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転生したスライム、転星への道  作者: 眼鏡芋
最悪な転生
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1話 転生

 私は車の往来の激しい大通りの横断歩道で信号が変わるのを待っていた。夜遅くであるというのに道は明るく、人通りも多い。これも都会の良さなのかも知れないが、その代わりに夜空に浮かぶ星明かりは街を照らそうとはしない。


 田舎の出である私は、かつて大学進学を機に何もない地元を飛び出し都会デビューを果たした。しかし、その頃の都会への憧れと新鮮さはとうに消え、むしろその騒々しさに嫌気すら覚えるほどだ。田舎では唯一天体観測を趣味としていたのだが、都会でそれは難しいということも、この光景を陰鬱なものに見せている原因かもしれない。


 はぁ、仕事終わりの疲れからか、どうにも思考が暗いものになっているようだ。嫌な思い出やらが浮かび上がってきてしまう。


 思えば本当に気楽に生きられたのは大学に入ったあたりまでだった。大学では数少ない友人であった天文サークルの仲間と星を眺めることも出来たが、就職活動が始まってからはそれもなくなり、会社に勤めるようになってからは仕事に追われ、今に至る。そして、今日も今日とて仕事をこなす。明日だってそうだろうし、何だったら定年になるまでは恐らくこのままに違いない。


 いまさらながら、どうしても田舎で暮らしていたらどんなによかっただろうか、と考えずにはいられない。田舎にいた頃は気がつかなかったが、私の気質や趣味は田舎向きであったようだ。いや、田舎で暮らしていたからそうなったのかもしれないが。


 そんな風に考えたことは、今まで幾度もあったが、それでもまだ都会にいるのは、私の優柔不断としがらみの多さだ。この年まで仕事をしていれば、出世だってするし、そうなれば責任も増す。そのうえ、それをすべて取り払って田舎に行っても生活ができるのだろうか? こうした不安が私を都会にとどめている。


 止めどなく浮かび上がってくる後悔に思考が流されていく。私はそんな考え事に没頭するあまり信号を見ていなかった。私の隣にいた人達が動く気配につられて反射的に歩き出した。


 だが、彼らは前ではなく後ろに動いていた。彼らが動いたのは信号が変わったからではなく、車が突っ込んできたから。私と数名の学生らしき子たちだけが車の前に取り残された。


 気づいたときには後の祭りだった。私の意識は横から凄まじい衝撃を感じた瞬間を最期に、ぱったりと途切れてしまった――







 ――はずだった。


 私の意識は唐突に覚醒した。まるで白昼夢を見ていた気分だった。私は今、どこを見ても白い部屋か空間か、地面も壁も天井もあるのかないのか分からないところにいた。周りには高校生だろうか、男女数名が一緒にいる。一瞬のことだったが彼らには見覚えがある。信号の前にいた、私と同様気づくのが遅れた子たちだろうか。先ほどまでの記憶が正しければ、私は恐らく死んだのだろうし彼らも死んでしまったのだろう。ならば、ここは死後の世界の入り口か何かだろうか?


 ──⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛、⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛。


 ふいにどこかから、声がした気がした。しかし、どうにも聞き取れない。言語が違うどころか、人の声ではないような気がするが。


 ──⬛⬛⬛⬛⬛、⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛。


 再び誰かがなにか言っているようなのだが、全く理解ができない。


 ただ、一緒にいた高校生達には聞こえているらしく、その声の主になにか聞いているようだ。しかし、私には彼らの声も聞き取れない。というよりも、彼らには私が見えていないようだ。私から見えているだけなのかもしれない。


 しばらくの間、彼らの会話を邪魔することも出来なかったので、ただぼんやりと眺めていた。


 高校生達の話が終わったのか、彼らはこつぜんとその姿を消した。この白い空間にはもう、私しかいない。


 ……私はどうすればいいんだ?


 とりあえず、聞いてみようか。通じるのか、そもそも聞こえるのかも分からないが。


「すみません。」


 ──⬛⬛⬛⬛⁉


 おっ、気付いてもらえたらしい。


 ──⬛⬛⬛、分かりますか?


「あっ、聞こえます。」


 ──よかった、一応聞きますけど、あなたは亡くなられた……のですよね?


「たぶん? 一応、自覚はあるんですけど。」


 ──です、よね? おかしいですね? ここにはさっきの子たちだけ来るはずだったんですが。ちょっと待っていてください、記録を見てみますから。


 どうやら私がこの場所にいるのは想定外の事態のようだった。神様と思しきそれも、全知全能ではないようだ。


 ──あぁ? 見つけました。あなたは彼らの側にいて信号を渡ろうとしたのですね?


「彼ら? そういえば、あの高校生達はどうしてここに?」


 ──今時、ありがちを通り過ぎて逆に珍しい異世界召喚というやつですよ。異世界で生き残れるようにチートスキルを渡すためにここに呼んだのです。


「へえ、たしかにありがちだ。だとすると、私は巻き込まれたとかですかねぇ。」


 ──あなたは召喚の際になくなられたので、ひとまとめに呼ばれたようですね。召喚ではなく、転生になると思います。


 ふむ、転生も悪くはない。新しい人生を得られるしね。


「転生先については希望はできますか?」


 ──人間以外でランダムになります。


 ん? 人間以外?


「……人間はだめなんですか?」


 ……雲行きが怪しくなってきた。さっきまで、気を遣って声を掛けなかったのがあだになったかもしれない。私の中で焦燥感が膨れ上がっていく。


 ──人間は空きがないんです。さっきの召喚でなら人間、というか生前のまま送れたんですが、あなたの場合は新しい肉体を用意していないので輪廻転生の輪に入って長いこと待つしかなくなります。あなたは記憶と意思を持ったままなので、気が狂う可能性が高いですね。


 それは怖い。輪廻転生の輪とやらに入るという選択肢はあり得ないな。


 それにしても、高校生達と一緒に召喚されても生前の姿のままだったのか。どうせ前世は中年で身体にもがたがきていた。つまるところ、選択肢は最初から一つしかなかったらしい。先ほどまでの焦燥感はなくなってきた。


 ──ただ、魔物に転生するのであればすぐにでも転生が可能です。魔物が際限なく発生している場所に送りこめば、新しい身体にすぐに転生できます。残念ながら指定などはできないので、ランダムになりますが。


 ……魔物の上にランダムなのか。不安が残るが、他に選びようもない。まあ、しょうがない。


「人間でなくとも構いません。転生します。」


 ──ありがとうございます。では良い来世を。


 私は直後、落ちていくような浮遊感に包まれ(周辺はどこまでも白いので本当に落ちているのか判断できなかったが)、意識も遠のいていく。随分と急だが、旅立ちのようだ。


 ……えっ、まだ心の準備も何もできてないのだが? 説明の類いもなかったのだが?


 ──ああ、こちらの都合に合わせていただいたお詫びに、あなたにもスキルを一つ融通します。転生後に確認してください。


 遠のいていく意識は、気になる言葉を最後に途絶えた。


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