1.召喚された聖女
『この世界の為の儀式』
自らが作った大義名分の下≪聖女≫と呼ばれる存在を今から召喚する。
世界は幾度も≪魔素溜り≫と言われる災いに襲われていた。
≪魔素溜り≫は干ばつや嵐等を発生させ続けるという災いを振りまいていた。
しかし、異なる世界より現れた最初の聖女によって災いは退けられた。
最初の聖女はこの後も≪魔素溜り≫は発生するであろう事を懸念し、異なる世界から聖女を召喚するための≪召喚陣≫をこの世界に遺した。
そして、最初の聖女の予想通り≪魔素溜り≫は幾度も発生した。人類は世界の存続のために自らの意思でその度に聖女を召喚した。
しかし、最初の聖女から≪魔素溜り≫が発生するようになって13回目に世界は此れ迄の比では無いほどの災いに襲われた。それは≪魔素溜り≫が原因で突如出現した≪魔獣≫である。
終わりのない絶望に終止符を打つため世界中の人の意思が聖女の召喚を希望した。
それが身勝手な願いだとしても、唯々生き残りたいが故に。
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その部屋には複数の人間がいた、その部屋の中央に在る≪召喚陣≫と呼ばれる地面に描かれたぼんやりと発光している模様を囲む様に、その顔に不安や畏れ或いは焦り等の感情が見て取れる。
その中で精神を整える様に目を閉じていた老人がゆっくり目を開けその場にいる皆に告げる。
「それではこれより聖女様の召喚の儀を開始いたします」
老人は司祭長と呼ばれる役職の人間である。
彼が儀式の始まりの声を上げた。
召喚陣の周りに居る他の司祭達も気を入れ直し、警護の騎士達もしっかりと自身の持つ武器を握りしめ、召喚を確認するために集った各国の代表や医務官は固唾を呑んでいる。
司祭長が手にしている儀式用の杖で召喚陣を軽く叩き周囲の司祭達も同じように叩いた。
すると召喚陣の光が強く光り出し徐々に部屋全体を照らす程に明るくなっていった。
司祭長が召喚の為の呪文を唱えようとした時、召喚陣から勢いよく霧のようなものが噴出し、更に旋風が巻き起こり視界を遮る。
「何だっ!これはっ!」
伝承にある聖女召喚の儀とは全く違う事態にこの場に居る者の殆んどが予想していなかった事態に混乱していた。
「せっ、聖女様はっ!?召喚は無事に成功したのかっ!?」
混乱の中、徐々に旋風が止み霧が晴れていき視界が戻っていく。
彼らは召喚陣が在った場所に佇む人影を見た全員が歓喜の声を上げようとして・・・、
ギチッ!ギチチッ!
・・・とても人間から出たとは思えない音が聞こえてきた。
やがて、霧が完全に晴れてその姿を見る事が確認できた。
装飾の無い長袖の白いドレス、ドレス越しでも分かる線の細い身体そして。
・・・緑の斑模様の体表に人の形とは異なる≪虫の様な頭部≫がそこには在った。
皆様初めまして、紫馬峪 源五郎と申します。
この作品が初投稿になります。
一応、聖女召喚物です。
何卒宜しくお願い致します。