招集と混乱
俺は車内で今までのことをふと思い出していた。
俺は、前世の記憶がある。前世はサラリーマンをしていて優しい嫁と子がいた。決して裕福ではなかったが、キチンと子供にも高校まで通わせるところまでは行けた。上は来年で受験生だった。親元を離れ一人、都立大学へ進学すると言っていたなあ。
まあ、俺が事故で轢かれて死んだから、その後どうなったのかは分からない。
生まれ変わった世の中は混沌としていた。凶作に何度もの大戦。臣民から貴族、そして聖職者に官僚までもが強く導いてくれる指導者を欲していた。
その願いを聞いた神が司祭にお告げをしたらしい。
《転生痣というものを付けた子が生まれる。その子を皇帝として向かい入れよ。そうすれば願いはかなう》
そうして全土で探したら俺がいたわけだ。あれよあれよという間に祭り上げられ帝王学を学んで、皇帝に就任した。
そして18歳の時に国の改革に行き詰った時、天使と名乗るものからタブレットを渡された。
レノボとかそーゆーやつね。
なんでもアドバイスや、プロジェクトに必要な知識が全部詰まっていた。
其処からさらに改革は進み、工業化などを推し進めていった。
6年後、我がジパング合衆国は現代~近未来の技術力を持った超大国となった。
勿論干渉戦争は起こる。ナポレオンの時でさえ横やりが入ったんだ。しかも自分たちだけ裕福になり、他の国には援助をあまりしなかったのも理由の一つだろう。
俺が転生した世界は現代と変わらない。ただアメリカなどの列強や物量主義のソ連、中国などが存在しておらず秩序がなかった。
よって大規模な戦争が起こりやすい。しかも現代戦だからかなりの死傷者が出る。
イラク戦争くらいの被害が年に1回起こっていると思えばいい。大陸間の戦争はあまりないが。
自衛戦争は正義ではないが決して間違っていない。しかし戦争を終わらせるための戦争でもない。
そこで俺は究極の選択をした。大陸には、一つの国で十分だ。つまり覇権戦争を善と肯定したのだ。
同じ大陸の敵対国家は電撃戦や首都に対する無差別攻撃をし、そして別大陸の利権目当ての介入戦争を止め、一番従順そうな国家に予算や物資を与えた。
7年後、人類の一割を犠牲にして世界平和を成し遂げた。そして地球連邦構想の開始が目前に迫る中での、異常事態。
首相官邸 危機管理センター
「皇帝閣下が見られました。全員起立」
首相をはじめとするこの国のトップが勢ぞろいしている。
俺が黙って席に着くと次々と着席する。
「どういうことになっているのか、だれか説明してくれ」
「本日零時丁度、全国で震度2の小規模な地震が発生しました」
科学気象大臣が口早に答える。
「全国?大陸国家なのに?」
疑問が思わず口に出る。彼はゆっくり首肯し報告を続ける。
「はい。その後今度は気象衛星などの受信がすべてストップしました」
「それは科学省の衛星の不具合かコンピュータに何らかの影響があったのでは?」
「いえ。車載用及び船舶等民間用GPS衛星も同じです」
「防衛省管轄の監視衛星やGPS衛星なども同様の不具合がほとんどのタイムラグなしで通信が途切れています」
国交大臣や防衛大臣も口をそろえて不具合があると言う。
「…まさか、〔愛鷹〕が狙われている?」
愛鷹とは我が国の省庁の情報を一元管理しているスーパーコンピュータだ。
これにより横のつながりが格段に太くなった。
「それも見越しましてマンパワーでの緊急診断を行いましたが、クラッキングの痕はありませんでした」
ディジタル庁長官が即座に否定する。
まさか前世の俺がガキの時によく読んでいた転移ものが、実際に起こるとは。
会議室に重苦しい沈黙が漂い始め、そろそろまずいなと思ったときに男がドアを蹴り破る勢いで入室してきた。
「どうしたんだ!?」
「落ち着き給え。陛下の前であるのだぞ」
「す、すいません。なにぶん緊急の案件でして」
「今現在が緊急事態だがね。まあいい。今度はどうした」
「転移前に領空外で飛行していた航空機が突然領空に大挙して現れ、大変危険な状態になっているそうです。各空港に受け入れを求めていますが、既に地方空港がキャパオーバーになり、国際空港も過密化でさばき切れないそうです」
「……私としては、もはや時間の解決のほかないでしょう」
俺が口を開く前に国交大臣が釈明する。
「それに関しては収まるまで待つしかない。次の議案に移ろう」
超長期戦の兆しをひしひしと感じながら、予期せぬ課題の解決に取り組みはじめた。