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機械仕掛けの魔法世界で僕は一人  作者: やみの ひかり
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12話 世界に思うこと

「うまいです!! 最近、草と虫ばっかり食べてたんですよ。ありがとうございますらいちさん」

「うまっ!! ありがとうらいち」


 がれきの町。倉谷らいちは、杉田かくと山崎ようすけに、ヘンテコに曲がる街灯の下、食べ物をふるまっていた。


「良いって。困ったときはお互い様だろ。世界はどうなっちゃうんだろうな」


 奥田ゆずきが覚醒し、その後世界は一変した。建物が崩れ落ち、地平線は歪み、海が空に漂っていたり、遠くを見ると逆さまの地面を歩く人がいたり、ドアを開けると別の場所になっていたり、物理の法則を完全に無視した世界になっていた。


 ドン!! ドン!! ドン!!


「また攻撃してますね」


 空を見上げると世界魔法連合軍が黒い球体をめがけて、ありとあらゆる魔法兵器を放っていた。攻撃はびくともしない。黒い球体の中心にはゆずきがいる。


「食べ物恵んでくれたから、俺からは酒だ」

「ひっひっひっひっひ。お主も悪よのう」


 ゆずきが覚醒して数週間、3人はこの世界に慣れてきていた。そこへ、


「もう!! なにやってんのよあんたたちは!! いつの間に仲良くなって。朝からお酒?」


 森野くるみが現れた。


「おう、くるみ。今は朝なのか。空を闇が覆い隠してから、今が何時かもわからない。ずっと夜みたいだ。時間も狂ってるんじゃないか?」

「森野ざくろを探しに行くわよ!! あいつなら、この世界を直す鍵が見つかるかもしれない」

「俺が何も考えずにこうしていると思うか? 俺もそう思ってプロに頼んである。さぁ、酒を飲もう」


 らいちが言うと、かくとようすけは元気良く。


「おうよ!!」

「待ってました!! よ!! 日本一!! いや世界一!!」


「ダメよ!! 早くこの世界を直したいと思わないの?」

「一杯だけだよ。頭を柔らかくしないと、柔軟な発想は生まれてこない。そうは思わないか。くるみくん」

「なに言ってんのよ!!」


 シュタ


 そこへ猫のこだまがやってくる。


「あにき!! ざくろをかくまってる女がいる情報を手に入れました」

「ひ!?」

「猫がしゃべった!?」


 かくとようすけがビックリしているが、くるみはお構いなしに話を進める。


「さぁ。行くわよ」

「ちょっと待ってくれ。準備してからで良いか。相手は闇の魔法使いだろ?」

「そうね。何があるかわからないわ」

「じゃあ、かく。一杯注いでくれ!!」

「ダメ!! 行くわよ!!」


 くるみに、首根っこを捕まれ連れてかれるらいち。


「らいちまたな」

「食料ありがとうございました」


 別れのあいさつをするかくとようすけ。


「おい!! その酒、次に会うまで飲まないで取っといてくれよ!!」


 二人に別れを告げ、めちゃくちゃな世界を、こだまを先頭に移動する。道ばたでは、疲れて横になってる人や、誰かを探す人や、泣いてる子供をあやす人がいたり、混乱は続いている。


「ざくろをかくまってる女は、あの子みたいだ」


 布を頭から被って大事そうに食料をどこかへ運ぶ女の姿。


「きゃあ!!」


 らいちが人の目が届かないところまで来ると、女を羽交い絞めにする。


「しっ。俺は悪い人間じゃない。質問に答えてくれるだけでいい。なにもしない」


 コク


 うなづく女。


「山野ざくろという男をかくまってるのは本当か? 額にバツ印がある男だ」

「は、はい。あの人はどういう人なんですか? ゆずきとどんな関係が?」

「ゆずきを知っているのか? 君は何者なんだ?」


 パサ 


 頭の布を外す女。


「私は、ゆずきと同じクラスだった。姫野ことねといいます」

「なぜざくろをかくまってる」

「以前、ゆずきと話ているのを見たことがあるんです。それで、道に倒れていて」

「その男に会わせてもらえる?」

「わかりました」


 倒壊した建物の中に入ることねについて行くと、ドアを開けて部屋の中で横になるざくろがいる。


「ざくろ!! ゆずきに何をした!?」


 らいちが身構えるが、ざくろはゆっくりと体を起こす。弱っているようだ。


「もう少し小さな声でしゃべってくれないか? 頭に響く。私の体はそろそろ終わりみたいなんだ。幼少の頃に実験に実験を重ねられてね。体の中はボロボロなんだ。この世界に復習をしようと生き長らえてきた」

「それで、復習ができてうれしい? この世界をどう思うの?」

「…… 思っていた感情とは違う。あんなに心の底から願っていたのに、気持ちがちっとも晴れない」

「あなたに手伝って欲しい。この世界を直すにはどうしたらいい?」


 ざくろは重い体を持ち上げ、立ち上がる。


「ふう」


「ムグリゾワカ」


 一息つき、ざくろが唱えると、闇が立ち込め闇の船が出来上がる。


「さぁ、乗れ。この世界を直すには、ゆずきに会う必要がある。ゆずきを闇から引き釣り出す。私には無理だが、君たちには出来るかもしれない。ごほっ、ごほっ。私の時間はあまり残されていない。私の気持ちが変わる前に。早く」

「私も連れてってもらえますか」


 ことねが進言すると、


「君は古代の魔法が使えないが、君の優しさはゆずきに必要かもしれない。一人でも多いい方が良い。さぁ、乗りなさい」


 ざくろが、ことねに手を差し出す。手を握りことねが乗り込むと、みんながその後に続いて、闇の船へと乗り込んでいく。


 ザワザワザワザワ


 闇がみんなを包み込むと、闇の船は、ロケットの形に変わる。


「では、行くよ」


 ダアアアアアアン


 勢い良く建物の壁を突き破り、空高く昇って行く。


「ちょっと待ってくれ!! 俺も乗せてくれ!!」


 居眠りしていた猫のこだまは、大きな音で目を覚ますと、置いてかれていた。


「またかよ!! ちくしょおおおおお!!」



 ドオオオオオン ドオオオオオオン ドオオオオオオン


 目指す先には、ゆずきが中心にいる空に浮かぶ黒い球体。世界各国の魔法軍が、黒い球に攻撃を加えている。そして、その球体へ黒いロケットは突っ込んでいく。


 ドシャアアアン


「うぐうううううう」


 黒い球体に突入すると、苦しそうにするざくろ。


「大丈夫なのか。心なしか小さくなってく気がするぞ」


 ゆずきが生み出した闇で、ざくろが生み出したロケットが押しつぶされていく。


「がはっ!! 黙っていてくれ。集中しないと潰されそうだ」


 バシュ


 黒い球体の壁を越えて、内部の空間へとたどり着いた。中は晴れ渡る草原が見渡す限り続いている。


 ガガガガガガ


 ざくろが作った闇のロケットが地面に不時着すると、


 スウウ……


 消えていく。


「私はここまでだ…… すぅ…… はぁ……」


 呼吸が浅くなっていくざくろ。


「私は間違っていたのかもしれない…… すぅ…… はぁ…… 私のようなものを…… すぅ…… はぁ…… 無くすことに…… 全力をかければ良かった…… ごめんよお母さん……」


 ドサ


 倒れ込むざくろをくるみが抱きかかえると、ざくろの呼吸は止まっていた。


 サアアアアア


 風が草原を優しくなでる。目を閉じ、動かなくなったざくろの顔は笑っている。自分の少ない命をかけた最後のおこないが、ざくろを笑わせた。

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