表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの魔法世界で僕は一人  作者: やみの ひかり
1/14

01話 ゆずきと魔法

 ここは日本の笠原市にある『小泉学園』の教室。魔法が普通に使われている世界のお話。ただし、唱える魔法ではない。


「現在魔法は誰にでも使えるようにするために機械化され、オートマチック化されている。そして、魔法による優劣を付けないために、機械の装置を使わない古代の魔法は禁止されている。古代の魔法を使おうとしたもの。調べようとしたものも重罪として扱われる。みんな絶対にダメだぞ」

「山本先生そんなこと知ってます! 早くマリオネットを動かしたいです」

「わかったわかった」


 今日は操り人形の授業で、山本くにお先生は生徒達の机に小さな機械人形を配る。生徒たちは力を込めると思い思いに動かしていく。


「この人形は火事、有害なガスなど人が入れない危険な場所で使われている。みんなに配ったものは小さいが大きい機械人形もある。動かし方を勉強しておけば将来役に立つぞ」

「先生!! ゆずきがまた動かせないみたいです」


 生徒たちが動かしている中。ただ一人、奥田ゆずきの人形はピクリとも動かない。


「うーん…… なんで出来ないのかな。もう一度やってみて」

「ふん!! ぐうううう!!」


「あははははは」

「あははははは」

「あははははは」


 ゆずきはクラスの笑われ者だ。


 キンコーンカンコーン


 下校の時間。ゆずきは下駄箱で靴を履き替えようとすると、


「またか……」


 靴はビショビショに濡れている。ゆずきはイジメにあっている。


 ピチャピチャ


 濡れた靴を履き帰っていると、クラスメートの相馬りゅうたが話しかけてきた。


「おいゆずき!! 学校やめろよ。みんな迷惑してるんだよ」

「そうだそうだ」


 りゅうたの周りにはいつも数名の取り巻き達がついて来る。


(クラスで一番の成績で、魔法の機械を使うのもうまい。スポーツは万能だし、女の子からはキャーキャー言われている。なんでこんな嫌なヤツが人気なんだ)


「なににらんでんだよ!!」

「うぐっ」


 にらんでしまったゆずきが悪いのか。りゅうたが殴ると、ついてきた数名のクラスメイトから囲まれて、ボコボコにされた。ゆずきはもう限界だった。そして決めた。もう学校には行かないと。


 ドンドンドン!!


 翌朝、お母さんがゆずきの部屋を力強くノックする。


「ゆずき開けなさい!! 学校行きなさい!!」

「嫌だ!! ほっといてくれ!!」

「お母さん仕事に行くからね。休んで良いのは今日だけよ。わかった?」


 母が仕事に行き一人っきりになると、ゆずきはゲームの世界へと身をゆだねることにした。ゲームの世界でゆずきは一番だった。現実の世界では何をやってもうまくいかない。だけど、ゲームはやり込めばやり込むほど、レベルが上がり強くなっていく。そのことに快感を得て、集中して何時間もやっていたらいつの間にか頂点に立っていた。


「何をしてもちっとも使えない。魔法なんてこっちから願い下げだ!! 世の中腐ってる。僕はゲームの世界で生きて行くんだ」


 夢中になってゲームをしていると、


「ねえ。ねえってば!! 教えてよ」

「もううるさいにゃー。そこを曲がってまっすぐ行った角にあるにゃー」


 窓の外から声が聞こえてくる。のぞいてみると、そこには猫と話す少女がいた。


「猫と話す魔法なんてあったかな?」


 少女は猫に向けて両手を伸ばし、手のひらがうっすらと光って見えた。


(あれは古代の魔法!? 古代の魔法は重罪なのに)


 ゆずきはゲームを止めて後をつけてみることにした。花屋に到着すると、野菜の種を買っている。少女は買い物を済ませると、森のほうへと歩いていった。登山道を外れ、うっそうとした森の中へどんどん入って行く。


 キョロキョロ


 辺りを見回すと、崖の下の大きな石の前で両手を広げて呪文を唱え出した。


「ミダレガミバッハ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 大きな石が動くと奥に洞窟が続いている。少女が暗い洞窟の中に消え、大きな石が閉じようとしている。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「どうしよう」


 ゆずきは思い切って飛び込んだ。真っ暗闇で何も見えず、手探りで進んでいくと目の前に光が見える。


「なんだここは?」


 光の下へ出ると、村が広がっていた。ビックリしてそこを動けずにいたが、フッと我に帰る。


「彼女はどこに行ったんだろう?」


 少女の姿を見失った。洞窟は塞がれてもう戻ることもできない。目の前に畑があり、おじさんが野菜に両手を広げ呪文を唱える。


「アメンボアイウエオ」


 ポポポポン


 植えてあった木からトマトが次から次へと生えてくる。ゆずきは驚いた。山の中には数件の家がある。ここは古代の魔法を使うものが隠れ住む村だった。


「誰だ!?」

「僕はそのー」

「誰か来てくれ!! 村に侵入者だ!!」


 叫ぶと、すぐに何人も来て羽交い絞めにされ、地下牢へとぶち込まれてしまった。


「僕の人生は終わりだ…… 犯罪者の村に来てしまった」

「あんたどこから入って来た?」


 村の長老のおばあさんが来てゆずきに問いかける。


「森の洞窟から入ってきました」

「くるみはいるかい!!」

「おばあちゃんなに?」

「ちゃんと周りを確認したのかい? 町で魔法は使ってないね?」

「確認したよ。町では…… 道がわからなくて使いました。ごめんなさい」

「なに!? ついてきちまったじゃないか!! あれだけ町では注意しろって言ったのに」


 おばあちゃんはゆずきをにらむと、両手を向け魔法を唱える。


「アシガツカナイプール」


 ゆずきは体が小さくなっていくのを感じた。


「後で鍋にして食べよう」

「ごめんなさい。私のせいだわ…… 彼を許したあげて。お願いおばあちゃん」


 ゆずきは自分の手を見ると、白い毛が生えた動物の手をしている。頭を触ると、長い耳がついている。ゆずきはウサギにされてしまった。


「代々こうやってこの村を守ってきたんだ」


 ピョンピョン


 ゆずきは声を出そうとしても声にならない。


「こんなことやめようよ。この人は悪くない私が悪いの。なんとか彼を生かしたあげて欲しい。政府の人間でもなさそうだし、まだ未成年だよ」

「うーむ…… そうだね。かわいい孫のお願いだしね。じゃあ、彼が私達の魔法を使えれば考えてみよう。そうすれば、彼も犯罪者。私たちの仲間になる気が彼にあるかだけど」


 ピョンピョン


 必死でうなずくゆずき。


「ありがとう。ウサギの魔法を解いて、これじゃあ教えられない」

「逃げられないように半分だけね」


 呪文を唱える。


「アシガツカナイプール」


 ゆずきは少し大きくなり、ウサギと人間の獣人になった。


「チャンスは今日中だ。今日出来なかったら、ウサギにして食べるからね」

「わかったわ」


 長老は去っていき。村の人々も去ると、牢屋の中でくるみと二人っきりになった。


「あのー。僕は魔法を一切使えないんです」

「とにかくやってみましょう。この石を動かしてみて。手をかざして心で動かすの」


 野球ボールぐらいの石を目の前に置かれ、両手を広げてめいいっぱい力を入れる。


「ふぐううううう!!」

「違う違う。力んじゃダメ。気持ちを入れるの」

「うごけえええええ!!」


 ゆずきは命がかかっているから必死だ。でも石はピクリとも動かない。


「良い。私が手本を見せるわ。まず、両手を石に向けて、心の中で空気を掴むの。そして、呪文を唱える。呪文はなんでもいいの。楽しかったことや、うれしかったこと。子供の頃に強く残った思い出を言葉に置き換えるの」


「ミダレガミバッハ」


 彼女の手がうっすらと光ると、石はフワフワと浮く。


「どう、わかった? やってみて」

「うーん…… 出来るかな」


「アマイオカシ」


「ダメだ動かないや」

「もっと強く心を動かしたものを思い出して」

「……」


 ゆずきは子供の頃、母の実家で見た花火を思い出す。花火の大きな音。体に伝わる振動。はじめて間近で見た花火の感動がよみがえる。


「イナカノハナビ」


 ゆずきが唱えると、


 パアアアアアア


 手が光出し、石が飛び上がった。飛び上がり過ぎて、


 ドゴオオオオオン!!


「うわっ」

「きゃあ」


 天井に思いっきり当たり、牢屋の天井を突き破った。


「どうしたんだい!?」


 大きい音に慌てて長老が奥から出てきた。


「すごいのよ。彼の魔法の力は。見てよおばあちゃん。小さい石ころで天井がこんなに」


 長老が天井に空いた大きな穴を見ると、


「!?」


 細い目を大きく開けてビックリしている。ゆずきもビックリしていた。


「本当に僕がやったの……」

「あなた名前は? 私は森野くるみ」

「僕は奥田ゆずき」

「これであなたも私たちの仲間ね」


 長老がゆずきの目を真剣な目で見つめる。


「ゆずき。あなたは予言の子かもしれないね。」


 村にはずっと伝えられている予言がある。


『青き心を宿す強き者。新たな世界へ導き。そして救いの旅に出る』


 ゆずきは今まで使えなかった魔法が使えた喜び。それと同時に古代の魔法を使ったことによる不安に襲われた。古代の魔法を使ったものは重罪だ。


(これから僕はどうなっちゃうんだろう……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ