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18.出立

今回も引き続き他人称視点ですん。




 ラーゼント王国王都。

 初代聖女が造った召喚陣を中心に王宮、城壁と堀そしてその周囲に城下町とそれらを纏めて囲う形で更に城壁が作られた、その都市こそがラーゼント王国の王都である。


 この都市は、各国への交易の中心としての機能もあり普段から賑わっていた。

 しかし、今は普段の明るい賑わいではなくオールデン領からもたらされた危機的状況に関する話題ばかりであった。

 曰く、既にオールデン領は壊滅していて既に魔獣の群れがこの王都に向かっている。

 曰く、避難して逃れたとしてもラーゼント王国王都とオールデン領の間にある穀倉地帯が失われば、世界規模で食料が高騰し餓死者が出始める等。

 人々の口を衝いて出てくるのは不安がそのまま言葉になったものばかりであった。

 

 そんな中、二台の大型の馬車が連なって移動していた。

 この二台は王家所有のものであり、主に戦場を移動する際に使用されるものである。

 何人かの人間はそれを見て驚き困惑していた。

 何故ならその馬車がオールデン領の方角へ向かっているからである。



−二時間前−



「エノール女官長!先程の報せはどういう事なのですか⁉」


 聖女の私室前で自分と国王にとんでもない報せを送ってきた張本人に対して、騎士団長のベンジェフ・カーライルは声を荒げて問い質していた。

 それに対してエノール女官長自身も僅かながら困惑の色が現れていた。


「・・・言葉で説明するよりも見て頂いた方が良いですね」


 エノール女官長はそう言うと聖女の居る私室の扉を少しだけ開けた。


 騎士団長は訝しみながらも女官長の言う通りに部屋を覗いてみた。


 彼は光を見た。

 窓から降り注ぐ光でも鏡が反射した光でもない。

 光の粒が聖女を囲っていた。

 否、無数の光の粒が聖女の身体の継目(つぎめ)から放出されていた。


 騎士団長は呆気にとられていた。

 そして横からエノール女官長が。


「あの状態になって聖女様は“あそこへ向かう”と私共に伝えてきました、オールデン領の方角を視ながら」


 エノール女官長が持っていた紙には、聖女の拙い字で“あそこへ向かう”と書かれていた。


 騎士団長はもしやと思い、エノール女官長に尋ねた。


「聖女様はオールデン領に、“あそこ”に魔素溜りが存在すると伝えているのですか?」


「・・・いいえ、私共もその事を訊いたのですが“あそこへ向かう”としか伝えて下さりません。まるでその他の事が見えていないように・・・」


 エノール女官長から返って来た情報は騎士団長が求めたものでは無かった。

 しかし、だからといって今起きている事態に対して手をこまねいている暇は無いのである。

 騎士団長は確認するべき事をエノール女官長に尋ねた。


「・・・他の女官たちはもしかして出立の準備を?」


「はい、聖女様が向かう場所こそ女官の戦場ですので」


 エノール女官長は迷いの無い眼でそう答えた後、自嘲気味に続けた。


「尤も私は獣狩りの経験等は御座いませんから、今回は聖女様の留守を預からせて頂きますよ」


 “聖女様の向かう場所こそ”

 

 騎士団長は確かにそうだと納得して、ならば我々護衛騎士も本分は同じと再認識し、出陣の許可を貰う為国王の下へ向かった。

 エノール女官長の言葉に「後、年齢的にもですよね?」と軽口を叩いた部下が沈められたのを見なかった事にして。



−そして現在−



 二台の馬車には聖女と六人の女官それと護衛騎士の四人の計十一名が乗っていた。

 それぞれの馬車に護衛騎士が二人で馬車の御者席に、女官は聖女の乗っている方にマリーとバイセ、もう一台にヴァリロッサ、ヴァーバラ、エルナそしてドリーの四人だ。

 

 その中でヴァリロッサは何時もの笑顔が消え緊張したような表情に、妹のヴァーバラは毅然とした態度は鳴りを潜め、不安が前面に出たような状態であった。

 彼女達はオールデン辺境伯の妻なのだ。

 そしてその領地は魔獣による侵攻を受けていた。

 領主であり、彼女達の夫であるオールデン辺境伯は当然前線に立ち領兵の指揮を行うだろう。

 それは自身の命も兵達と同じく危険にさらされる事を意味している。


 彼女達は姉妹で一人の男性と結婚していた。

 本来ならそこで争いが起こっていても不思議は無かった。

 たとえ一夫多妻が認められてもどちらが第一夫人になるかで揉める事等ざらにある。

 だが彼女達はお互いに譲り合ったのだ、姉は妹可愛さに、妹は姉を尊敬していたから。

 丸1日話し合った結果、妹が『私達は姉妹なのですから(あね)さまの方が一番なんです』と言うものだから姉としては承諾するしかなかった。

 その話を聞いたオールデン辺境伯は嬉しそうに『君たちに好かれた私は幸せ者だな』と言った。

 その時の二人は顔を真っ赤にしていた辺り、本当に二人は辺境伯の事が好きである事が垣間見える。


 だからこそ二人は今オールデン領で起こっている事に戸惑いと不安を隠せないでいるのだった。


 そんな二人を見兼ねたドリーが苦言を呈した。


「あんた達自分が今どんな顔してるか分かってる?」


「「?」」


「ヒッドイ顔よ。とても自分達が愛した人に会いに行く顔じゃないわねっ!」


「なっ!ドリーさん!」


 空かさず続けようとするドリーをエルナは止めようとするが、それに構うことなくドリーは続ける。


「ヴァリロッサ!貴方(あんた)は何時も言っていたわね?女の価値は外見の魅力だけじゃない。でも外見を整える努力もしない女は他の魅力すらも無い!って」


「⁉」


「ヴァーバラ!貴方もこんな事を言っていたわね?妻たる者は旦那がやる事に一々心配するな!旦那が本当に必要な時黙って支える冷静さを持ち続けなければならないっ!って」


「ドリー様・・・」


「私の友人に、自身の信念を歪ませる様な軟弱者は居りませんわ。違いますか?」


 ドリーは自身が知っている二人の信念を言い、そして問掛けた。


「ありがとう。ドリーちゃん」


 ヴァリロッサは先ずドリーの問掛けに感謝で答えた。

 その答えは何時ものヴァリロッサの間延びしたものとはちがっていたが。


「私達がオールデン領に向かうのは聖女様がそれを望んだからだけど、それと同時に久しぶりに旦那様にお会いしに行けるのよね」


 その答えにヴァーバラは付け足す。


「それと旦那様をお慕いしている領民の皆様にもですよ(あね)さま」


「!そうねぇ。みんなにもぉ、会えるのねぇ」


 姉を助けてくれる一言。

 この一言を聞いて妹も立ち直ったのだと確信し、ヴァリロッサも完全に何時もの口調に戻っていた。


「そうですよ。だから私達は皆様にお会いしたとき恥ずかしく無い恰好でいませんと」


「ヴァーバラちゃんのぉ、いうとおりねぇ」


「はい!その通りです(あね)さま。・・・ドリー様、私達姉妹の心を湧き上がらせて頂き有難うございます」


 完全に二人が何時も通りに戻ったのを確認したドリーも溜め息混じりに答えた。


「礼なんて要らないわよ。ただ私が勝手に憤慨して口を挟んだだけでしてよ」


 これは間違いなく本心である。だがそれでも面と向かって感謝されるのは嬉しいのかはたまた恥ずかしいのか耳まで真っ赤であった。


「うぅ、良かったです皆さん喧嘩にならなくて」


「あぁ、ごめんなさいねぇ、エルナちゃん」


 先程まで完全に蚊帳外だったエルナが三人が元の空気に戻り、安心したのか涙ぐんでしまっていたのだ。

 それをヴァリロッサが宥めに入る。

 

 エルナが落ち着いた後、ドリーが出発前に訊きそびれた事をエルナに尋ねた。


「ところでエルナ、持ってきた荷物の中に普段使っている所を見たことが無いような刃物が入っていたが何に使うものなんだ?」


「ズズッ。使った所を見たことが無いですか道具ですか?」


 エルナは鼻水を啜りながら考え始めた。

 ヴァーバラがその行動見て、後で鼻水はちゃんとかむ様に注意しようと思い、ヴァリロッサは困った様に「あらあら」と笑っていた。

 そしてエルナの中で合点がいったのかドリーは話し始めた。


「あぁ!そういえば皆さんと採取に行く時は動物か草や花の時だけでしたね」


 そう言うと荷物から二つの道具を取り出し説明をしだした。


「こっちの弧を描く様な刃で両端に持ち手がついたのを皮削り、木の皮等の硬い素材を削ぎ落とすのに使います。そしてこっちの小さい也鎌みたいなのに刃がもう一つ付いてあるのが掻き鎌、樹液等の採取の時に、木を傷付けるために使います」


 話を訊いていたドリーだが、何故必要なのかを尋ねたら


「もしかしたら採取出来るかもしれないじゃないですか!」


 っと爛々とした笑顔で答えた。


 三人は何を採取する気なのだろうと考え、そしてヴァリロッサは笑顔のまま自分の座席に戻り、ヴァーバラは両手で頭を支える様に俯き、ドリーは馬車の天井を仰いだ。


 彼女達は思い出し気付いた、エルナは聖女様を聖女様としての価値以外に素材としての価値も見出していた事に。


 そして思う、魔獣よりも先に彼女をどうにかするのが優先なのでは?・・・と

 

 

ここまで読んで頂き有難うございます。


なかなか話が進まなくて申し訳ありますん。


今回の話で分かった事は

ドリー(男)は女の子

エルナはヤバい(真顔)

以上の2点になると思います。


次回もこんな内容で宜しければお付き合い下さい!では!


やっぱり次回は未定!

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