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お悩み相談からの指南役

「ううーん……」


放課後、シオンを地理学に強い先生のところまで送っていったジェニファーは唸っていた。


シオンは本当に勉強家で、放課後は誰かしら教師のところへ通っている。

それも、華やかで人気のある社交やダンスや将来性の高い国政や経済学ではなく、生徒に見向きもされない地味でマニアックな教師を師事して押しかけるので、教える方もたいそう熱心なんだとか。


それはともかく、いま、ジェニファーが唸っているのは、シオンとの仮りそめの関係についてだった。


「どうしたものやら」


「そんなにお困りなら、僕が相談に乗りましょうか」


「え?」


突然の申し出に振り向けば、見覚えのある男子が笑っていた。


「ウィルヘルム君」


「久しぶりですね、ジェニファーちゃん」


有力な伯爵家子息のウィルヘルムは王太子の側近候補で、今年入学してきた一年生だ。

王太子は更に下の学年なので、実際に入学した時に困らないよう伝手を作り、情報収集に務めることで側近としての力試しとされているらしい。


「入学式の時に見かけたけど、大きくなったわね」


「いつの頃と比べてるんですか。それに、まだジェニファーちゃんにも追いついてないのに」


拗ねた仕種のウィルヘルムに、ジェニファーは笑ってしまう。


「学校には慣れた? 王太子様とは……あ、もしかして、私の噂の真相を確かめに来たとか?」


「そんなとこです」


「黙ってて……って頼んでも、無理よね」


「はい。僕の主はアルマン王子で、立場を追われるつもりもないので」


「わかってるわよ。言ってみただけ」


「それにしても、噂自体は否定しないんですね。でも、本気で慕っているわけじゃないんでしょ?」


「……やっぱり、わかっちゃうわよね」


ジェニファーは頭を抱えて項垂れた。


「僕はジェニファーちゃんを知ってるからね。だから、相談に乗るよ?」


「でも、王太子様に話しちゃうんでしょ」


「まさか。謀略とかじゃない限り、僕にだって、プライベートくらい存在するよ」


にっこり言われて、ジェニファーはウィルヘルムを観察してみる。

あどけなさを残しつつも明るく社交的で、知的な会話も苦とせず、身だしなみも清潔感がある。


「ウィルヘルム君ってモテる?」


「王太子の側近候補なので、そこそこは」


だろうなとは思ったけど、本人が綺麗に認めてくれるとは想定外だった。

けれど、おかげで相談する決意が固まった。


というわけで、ジェニファーは詳しい経緯は省きつつも、困りごとを打ち明けてみた。


「溺愛の秘訣、ですか?」


「そうなの。そこが、どうにもわからなくて……」


シオンからの要求は、他の令嬢を寄せつけないよう溺愛している振りをしろ、だ。


その溺愛というのが難しかった。


溺れるように愛する――どうやって?


肝心のシオンは勉学に時間を割きたいからと、具体的な方法はジェニファー任せだ。

とりあえず、他の令嬢が近寄る隙を減らすために一緒にいるようにしているものの、単なる番犬にしかなっていない気がしていた。


「え、何、その面白い発想。だいたい、公爵令嬢が侍っているだけで、効果はあるでしょ」


「そうだけど、注目度としては依然高いままなの。シオン様の根本的な願いを叶えるには、他の令嬢達の興味を根こそぎ刈り取る必要があると思うのよ」


「つまり、他人が呆れて諦めるくらい見せつけたいってこと?」


ジェニファーは的確な把握をしてくれたウィルヘルムに頷いた。


これでも、ジェニファーなりに努力はしたのだ。

参考書として最新の恋愛小説を片っ端から読み漁り、それなりに乙女達の理想を蓄積している。

但し、手当たり次第に集めたせいで、どこまでも悲しいだけの結末やら、心情など二の次な過激展開を売りにしたものまで引っかけてしまったのは、ちょっと考えものだったと思っているけど。


「腕を組んだり、食べさせたり、実践できそうなことは、すでに取り入れてみたのよ」


物語の中では蕩ける笑みや赤く染まった表情を返されていたトキメキシーンだったのに、シオンはほぼ無反応。

他に返してもらえたのは、ジェニファーの分のサンドイッチと呆れ顔くらい。

むしろ、仕掛けた方のジェニファーばかりが赤面させられているのだから悔しい限りだ。


「他に浮かぶのはお姫様だっこくらいなんだけど、絶対、絵にならないわよね」


ジェニファーはこれでも真剣に悩んでいた。

なのに、ウィルヘルムは思いっきり吹き出した。


「ジェニファーちゃん、自分が抱き上げる側で考えてるでしょ。面白すぎ!」


お腹を抱えてヒーヒーと笑っていたウィルヘルムは、おかけで、笑い収めた後に目つきの悪くなったジェニファーのご機嫌とりに大層苦労した。


「本当にゴメン。ごめんなさい。お詫びに協力するから、許して」


「……真面目に?」


「真面目に」


そういうわけで、ジェニファーにはウィルヘルムという溺愛の指南役がつくことになったのだった。




スター☆ありがとうございましたヽ(*>∇<)ノ


かなりの不定期ですが、最後まで更新していく気力をいただきました(っ`・ω・´)っ

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