謎の艦隊の悲劇とフロンティアの発見 2
遅くなりました
討伐軍護衛艦隊旗艦 ヘレナ艦橋
「どうするか…こんな報告は出せるわけないよなあ」
「戦列艦及び輸送船は全滅。龍母は健在だが…」
「迎撃に出した8騎と連絡が途絶えたまま。恐らく撃墜されたか…」
困惑と帰還した時の処罰の恐怖が艦内に渦巻く中、更なる恐怖が彼らを襲う。
ジパング 危機管理センター内
「……以上、男女合わせて750名が捕虜として投降、既に武装解除されています」
「取り敢えず送還先は702管ですね」
702管とは、第702管理刑務所の略である。702管は死刑囚などの凶悪犯罪を犯した者が入る。今回は一応未知なる生物という扱いの為、高度なセキュリティと750名を収容できる候補地ということでここが挙げられた。
「それと防空司令部からですが、敵機動部隊と思われる艦隊を発見したとの事です。追撃戦に移行しますか?」
国防大臣が非常時のみ全軍の最高司令官となる総理大臣に指示を仰ぐ。
「私としては追撃戦に移行しても構わないと思うね。まあ、国民感情は上手くコントロールすればいい。ただ、問題は文字通り殲滅したところで向こうが侵攻を諦めてくれるかどうかだ。これで泥沼の戦争が始まったら困る。一応僕は反戦主義なんだ。保守系だけどね」
「報道各社の世論調査によりますと、本土侵攻をすべし、との意見が50%なのです」
『えっ?』
上層部は確かに制裁は必要だと誰もが思っていた。実際急ピッチで打ち上げた準天頂衛星が軍港らしき場所を発見しており、そこから今回の艦隊が出撃したと考えており、空爆を実施しようとしていた。その為に野党対策などをしてきたのだ。
しかし幸か不幸か、この必要は無くなった。
「まあ、煩雑でやり甲斐のない野党対策が楽になったな」
この日の会議は予定よりも早く終わった。尚国防省や軍は反撃作戦の立案、外務省は和平交渉の時のマニュアル作りをしていた。
「…それで第一陣は壊滅と」
昔から戦時のみ使われてきた玉間は歓声で響き渡る場所のはずだった。しかし今、現実は詳細不明の大敗の報告のみだった。
「野犬どもを使わせろ。盾にはなるはずだ」
「我が国で有力なベルサ海賊団を使いましょう。そうすれば他の海賊団も動かない訳にはいかない」
通商大臣は提案をしながら部下を呼び寄せる。皇帝はただ頷いた。
「皇帝閣下、発言をよろしいかな?」
「なにかあったのかね?シルジス第4軍総司令官」
手を挙げて発言を求めたのは、このギスギスとした会議で似つかわしくない穏和な笑みをたたえた老人である。
「なに、第4軍を指揮する者としてですが、第二陣は今よりも強力な部隊を展開しなくてはならない。そこでわが虎の子の龍母以下10隻を派遣したいのだが」
玉間は一瞬の沈黙の後、様々な意見が飛び交った。
「正気か!?エビランスは我が国唯一のナリⅡA型を搭載しているんだぞ!新型魔導機関の研究はどうするつもりだ!」
「ここでアレを失ったら戦力の9%が吹っ飛ぶぞ…」
「流石にエビランスの直接投入は無理だ。だが予備として後方待機させよう。それなりの護衛をつけるように」
某月某日
龍母エビランス部隊が到着したため、第二次討伐作戦が決行された。参加兵力は前回よりも大幅に強化された。
パルコ級戦列艦×30
ラシックス級龍母×10(エビランス除く)
インス級輸送上陸艦×65
更に各地から集まった海賊船団計160隻も集まり、合計265隻という大艦隊になってしまったのだ。
警戒中の潜水艦からの通報から3時間後緊急集会が行われた。
「総合計は265隻です」
「今回せる艦艇は?」
「巡視船含めても80隻あまりです」
「くそっ。こうなったら使用期限切れの弾薬を消費しましょう。安全性はまだ十分にあります」
「い、いきなりかね!?」
「構わん。数で対応できないなら質で勝負するしかあるまい」
『…』
5分後、翔鶴空母打撃群を初めとする管轄内の艦艇に出撃命令が下された。
2324時 空母翔鶴CIC
(静かな夜だな)
艦長大滝洋一は、薄暗いCICルームのキャプテンシートに座りながら、インスタントコーヒーを啜って、モニターを見ていた。
旗艦翔鶴を中心に重巡1、軽巡1、一等駆逐2、二等から三等駆逐がそれぞれ4隻の合計13隻がピケットラインを引きながら17ノットで航行している。
既にF-14Ⅱ戦闘機とF/A18スーパーホーネットブロック3が飛び立っており、上空支援はF-14Ⅱが一個小隊のみである。
相手にとって不足はない。重巡やこの艦は兎も角、軽巡以下は最新鋭の艦隊防空システム『イージスシステム』を搭載している。
同時補足・追尾可能な目標は128で、その中で危険と判断される10の目標を同時迎撃できる。これは今までの防空システムが1~2の目標しか追跡出来なかったことを踏まえると、如何にこのシステムが優秀かが分かる。それでも世界戦争の際は少なくない戦没艦がいる。
このシステムを搭載しているのは、
球磨型軽巡洋艦(5隻)
長良型軽巡洋艦(6隻)
川内型軽巡洋艦(3隻)
オマハ級軽巡洋艦(10隻)
上記は全艦近代化改修済み。世界戦争による影響で延命措置をとったが、すぐに終戦。解体するのは惜しいのでやむを得ず近代化改修をして配備されている
阿賀野型軽巡洋艦(4隻。以降の艦は全てブロック2搭載艦)
大淀型軽巡洋艦(2隻。次世代型対艦巡航ミサイルのテスト艦になっている)
ブルックリン級軽巡洋艦(9隻。大型化されている)
セントルイス級軽巡洋艦(2隻。テストタイプのソナー搭載。実験艦を兼ねている)
アトランタ級軽巡洋艦(11隻。強襲揚陸艦などの護衛任務用に設計変更された。CICの自動化向上計画のテスト艦に全艦指定されている)
クリーブランド級軽巡洋艦(世界戦争長期化を受けて、ブルックリン級などの設計図を用いて簡易建造された。しかしながらファーゴ級登場まで最大の艦船であった)
ファーゴ級軽巡洋艦(2隻。ファランクスの代わりにレーザーを搭載)
ウースター級軽巡洋艦(2隻。船体はスティルスを意識した形になっている)
吹雪型一等駆逐艦(24隻。全艦秋月型駆逐艦をベースとしたブロック2に近代化改修済み)
初春型駆逐艦(6隻。現在は3番艦までが近代化改修済み)
白露型駆逐艦(10隻)
朝潮型駆逐艦(10隻)
陽炎型駆逐艦(19隻)
夕雲型駆逐艦(19隻)
秋月型駆逐艦(12隻。最新のイージスシステムパッチ2を搭載。吹雪型も同様)
二等駆逐艦
上記は駆逐隊の旗艦を務められるよう設計されており、いずれも満載排水量は1万トンを超える。しかし下記の駆逐艦は、旗艦設備を一切装備せず、8000~9700トンと比較的小型である。
しかしながらこれ以上記述するのは話が進まないので後日説明する。
ただシステムは大量生産によりコストが下がっているとは言え、未だに高価であり、これより廉価な防空システム搭載艦も就役している。
味方航空隊の敵艦隊攻撃への攻撃が始まった。おそらく全機帰還するだろう。
そして彼らは一体何隻残るのか。
そんな事を考えながら啜るコーヒーはいつもよりも不味かった。