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十四 黒霞、捕縛

  ─ な、なんですって! カズマ様が黒霞くろがすみ! 

 小六は、すばらしい自制心を発揮してそれを口暗号で叫んだ。本当に叫んだら、聴力にすぐれた城中の忍び達が聞いてしまうだろう。

「俺が始めたことじゃない。殿様の命令だ」

「はああああ。なんか分かりませんが、そうなんですかぁあああ」

あんまり驚いていて目玉があっちこっちに行っている小六に、これも口暗号で事と次第を説明してやった。

「そうだったんですかああああ。しかしさすがカズマ様。あの手口、只者じゃないとは思ってたんですよねぇ」

「うん、で、なんで俺がこのことを打ち明けたか分かるな?」

「へ?」

「今夜、囲炉裏屋いろりやに忍び込む。おまえも手伝え」

嫌だとわめいたら、力づくでも手伝わせるつもりでいた。が、小六は目に涙を浮かべ、あわあわあわと口をふるわせ、口暗号さえ作れないままに、ただひたすら首を上下に振り続けたのだった。




 倉は三つ。大通りに面してまず高い白塗りの塀があり、その中に並んで立っている。塀から倉までには一本の木もなく、たとえば倉から外まで滑車を作り、倉の上から木をつたって外に出す、なんてこともできそうにない。その上囲炉裏屋はさすがに自分のあこぎさを自覚しているのか、襲われるのを恐れて用心棒をやとった。かなり腕のたつ浪人者だ。

 こいつが夜は寝ずの番をしている。

 さらには、黒霞を警戒して、夜間には役人が街中を徘徊している。囲炉裏屋は大通りに面しているので、半時に一度は誰かがすぐそばを通るのである。

 たとえ俵一俵だけなら盗み出せても、それを持って逃げ出せそうもない。

「どうするのですか」

と小六が聞く。

「つまりだ。今まで俺は金を盗んで、それを貧しい長屋連中の所まで持っていってばらまいた。米で同じことをやろうとするからまずいんだ。それをちぃと短縮すりゃあいい」

「短縮?」

そして、長屋の連中の所に、短い手紙が届くことになる。

 その夜。

 小六は火薬の上手でもあった。塀と、倉と、両方に火薬をしかけた。大通りからちょいと入った塀の横には、暗がりにまぎれて三台の大八車が待機している。それぞれに四人の男がついている。長屋の男達だ。黒霞への信頼と、あまりの生活の苦しさに、この暗がりへやってきた。それぞれに顔にほっかむり。

 「いいか小六、これは時間との戦いだ」

屋敷のそばにひかえたカズマが口暗号で、塀のそばにひかえた小六に念を押した。

 役人が塀の外を通りすぎていく。これからしばらく、役人が最も遠くまで行くのを待たなければならない。

「よし、いいぞ」

カズマは手で合図をした。小六がうなずき、導火線に火をつけた。火は煙をたててすすみ、そして、

 ガ  ────── ン ! 

塀と倉の壁が、同時にくずれた。

 見回り中の街中の役人が聞いたはずだ。かけつけてくるのにどれだけかかるか。

 男達が入ってくる。倉の中には米俵。小六が既に一つ運び出し、大八車につみあげた。そして見張る。

 カズマは屋敷の方についている。最初にでてきたのは、やはり用心棒。

 こいつに来られちゃまずいんだよ。

 カズマは用心棒の前に立ちふさがった。

「きさま。黒霞か。いい度胸だ」

用心棒は刀を抜いた。

 玄関から囲炉裏屋の主人があわてふためいて飛び出してきた。

「う、わわわ。倉が、倉がぁ!」

 こいつはほっといていい。

 カズマも刀を抜いた。

「きさま。刀を使うか。生意気な」

「時間が無いんだ。急いでいくぞ」

すっとカズマの呼吸が止まった。集中される。集中。相手のスキを見つけ、その隙間に、刀がすいこまれて行く。

 ほんの一瞬。

 用心棒のわき腹から血がふきだした。

「ううっ!」

たいした傷ではないがたまらず体を折って下がった頭を刀の鞘で打つ。用心棒はきゅうううと息を吸いながら倒れた。しばらくは目を覚ますまい。

「一丁上がり」

カズマは塀の上に飛び上がった。見ると、どさくさにまぎれて近所の連中も群がってきている。

「米だ! 米だ! 」

「持っていけ! 全部出しちまえ!」

 おっとこりゃあひどい騒ぎになったな。しかし長屋の連中が逃げるのにはもってこいだ。

 カズマは般若の面の下でほっと息をはいた。

 囲炉裏屋はおろおろしているが、相手の人数と勢いに手が出せない。

 そして、役人が来た。

「待て待て! おまえら何をしておるか!」

その前に、カズマは煙幕玉をぶつけた。たちまちひろがる煙。

「な、なんだこれは!」

裏路地の大八車は一杯になっていた。

「よし、もういいかな。出してください」

小六達はすばやく出発した。ガラガラと音がするがしかたがない。

「黒霞様。ありがとうございます」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

十二名の男達が口々に礼を言う。

 小六はすっかり照れて、いやぁ俺はただの手伝いで、なんて余計なことを言っている。



 道は役人の通らない道順を考えに考えて選んである。しかしそれでも海の傍の長屋まで、目立つ大八車。それもガランガランと音をたてながらではとても無理だ。そこですぐそばの川に小舟を四槽用意した。これに乗せていったん海まで出、海から長屋へと運び入れるという寸法になっている。

 「よし、川までつっぱしって!」

 しかし、念入りに作られた計画も、完璧には決していかないものだ。

 爆発音を聞いた時、見回りをしていた中に、下っぱの新米役人がいた。当然かけつけようとしたのだが、なにしろ未熟なもので、道に迷ってしまったのだ。

「あれぇ、いったいどこからあの音はしたんだ。変な裏路地に来ちまって」

そして、いきなり目の前に現れた大八車にぶつかったのである。

「「「 わっ! 」」」

と驚いたのは両方だ。下っぱ役人は、その大八車に米俵がつんであるのと、男たちがみんなほっかむりをしているのに気づいた。

「お、おまえら!」

「しまった!」

小六は刀を抜いて、男達に言った。

「行って!」

「は、はい!」

大八車はガラガラと進む。役人は呼び子をふきならした。

ピ ──────── ッ!

高い呼び子の音が響く。

 それは、囲炉裏屋で役人達を牽制していたカズマの所にまで聞こえた。

しまった! 見つかったのか! 

 カズマは走り出した。そして、爆発音に向かって出動していた奉行所詰めの役人達もその呼び子の音に向かって集まり出していた。その数五十余名。

 そしてカズマが屋根を走り、小六の所まで走りついた時、小六の首には既に捕り縄がまきついていた。

 飛び降りざまその縄をぶった切った時、カズマは手に手に棒と縄を持った役人達の真っ只中にいた。

「す、すみません! すみません!」

「小六、俺の肩に足をかけて、屋根に飛び上がれ!」

「えぇっ!」

小六はためらった。

「おまえがここにいると足手まといなんだ。おまえが逃げたら俺も逃げる」

「・・・」

 その通り、自分がここにいる限り、カズマが逃げだしはしないということを、小六はよく知っていた。

「す、すみません!」

カズマは周りから湧いて出る長い棒を次々になぎ払った。そして両足でふんばった。小六はその肩にとびあがると、踏み台にして屋根の上に飛び上がった。

「一人逃げたぞ!」

「追うんだ!」

小六は駆け抜けざまに餌玉をなげつけた。

「なんだ?」

何事もおこらないことで役人たちが一瞬ひるんだとき、ざわざわと辺り中からはいでる灰色の物体・・・。

「うわぁ!」

「ネ、ネズミ!」

甘美な餌の匂いに誘われた飢えたネズミたちが役人たちの周りに大集合したのだ。

「ぎゃああああっ! ネズミは嫌いなんだよ!」

「誰か猫! 猫持ってこい!」

カズマも相手を殺せないぶん、戦うのは不利とふんだ。こうなれば奥の手。棒におさえつけられたまま、竹筒につめた催涙薬に火をつけた。

「こっちは煙だ! 何だ!」

「う! 目が・・・!」

目つぶしである。一時的に目が痛くなり、ひどく涙が出て開けていられなくなるのだ。唐辛子の粉だからしばらくすれば自然となおる。

 カズマは地を蹴り、役人達の頭を次々に踏んで走った。役人達の悲鳴が聞こえる。そして近くで最も大きな家の屋根に跳びうつった。

「屋根だ! 追いかけろ!」

はしごがかかる。

 遅いよ。

カズマは間発おかずに向こう側にとびおりた。いや、飛び降りようとした。

 油断だったのだ。相手がただの役人と思ってしまった油断。

 飛び降りた地面がグニャリとずれる妙な感触があった。まずい、と本能が感じた。しかし遅かった。地面を踏んだ瞬間にビインと縄のつっぱる音がし、地中にうめられた網が宙へつり上がり、カズマは網に封じ込められて、空中へ持ち上げられていた。

 しまった ──────── ッ! 

ここに降りてくるのを見越して・・・! しかしこの短い時間にこんな罠をしかけられる奴がいるなんて! 誰が! 

 一方の網の先が結びつけられた木の枝に、その相手が姿を表した。カズマは逃げられないことを悟って、暴れるのを止めた。

 半兵衛はんべえだった。黒霞を井蔵いぞうと思い込んだ半兵衛が、この捕り物に手を貸したのだ。

「刀ではその網は切れんぞ。ついでに言うと、もがけばもがくほどしまってくる。おまえはもう逃げられん」

そう、そのことをカズマはよく知っていた。この網はカズマ自身が半兵衛と二人で考えて開発したのだったから。刀も網にはさまったら最後動かせない。

 カズマはわけを話して逃がしてもらおうと思った。しかしもう遅かった。役人達がすぐ横の屋根の上に群がっていた。

 カズマは下に下ろされると、刀を取られ、網にかかったままで四方からさらに縄をかけられ、うかつに近づくとやられると思うのか、遠くからはしごで散々殴られた。

 黒霞は捕まってしまったのだ。

 そして竜北の城下町を長々歩かされた。家々から顔を出して黒霞が縄をかけられて引きたてられてゆくのを皆が見送る。

 カズマは考えていた。

 捕まって殺されるのはしかたがない。こうなれば殿様の名は決してださずに死んでみせよう。じいちゃん、がっかりするだろうな。なんて皮肉だ。

 黒霞の正体が俺だったと知れれば、城の人間たちは何と思うだろう。驚くだろう。呆れるだろうか。仲間は何と思うだろう。忍術を悪用したと思うだろうな。俺が死んで、竜北は大丈夫だろうか。じいちゃん、あきらめずに俺より使える跡取りを鍛え上げてくれよ。竜北に何かあれば雪姫が不幸になる・・・。雪姫・・・。ああ! 雪姫にだけは知られたくない! 試合にわざと負けた程度の話じゃない。雪姫はあんなに俺に、黒霞に心を許してくれたのに! どれほど俺を憎むだろう。人というものを憎むだろう。雪姫はすぐに江戸にたつんだ。うまくいけば雪姫の耳に入らないままになるかもしれない。奉行所であっさりと打ち首にでもなって、このまま首が埋められてくれれば・・・。

 しかしそう簡単には行くはずもなかった。カズマのつれていかれたのは竜北城前庭だった。ズシャッと庭先に蹴り倒された。

 役人が十人ばかり、それぞれ自分の手柄だとばかりに並んでいる。半兵衛はひっそりとひかえている。廊下の向こうから、奉行の佐々木成清ささきなりきよがどかどかと裃の盛装で歩いてきた。と思うと前庭に面した大広間の雨戸がガラガラと開かれた。そして竜の絵が描かれたふすまも両側に開く。その中には、藩主、古賀兵右馬こがひょうまが、眉根にしわをよせて、立っていた。よく見れば、そばに測室お蔦どのやトキ姫ヒヨ姫サキ姫も好奇心に目をひからせて座っている。

「殿! 黒霞を引っ捕らえてございます。そのおりには殺さずに城まで連れてこいとのおおせでしたので、明け方ではありますが、ここに引っ張ってまいりました」

奉行の佐々木が意気揚々と申し述べた。

 カズマは縄と網にからまり地面に転げたまま、殿様を見上げた。殿様は今までに見たことも無いような困惑した顔をしている。

 俺の不手際にさぞお腹立ちだろう。

 カズマも自分の無様さにいいかげんぐったりしていた。

 ですが殿様。心配しないでください。俺は殿様の命令だとは決して言いません。

 カズマはそれだけのことを面ごしに目で伝えたつもりだった。しかし殿様の眉根は広がりそうもなかった。

「私は町奉行の佐々木成清である。奉行所ならきさまと面と向かうこともないだろうが、今日は特別だ。私の質問に直接答えよ。きさま、盗賊黒霞に相違ないか」

「ああ」

カズマは答えた。奉行は満足気に殿様を見た。

「捕まってしまったらしょうがねぇや。だらだら命ごいなんかするつもりもねぇ。どうかこのまま、打ち首にしてもらいたいもんですね」

「おまえをどうするかはこの私が決める。その前にいろいろと吟味することもある」

その会話を、サキ姫が中断した。

「のう、それよりも、まずその者の顔が見たい。面を取ってみよ」

「ま、はしたないことを」

とお蔦どのは言ったが、なに、四人とも、実は黒霞の顔が見たくてうずうずしているのだ。 

「おっと、この面は取ったら爆発するようになってんだ。悪いことは言わねぇから頭ごと切り落として、面は取らずに埋めてくれ。今更関係無い人間を殺したくないんでね」

佐々木は半兵衛に視線を送った。半兵衛が顔を横にふる。そんな仕掛けはできないことは半兵衛にはお見通しだ。カズマは半兵衛を憎みたくなった。

 「どうしてそこまで面を取られるのを嫌がる? どうしても取ってみたくなったわ」

佐々木は役人の一人に面を取るよう合図した。カズマは覚悟を決めた。こうなれば、雪姫にだけは知らせないでくれるよう殿様に慈悲を乞うしかない。

 しかし、あきらめて顔をあげたその時、気づいたのだ。裏庭に通ずる廊下の端に、青ざめた雪姫が立ち、祈るように手をあわせながらこちらを見ているのを。

 だめだ!

「待て! やめろ!」

カズマは顔にかけられた手を振りほどこうと暴れた。

「それだけはかんべんしてくれ! このまま首を切ってくれ!」

「往生際が悪いぞ!」

役人達は棒でカズマをおさえつけると、網をとりのぞいた。

「や、やめろ! 殿様! お慈悲だ! このまま殺してくれ! 殿様! 殿様!」

カズマは殿様に向かって叫んだ。しかし、その方が都合がいいはずの、ただ、聞いてやれ、と一言言えばいいはずの殿様は、立ちつくしたまま一言も声をださないのだ。

 いくつもの手が、カズマの顔に向かって伸びる。

「やめてくれ ──── っ!!」

しかし、どうしようがあっただろう。面は取られ、カズマの顔は、皆の前にさらされた。 不気味な静寂がひろがった。

 最初に声を発したのは半兵衛だった。

「これは、これは何かの間違いじゃ!」

そしてそれでやっと眼前の事実が事実であるのを理解したように、一斉に皆が騒ぎだした。

「カ、カズマか!」

「本当にカズマなのか!」

「あやつは腰抜けではないか!」

カズマは歯をくいしばっていた。

 雪姫・・・!

 愕然としていた奉行は、殿様のこわばった表情を目に止めた。そして、さすが殿様と近しいだけあって、事情を薄々理解した。カズマにしゃべらせると、えらいことになる。

「う、う、う、ん、きさま、何ということを! 吟味はいらぬ。切腹許さぬ。首切り役人を呼ぶのも惜しいわ。今ここで打ち首じゃ!」

そして、ズラリと腰の刀を抜いた。

ああ、せめて雪姫に言い訳をしておきたかった。好きで裏切っていたんじゃない。

 カズマは奉行の刀を見上げた。しかし、その目の前に、何か白いものが立ちふさがった。「「「「 あっっ! 」」」」

皆が一様に声をあげた。

 雪姫が。

「待ってください!」

両手を広げて刀とカズマの間に立っている。

「ゆ、雪姫様」

奉行は振り上げた刀を止めた。

「そこをおどきください」

「この者は私の用人です。打ち首など許しません!」

「しかし、その男は罪人なのですよ。藩を裏切る大悪人。とにかくそこをどいて。お立場を考えなされ」

「私はじきに藩主の正室となる身、命令です、この者を殺すことはなりません」

「そのような権限はそなたにはない!」

と叫んだのはお蔦どのだ。

「佐々木、切っちゃって。かまわないから、さっさと!」

これは、トキ姫。女達は悔しくてたまらないのだ。腰抜けだ腰抜けだと、散々バカにしてきたカズマが実はかの有名な、藩中の女子衆が密かにあこがれる黒霞だったということが。カズマをバカにすることで雪姫もバカにできていたはずだったのに、逆転してしまった。

黒霞をずっとそばにつけていたなんて。なんて、うらやましい。

「早く切って! 切って! 切って!」

 女達の言うことはどうあれ、ともかくお家の一大事である。佐々木は雪姫の腕をつかんで横にどけようとした。

 と、雪姫はその手を振り払うと、地べたにひざをついた。ひざをついて、そして、両手を地面につけ、そして、佐々木に、役人たちに、兵右馬に、お蔦どのに、サキ姫に、ヒヨ姫に、トキ姫に、頭を下げた。

 譜代の姫君が、鬼姫と呼ばれ誰にも弱みを見せなかった誇り高い姫君が、今、庭先に手をついて土下座をしていた。

「お願いします。カズマを殺さないでください。カズマはただ藩のことを思ってやっただけです。私利私欲のために盗みを働くような者ではありません。よく話を聞いてください。調べてください。カズマは忠義者です。殺しては藩の為になりません。お願いです。お願いします」

「やめてくれ!」

カズマはどうしようもなく叫んだ。なんてことだ、なんてことだ。

「やめてください! じいちゃん! 雪姫を止めてくれ! 死ぬより・・・死ぬより辛い・・・!」

雪姫はハッとしてカズマを振り返り、赤くなった目を見た。そして、ふうっと息を吐いて、言った。

「私は、また何か、間違えたか?」

「 ! ! ! 」

そんなわけはないと言いたかった。どれほど嬉しいか伝えたかった。ただ、尊い雪姫に、命よりも大切な雪姫に、そんなことをさせるより死んだほうがましなだけなのだと。

 しかし声を出してしまえば、大声をあげて泣きじゃくる、無様なことになりそうで。

 ひげの半兵衛が雪姫に寄り添い、立つのに手を貸した。雪姫の足は震えていた。半兵衛は兵右馬を見やった。

 そして、雪姫は勝った。藩主古賀兵右馬は、カズマを殺したくなかった。

「なるほど。わかった」

殿様はゆっくりと言った。

「殿!」

という非難の声々には耳をやらず、

「まずは裁きじゃ。・・・牢へ入れておけ」


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