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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最高に村人Aは暇すぎるので黒幕を引き受けてみた。〜ステータスMAXだけど、勝てるやついる?〜

作者: 代々城



「よし。これで今日は終わりだな…!」


村の外れにあるモンスターもいない森林で木刀を作り、ひとり素振りをしていたオレは、ノエル・モーゼス。ここの村人として暮らしている。


幼馴染の女勇者。エドガー・ランスが村を旅立ったきり、この村には一匹たりともモンスターは出てきてはいない。むしろ、異常なくらいの聖域と化している。


きっと、勇者のエドガーが大魔法でこの村自体を守ってくれているのだと思うが、それがむしろ平和すぎて、いつか悪い結果となってこの村を襲うのだとすると恐ろしくてたまらない。


だから、日々こうして木刀を振るって、自身のステータスを鍛え上げ、来るべき時を待っているのだ。


「ただいま〜」


「おかりなさい。ご飯、作ってあるわよ」


「ごめん。後で食べるよ」


「そう…? 今日もよく働いてくれてありがとね〜」


「大したことじゃないよ。母さん」


「亡くなったお父さん譲りの青い髪、とても綺麗…ちゃんと髪は洗ってる?」


「洗ってるよ! 恥ずかしいからやめてって!」


今日の夜、森林での自主訓練から家に帰ってきたオレは、自室で自分のステータスを確認していた。

普段は農村の畑を耕して働いているが、夕方。仕事終わりにこうして、木刀を振って鍛えている。


「しばらく、ステータスを見ていなかったからな。 でも、最近ステータスが上がってる気がしないんだよな。 なんでだろう? なんだか最近目も疲れてやすくて、よくステータスも見えないし。メガネでも作ろうかな…」


ステータスを確認してみたが、レベル15で止まっている。ランクはおそらくEランクの冒険者ぐらい。

ランクには、EからSSSまで存在し、レベルも1から999までさまざま。オレはその一番下というわけだ。


「まあ、木刀振るってるだけじゃレベル上げには期待できないか。 これじゃあ、骨折り損だな〜」


木刀を振って、鍛え上げて、約10年の日付がたっている。8歳の頃から初めて、今は18歳。

幼馴染との差は開いていくばかりで、自分は何もできていないという喪失感。


心のうちでは求め続けるばかりで、剣も魔法も才能がないと現実を釘で打ち付けられている感覚だった。


「考えてもしょうがない。 夕飯でも食って、今日は早めに寝てしまおう」


ステータスを見るのをやめて、1階のリビングルームに降りて母の作ったご飯を食べた。

母と楽しい会話をしながらも、この平和で暇な時間と日々が続けばいいのに、と思うばかりだった。



****



「んんっ…」


目を覚ますと、そこには真っ白な空間が永遠に続いていて、壁もないような感じに見えた。


「ここは…?」


確か、オレはベットの上で眠っていたはずで…これは夢の中?

夢にしては謎の浮遊感が身体に感じた。


「目を覚まされましたか?」


「えっと…あなたは…?」


声がする方へ振り向くと、そこにはいつの間にかある黒いローブを着た女性が立っていた。

顔はローブを深く被っていて分からなかったが、金色の長い髪で肩幅は狭く、女性らしいスッキリした体格をしていた。


「確か、オレはベットの上で寝てたはずなんですけど…もしかして、ここは夢の中ですか?」


「そうですね。 そうとも言うし、あなた、いえ。ノエル様の精神世界とも言えるでしょうか」


「ノエル様…? なんでオレ、様付けされているんですか? どこかで会いましたっけ?」


「私達は、ノエル様のスキルの1つにすぎません。 ここは精神世界でもあるので、もし再び会ったとしても忘れてしまうこともあるでしょう」


「そ、そうなんですか…へ、へえ〜」


と、しか言う他ない。ここがもしこの人の言う夢じゃなく、精神世界だとしても自分の中は真っ白だ。

なんて感想しか持たない。ホント、不思議な時間だ。


「で、これはいつ解けるんですか? 夢でも精神世界でも、どっちでもいいんですけど、自覚した以上こうゆうのって現実に戻って目を覚ますんじゃ…」


「焦らなくても大丈夫です。 私が重要なことを話し終えたら、この世界も解けるので安心してください」


「重要なこと?」


「はい。 これからノエル様の身に起こる重要なことです。 これから先、目を覚ました次の日に、魔王の娘が魔物達を連れてこの村を攻めてきます。 だからこそ、今。ノエル様には〝命の果実〟をここで食べて神に等しき永遠の命を得てもらいたいのです」


「永遠の命って…そんな危ないことして、どうするって言うんですか。 オレには戦う才能も魔法もないのに…」


「ステータスをよくみてください。 ノエル様のステータスは15じゃなくて、1500なんです。 戦うには十分な力をお持ちです」


オレは慌てて、自分のステータスを再び見る。



ーーー



LV :1500


HP :19999999


MP :19999999


魔力量 :79999999


攻撃力 :79999999


防御力 :79999999


スキル :邪悪の樹(クリフォト)


称号 :ムーラスク村の村人



ーーー



「ファッ!!? なんだこれ!?」


自分でも驚いた。てっきり、レベルが15ぐらいしかないと思っていたが、ここまで木刀の素振りだけで強くなっているとは思いもしなかった。目は確かに悪かったが、レベルが上がらない原因はここにあったのか。


「ご理解していただけましたか? ノエル様は勘違いしていらっしゃっただけで、この10年は無駄ではなかったのです。 レベルが上がり切ってもなお、MAXを超えて1500なんていう途方もない力を得たのです」


「じゃあ、その話が本当なら、この村の人たちもみんな救えるですか?」


「はい。 ですが、反転世界にいる魔王からの攻撃を防ぎきるには命の果実を食べ、永遠の命を得てから〝この世界の黒幕〟になるしか方法はありません」


「オレが、この世界の黒幕!?」


「勇者では人間が存在できない反転世界に行けません。永遠の命、すなわち人間を捨てたノエル様の力があれば、この村も、世界ですらも救えます」


「そんな大掛かりなことを、オレが引き受けるのか…」


ただの夢とかでしか思ってなかったオレだったが、徐々に重い話についていけず、頭の整理がつかない。

ただの村人だったオレが世界を操る黒幕になるのか、と思うと武者震いがする。


不安だけが心に残り、ただオレは冷や汗をかくことしかできなかった。


「ノエル様、この命の果実はここに置いておきます。 食べるか食べないかはあなた様が決めてください。 ただ、言えるのはノエル様の住む村に危機が迫ってきていることだけです」


そう告げると、命の果実という果物を白い床に置き、1人消えていった。

名前も顔も分からない女性。彼女はただオレの中で警鐘を鳴らしていったのか。


「もう…どうせ夢なら、クッソ! どうにでもなれ!!」


床に置いてある命の果実を手に取り、一口かじると、甘い果汁を口いっぱいに感じる。

その瞬間。白い空間の奥から黒い大波がやってきて、それにオレは溺れるようにして目を閉じた。



****



「はあ…はあ…」


目を覚ますと、オレは昨日と変わらずベットの上で寝ていたようだ。窓を見ると朝になっている。

上着の下は冷や汗でぐっしょりしていて、気持ちが悪い感じだった。


「そうだ…! ステータスは?」


ステータスを再びみてみると、レベルは1500のままだった。

一安心というかなんというか。あれはただの夢ではなかったということがわかった。


オレの努力は無駄ではなかったと思う反面、精神世界? 夢の中に出てきた彼女の言葉を思い出す。


(ただ、言えるのはノエル様の住む村に危機が迫ってきていることだけです)


瞬時に普段着に着替え、母と共に家の外に出て村の様子を伺った。


「ノエル!! この村に魔物が入ってきそうだぞ!!」


「えっ…?」


村を一歩出た場所から、何やら結界に遮られて入れない多くの魔物たちがぞろぞろと張り付いていた。

良い予想は当たった。この結界もあの勇者エドガーが大魔法で張ったものだろう。


その結界がこの村を守ってくれているのだ。とりあえずは一安心だが…


一方、悪い予想も当たってしまう。夢の中から彼女が言ってきた村の危機というのは本当だった。

昔からオレが恐れていたことがこんな形でやってくるとも思ってなかった。


「どうする…村長! このままでは守ってくれているこの結界も破られてしまうぞ!」


「そう焦るでない…勇者様がこの村の危機を察して、帰ってきてくれるじゃろう。 きっと、この結界も勇者様が張ってくれたものじゃ。 今は、この村の平和を祈るしか…」


「それじゃあ、遅い!! オレがこの村を守る」


魔物が今にも結界を破って入ってきそうな前で、オレは1人、隠し持っていた大剣を構えた。

オレのスキルがなんなのかは分からないが、レベルは1500もあるんだ。きっと1人でも守りきれるはず。


「何を言ってるの!? 私たちと一緒に逃げるのよ! モーゼス!」


「大丈夫だ、母さん。 オレのステータスはMAXなんだ。 きっと、みんなを守れる」


「どうしてしまったの!? モーゼス! あなたはただの村人のはずじゃ…」


「来るッ!! 下がって母さん!!」


結界の前で群がる魔物たちを先導する一匹のリーダー。赤竜の尻尾に長い赤髪。白いローブを目深に被っていているが、美しい顔立ちをした少女。きっと彼女が魔王の娘だ。


その少女が、この村を守っている結界を両手と両ツメで切り裂いて、大きな穴を開けると、少女が合図するように魔物たちが大勢で襲ってくる。


「目をとるように見えるぞ。 魔物たちの動きが遅い!! やれる!!」


「ただの村人の小僧が!! 舐めた真似をとるなあ!!!」


巨体な姿をしたオークがオレの目の前にやってきて、それも巨大な棍棒を振り下ろしてくる。

しかし、オレには当たらず、電光石火な速さと相手の見えない速度でオークに大剣で切り裂いていく。


「っぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


「次ッッ!!」


この村の住人たちは魔物たちに怯えて逃げ惑っている。オレ1人でこの村人全員の命を救わなきゃならない。

昔のオレではできなかったことだが、今のオレならこの状況を乗り越えられる!


「うらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


光の速さで幾度も1000を超える魔物たちを切り裂き、なぎ倒していく。その時間、わずか数十秒。

残り、2500ともいう敵を相手するが、まだ体力の10分の2しか使っていないのだ。


「く、くそっ!! 下がれ、下がれッッなのだ!!!」


これにはたまらず、魔王の娘も下がるよう魔物たちに命令するが、もう遅い。

オレは、全3500体ともいう魔物たちをたった60秒で倒し切ってしまったのだ。


「こ、こんなはずでは…」


「なかったか…? オレのステータスはMAX。 レベルは1500じゃ歯が立たないよな。 君の名前は?」


「ローライズ・ノール…私たちを一体どうするつもりなのだ…」


「どうするも何もないよ、ここから消え去って二度と来ないでもらいたい。 そうすると約束してくれるなら、殺しはしないよ」


「この様子じゃ、私の力で持っても勝てないのだ…いいのだ。でも、」


「でも?」


「約束する代わりに、私と取引してもらいたいのだ…」


「取引…?」


「ノエル様!! こいつの話を聞き入れてはいけません!!」


どこからか、聞き覚えがある声を耳にする。オレの伸びた影から1人の女性の姿が現れ、オレの肩を引き止める。

黒いローブを着た女性。自分の精神世界、夢に出てきたあのひとだった。


「あなたはあの時の…!」


「ええ、私はノエル様の精神世界に現れた、リリスと言います。 以後、お見知りおきを」


「リリスさんの正体っていったいなんなんですか…?」


「私はノエル様のスキル、邪悪の樹(クリフォト)の具現化した姿でもあります。 この姿であなたを〝黒幕〟に導く者ですね!」


「前から、言ってる黒幕ってオレがやっぱりやらなきゃならないものなんですか…」


「命の果実を食べて、人間を捨てた以上自分に責任を持ってもらわなければなりません! 村を救ってもらうだけじゃなく、いずれは世界もぜひ救ってもらいたいのです!」


「い、命の果実を食べたのか!? あの神にも等しい命を授けられる果実を食べたのか!!?」


「えっ? あ…うん」


命の果実をオレが食べたと知った途端、ローライズという名前の少女はオレの目の前で瞬時にひざまずいた。

まるで永遠の師に忠誠を誓う、尽くすようなそぶりを取られて、オレも困惑した。


「わ、私。 ローライズ・ノールは今日からあなた様への忠誠を誓いますのだ。 あなた様への多大なるご無礼とご迷惑をどうかお許しくださいなのだ…」


「急にこの態度の変化はいったいなんなのでしょうか…不気味すぎますね…」


「そうだね…どうしたの? 一体…」


「魔王の一族にとって、永遠の命を得られる〝命の果実〟は絶対に手に入れるべき悲願の代物だったのだ。 それ故、他のものに手に入れられてはいけなかった…あなた様に越された以上、神にも等しい存在には服従するのが、魔王一族のしきたりなのだ」


「って、ことは君のお父さんである魔王も、オレに付き従うってことになるのかな?」


「おそらく順当にいけばそうなるでしょうね…でも」


「でも…?」


「きっと、そう簡単に引き下がらないのが魔王です。先を越されたことに怒り狂い、さらに増援をこちらに送ってくるでしょう」


「それじゃあ、この村どころか、世界の人々に危険が降りかかるじゃないですか!?」


「そうなりますね…」


「だから、永遠の命に固執する父上をあなた様の手で止めてもらいたいのだ!! それが私の取引なのだ!」


「…ここまでくるともう取引というより、ただのお願いに近くなってきましたね」


ローライズの必死の懇願にオレも胸を打たれるものがあった。オレの父親は昔から冒険者で、魔王討伐の途中、命をなくしている。魔王一族に恨みが無いと言えば嘘になるが、この子にはなんの罪もないはずだ。


魔王は許せなくても、この子の約束は守ろうと今、心に誓った。


「わかった。 君のお父さんを絶対に止めてみせるよ」


「…ありがとうなのだ」


静かに涙を手でぬぐいながら、嬉しそうに微笑むローライズ。オレのスキルの分身であるリリスもその方向で納得してくれたみたいだ。


「では、さっそく反転世界に行く準備をしましょう。 手持ちぶさですから、何か持っていかないといくらノエル様がお強くても、魔王の居場所を案内するこの子を守るには大変でしょう」


「話は全部聞いていたわ…ノエル」


「お、お前は…エドガー!?」


「ひさしぶり」


村のそばにある森林の中から、ギルドを引き連れた女勇者エドガーが現れた。

彼女はどこかオレに不満ありげに近づいてきて、互いに顔一歩手前で止まった。


「私が張っていた結界が破られたのが心配になって来てみたら、このありさま。 なんで勇者の私より、あんた村人の方が強いわけ? マジで意味わからないんですけど」


「ははは…なんかごめん」


「で、今から魔王を倒しに行くんでしょ? 私たちは行けないの?」


「それもごめん。 反転世界にいる魔王を倒しに行くには魔物か、人間をやめたオレだけなんだ。 命1つじゃ、人間の身は耐えられないらしい」


「そう、じゃあ、これ。 せんべつ品、持っていくといいわ」


「ありがとう…エドガー。 やっぱり昔から優しいんだな」


「べ、別にあんたのためとかじゃない! 勘違いすんな、バーカ!!」


エドガーから、高等な薬草やオリハルコンの武器、防具などをもらったりした。どこか彼女はそっけない態度をとっても、みんなやオレに優しくしてくれる人間なのだ。


「ノエル様、武器や道具は揃いましたが、休息も同じぐらい重要です。3日ほど休んでから、この村を出ましょう」


「そうだね。 それでいいかな?」


「もちろんなのだ! じゃなくて、もちろんですなのだ!」


三日ほどこの村で休息をとり、次の敵の増援を勇者のエドガーたちに託し、反転世界へと飛んだ。



****



「よくぞ、ここまでたどり着いた…村人の勇敢なる戦士よ…」


魔王の間に無事たどり着いたオレらは、どこか微妙な近視感を感じとっていた。

魔王は仮面を被っていて、顔立ちはわからないがそう感じる。


「オレが永遠の命を得ていることはもうわかっているんだろう? もうあんたには勝ち目はなんじゃないのか?」


「いや、お前はオレだ。 それも姿形も性格、すべて似た者同士だ…」


「どうゆうことだ…言ってる意味がわからないぞ」


「これを外せば、今にわかることだ…」


魔王が仮面を外した瞬間だった。目の前にいるのはなんと、オレそっくりの顔と姿だった。

白いローブを着ているか、それとも防具を着ているかの違いでしかなかったぐらいだ。


「どうゆうことなのだ!? 父上が2人もいるのだ!?」


「違う…君のお父さんが2人いるんじゃなくて、オレが2人いるんだ」


「ここは反転世界でもあり、無数にある並行世界(パラレルワールド)の1つに過ぎない。 この世界のオレは魔王となり、この世界のエドガーと結ばれることで、ローライズを産んだ。 簡単な話だ」


「人間であるエドガーはどうなる…?」


「もちろん死んだよ、この世界の圧力に耐えられなくなってね…」


「外道が…相手がどんな奴であろうと、魔王は絶対に許さない」


オレは邪悪なる魔王にオリハルコンの大剣を向ける。どんなことを企んでいるのか分からないが、

彼の陰謀をここで止めなければならない。なんとしても。


「父上を殺してしまうのか…?」


「いや、できれば君の父親をオレも殺したくはない。 だから、協力してほしい。 オレが魔王と対決するから、他の魔物たちからの攻撃を防いでほしい。 こいつは今までの敵とは違う」


「分かったのだ! 奴らは私に任せるのだ!!」


「甘い考えだな。 私を殺さずに生かすとなると骨が折れるぞ」


「行くぞ!!」


「なのだ!!」


オレと魔王は対峙した姿勢から、互いに臨戦態勢をとった。魔王もオレと同じオリハルコンの大剣を持って構える。


「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」


ローライズは人間の身体から赤い巨竜の姿へと変身し、魔王の間にぞくぞくとやってくる魔物たちを火炎で一掃する。これほど頼もしい味方はいないだろう。


「では、私たちも戦いを始めようか…」


魔王がそう言葉を放つと、魔王の間の空間ごと真っ暗になる。それと同時にさっきまで隣で戦っていたローライズと魔物たちが一歩も動かず、静止している。


「空間ごと時間を止めたのか…」


「ここは私とお前の精神世界そのものだ。 彼女ら、現実世界には私たちの攻撃は関与しないから安心しろ」


「お前の独壇場に招いて、どうするつもりだ」


「お前の心臓に存在し続ける〝命の果実〟を奪い取るまでだ…!!」


魔王はすべてを説明し終わると、オレに向かってスピードを上げて大剣を振り落としてくる。

オレもそれに拮抗するように、大剣でつばぜり合う。


「来い!! スキル、邪悪の樹(クリフォト)!!!」


「この時を待っていましたよ…私も加勢します」


オレの影から、リリスが人間の姿になって現れ、魔王に向かって火炎魔法を放つ。

これでこちらが優勢かと思われた瞬間だった。


「何もお前だけがそのスキルの特権じゃないぞ、人間」


魔王の影からも同じく、人間の身体をした白いローブを深くかぶった敵が現れる。

おそらく、オレと同じスキルの持ち主なのだろう。


「お前の〝邪悪の樹〟は私のスキルを逆さまにさせた構造のものだ。 私のスキル、生命の樹(セフィロト)が本来、命の果実と結合することで神と同等の力を得ることができるのだ。 だから、その力は私に返してもらう」


「思い上がりもいいところだな。 オレはお前の数十倍、上をいく村人だぞ」


「???」


オレは持っている大剣を自分の身体に突き刺した。


「!!? 何をしている? 貴様ッッ」


「オレとお前のスキルは逆さまにしただけで、同じものに過ぎないんだろ? 精神世界も共有している。 だから、お前自身を攻撃するよりもこうした方がお前自身に致命的な攻撃を与えやすいからだ」


オレの身体は〝命の果実〟を食べて不死身の身体になったが、相手の魔王の命は1つだ。彼はオレに対抗しようとして自分の能力を引き合いに出しすぎたのだ。それがオレの圧倒的た勝利へと繋がった。


「〝邪悪の樹〟の能力は、その名の通り剣で突き刺した邪悪な者を木々に生きたまま変えてしまうものだ。 リリスはこのスキルにはあまり関係ない。 オレのミスリードに引っかかってくれて助かったよ」


「貴様あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」


「茶番だったな…オレの勝ちだ」


魔王の腹から血しぶきが勢いよく吹き出すと、その身体ごと魔王は一瞬で木々に成り果てていく。

魔王の力によって真っ暗に染まっていた空間は解かれ、ローライズが戦っていた魔物たちの姿も脆く崩れ去った。


「!?? これは一体どうゆうことなのだ!?」


「オレがこいつとの戦いで勝ったんだよ。 精神世界に巻き込まれてたんだ」


「ち、父上は大丈夫なのだ!??」


「ああ、今はオレの能力(スキル)で安らかに眠っているよ」


ローライズは自分の父親、魔王の木々の元へと急いで駆け寄る。しかし、魔王のこの世界を司る力が無くなったのか、魔王城や地面もろとも崩れ始める。


「父上…私はここにいるのだ…私も父上と一緒にここに残るのだ!」


「そんなこと、きっと君のお母さんもお父さんも望んではいないぞ!」


「でも…」


「君の代わりにオレがこの世界に残る。 急げ、早く逃げろ」


「えっ…待つのだ!! ノエル様!!」


オレはローライズを空間転移の魔法で元のいた世界に追い出すと、1人空を見つめたまま、今の自分にできることを考えていた。


「このままじゃ、この魔王の木々も守れないままだ。 考えろ、考えるんだ」


そう考えているうちに、オレの真上から城壁が崩れ去り、それを直に受ける形でガレキたちはオレの身体ごと飲み込んでいった。



****



村人のノエル・モーゼスが反転世界に行ってから、約5年の月日がたった。私、エドガー・ランスは当時、18歳から現在、23歳になり。この村で元気に暮らしているローライズ・ノールは今年で18歳になった。


勇者として世界中を旅していた私も、今や魔王を倒したという勘違いで称えられ、英雄扱いはされているものの。

王宮での生活は断り、ただの村人として農村の畑を耕している現状だ。


この世界に戻ってきたローライズも、最初はパニックを起こして私とも最初は口も聞かなかったが、だんだんと村人とも心を開いていき、今では憎しみあってきたノエルのお母さんとも仲良く暮らしているみたい。


「今日も精がでるな…! エドガーよ!」


「私、あんたより何個か年上なんですけど?」


「何をいう! 私は魔王一族は人間の100倍寿命があるのだぞ! だから、年も180歳なのだ!!」


「どうゆう計算よ…」


今、ノエルは壊れた反転世界でどうしているのだろうか。ちゃんとご飯は食べているのだろうか。1人で寂しくしていないだろうか。リリスさんも言っていた通り、本当に〝黒幕〟としてこの世界を監視しているのだろうか。


考えても仕方ないことがいっぱい脳内に浮かぶ。きっと私は誰よりもあいつのことが好きで分かっていたつもりだったんだろう。ギルドのみんなと旅している間も、そして何もかも終わった今でも。同じように。


「お、おい! なんか空から人が落ちてきたのだ!!?」


「えっ?」


空から見覚えのある人物がゆっくりと降りてくる。あれは私が預けたオリハルコンの防具と勇者のローブ。

そして、後ろ姿でもわかる青い短髪。


「おかえりなのだあああああああああああああああああああ!! ノエル様あああああああああああああ!!」


喜びについ震える肩と私の身体。間違いない、いつものあいつだ。


「バカ…なんで帰ってきたのよ…」


「みんな、遅くなってごめん。 ただいま!」


彼は人間を捨てても、心は人間のままだ。たとえ、神と同じ命を持ったとしても、この世界の《黒幕》になったとしてもだ。

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