謎の艦隊の悲劇とフロンティアの発見 1
ジパング(アルナから見ればフロンティア)から最も近い軍港、サレターから観艦式以上の大艦隊が出撃した。
詳細は
パルコ級戦列艦×15
ラシックス級龍母×4
インス級輸送上陸艦×20
計40隻である。尚、サレターには第二陣も停泊しており、第一陣が橋頭堡を確保し、彼らが主に征伐軍先鋒となる。
アルナ軍艦は昔ながらの帆があるものの、魔導機関を搭載しており、最大戦速は9ノットである。
武装は魔道砲数十門と白兵戦の時に使うマスケット銃である。
魔道砲は射撃精度は絶望的だが、その門数と命中時の威力で補う。
マスケット銃も精度が低いため、主に牽制用だ。
龍母とはワイバーン版の空母である。龍母のワイバーンは長期間の航海の耐えられるよう品種改良がされている。
インス級は完全武装の兵士100名が搭載できる。但し武装は建造費削減の為一切削られている。
さて、この大部隊と最初に対峙したのは第三艦隊ではなく、哨戒中の5000トン級巡視船『さくら』だった。
『さくら』は第二期遠洋型大型巡視船計画で設計、建造された
たけ型巡視船の1隻だ。武装は
76ミリ単装速射砲×二門
20ミリ対空機関砲×1
多機能艤装設置機×2
多機能艤装設置機とはジパングが冷戦期にあった頃、第二海軍の海上警備隊の巡視船にも軍艦と同じような兵装を設置し、数での優位を得ようとした際に開発されたものだ。これは対艦ミサイルと対潜ロケット弾を使用することが出来るため、フリゲート艦とも呼ばれ、国際社会から叩かれたこともある。
閑話休題
『さくら』は転移騒動により、国防に綻びが出るのを防ぐためにEEZ外に出向いて海上警備をしていた。
元の世界の不審船だったらここまでしなくても接続水域内から監視なりすればいいのだが、異世界は全てが今までとは違う。そもそも何故我々が見知らぬ大気でも生きているのかさえ科学的根拠が無いのだ。よって、念には念を入れてここまで来たのだ。
「レーダーに艦影あり。大小様々ですね」
「報告も挙げろよ。それと取り舵一杯。並走する」
数十分後、両者は距離3000まで接近した。
「帆船ですが、煙が出ています。蒸気機関を積んでいるのでしょうか?」
「監視を続けろ。奴さんどの船も大砲を積んでいる」
あと15海里で接続水域の時点で事件は起きた。
「司令官、未確認船を発見しました」
「…あれか。大きいし全面鉄で出来ている」
「小型砲を確認しています。フロンティアの船かもしれません」
「ああ。だが相手は二門。殆ど相手の船のことは分からないが、沈めてしまえばそう変わらん。総員砲撃準備。目標、巨大白船」
メガホン等で命令が伝達し戦闘準備がすぐに整う。これだけでも練度の高さが分かる。
「全艦射撃準備よし」
「撃ち方始め!」
各艦から放たれた無数の緑色の光弾がさくらを狙う。
さくら艦内
「取り舵一杯!」
「とりかーじ!」
「全砲門照準を合わせろ!反撃に出る!」
「全砲門、ロック」
突如不審船が砲撃を開始し、慌てて回避運動を行う。その間に反撃するために主砲二門を照準した。
「射撃開始!」
毎分80発の速射砲が火を噴く。それが2倍なので毎分160発という濃密且つ高精度な弾幕が戦列艦を襲った。
76ミリと言えど装甲が皆無な戦列艦には一撃が致命傷となった。過貫通する砲弾も無いことにはなかったが、弾薬庫に命中したりマストや魔導機関が損傷し戦闘不能になるなど、見るも無残な状況になっていた。その中でも必死に巡視船に近づき白兵戦に持ち込もうとした艦は更に20ミリ機関砲の洗礼をあび堅い樫の木で覆われた船体を貫き、殴り込む兵士だけでなく、船員も一掃した。
そして生き残った戦列艦の砲撃は、なんとさくらの船体に弾かれてしまった。
討伐軍護衛艦隊旗艦 ヘルナ
「損害多数にこちら側の砲撃は弾かれた!?馬鹿も休み休み言え!蛮族のやつらはどんな魔法を…!」
「司令官、敵ワイバーンが高速で接近中。迎撃の許可を」
「よし分かった。敵ワイバーンを撃破した後に支援攻撃を行え。火炙りにしてくれる」
『レーダ要員からです。敵飛行体が接近中。数、8』
『海軍の警備艇と湾岸戦闘艦3隻が支援に来ます。更にヘリ空母『シェナンゴ』の戦闘ヘリ10機が迎撃に向かう模様です』
基本的に軍艦や巡視船は新たに皇帝が公用語に指定した1つの漢字によって構成されている。しかしヘリ空母のみは同盟国に建造を依頼したため、もうひとつの新たな公用語のカタカナになっている。
ジパングの軍人にはあまり意味が伝わっていないが、艦名に関しては皇帝の趣味だとして割り切っているので特に問題は起きない。
《こちらピースアイ。リンカーン隊、聞こえるか》
『こちらリンカーン・リーダー。聞こえるぞ』
リンカーン隊はヘリ空母シェナンゴ所属のAH64DNアパッチロングボウを指し、ピースアイとはE767AWACS/早期警戒管制機のコールサインである。
《大型輸送船4隻はやはり空母だったようだ。未確認の飛行物体が8騎接近中。全て落として構わない。その後は本物の輸送船を叩け。安心しろ、鈍足かつ無防備だ。好きなものを皿に取れ》
『了解。リンカーン・リーダーより全機へ、前菜を頂くぞ。遠慮はするな、メインディッシュはしっかり用意されている』
『了解!』
兵装モードをいじりAIM-9に切り替える。ワイバーン如きに1発何百万もするミサイルを使うのは癪に障るが、使用期限切れの弾薬を一掃するチャンスだということで好きなように無駄使いしていいそうだ。潤沢な予算編成の割に厳格かつ無駄使いを絶対に好まない上層部がいいと言うのは、異世界に来てしまったからかもしれない。
グラスコックピットにIFFがレッドのターゲットが映し出される。確かに8騎いる。速度はこちらと変わらないが、アウトレンジで終わらせてやる。
《リンカーン・リーダー、エンゲージ》
ピースアイが言い終わらないうちに、2発目を撃つ。更に2,3,4番機も2発ずつスパローを撃つ。有り得ないが、撃ち漏らした場合は残りの機がやるだけだ。
《ナイスショット。全騎撃墜したぞ》
『じゃあ、早速メインディッシュと行こうか』
《ああ。リンカーン隊、好きなものを取れ!》
新たに映し出されたターゲットに使用期限切れのヘルファイアミサイルが、襲いかかる。CIWSさえなく、ソフトキルもできない輸送船はただの標的艦だった。
10機から放たれた計80発のミサイルは輸送船20隻に食らいつく。1隻あたり4発という軽くオーバーキル気味な一斉射は上陸部隊を文字通りの全滅に追いやった。
「後は敵打撃部隊か…頼むぞ」
一人誰にも聞こえない声で呟く。こうして上陸部隊は壊滅し、敗走中の旗艦ヘルナに更なる味方の不運が伝えられた。
AH64DN…AH64Dの海軍版。オリジナル機