいと言われただけだ」
車に押し込まれる母。
「お嬢さん。じゃあな」
ブロロロロロ
ゆずきの母親は連れ去れてしまった。
その頃、ゆずきは学校で、山本先生による歴史の授業を受けていた。母のことが気がかりで勉強に手がつかずにいた
「XXXX年。魔法機械化法案が成立。それまでの魔法を禁止して、世界魔法戦争の鎮静化をはかった。それ以来大きな戦争は起きていない。ここはテストに出すぞ」
「!?」
窓の外でこだまが、こちらに手招きしている。
(母になにかあったのかも?)
「山本先生!! トイレ行って来ても良いですか? お腹が痛くて」
「おう、行ってこい。今大事なところだ。すぐ戻って来いよ」
「はい」
ゆずきが廊下に出ると、こだまがやって来た。
「言いにくいんだが、ゆずきの母が捕まった」
「え!?」
「すまない」
ゆずきは居ても立っても居られず、歩き出していた。こだまがゆずきの前に立ちふさがる。
「待て!! どこへ行くつもりだ?」
「どいてくれ」
あっけなくこだまの頭上を通り過ぎる。下駄箱で靴に履き替えるゆずき。
「やめとけ。俺たちでなんとかするから」
「いいや。僕には父がいない。ずっとお母さんと二人で生きてきたんだ。お母さんがいなくなったら僕は……」
「わかっているのか? 危険だぞ」
「それでも行かなきゃ」
ゆずきは、マツノ・コーポレーションへと歩みを進める。その会社は、この町で一番大きく、場所を知らない人はいない。
「わかった。潜入のプロの俺と一緒に潜入しよう。落ち着けっての。深呼吸して」
「ふー」
呼吸を整えるゆずき。
「本当だね?」
「あー、わかったよ。俺に任せろ。一人で行かせるよりはましか…… 死ぬかもしれないんだぞ」
「わかってる。お母さん、今行くからね」
「ふにゃー」
ため息をつくこだま。