17.急報
今回は久しぶりにキャラクター外の視点になります。
その日、ラーゼント王国国王の執務室にて騎士団長のベンジェフ・カーライルが聖女に関する報告を行っていた。
「そうか・・・、聖女様は御自身の御記憶すらも無かったのか・・・」
グレイル・ラーゼント。現ラーゼント王国国王は粛々と自身の配下である騎士団長の言葉を飲み込んでいた。
「・・・」
騎士団長は待った。
自身の仕える国王が何を思い何を考えたか、自身では決して推量れない事は明白である。
故に彼は国王の言葉を待った。
国王は静かに、しかし良く通る声で話出した。
「・・・この事は各国にも伝える事とする。そしてこの世界に住む皆に周知させる」
「陛下・・・」
「我々は自身の住まう世界を護るため、今までも一人の人間を元いた故郷から攫い聖女として崇め奉ってきた、その一人の人間が元の世界で生きたであろう未来を奪ってな・・・。そして今回は未来のみならず、想い出という過去すら奪ってしまった!」
国王は声も身体も震わせていた。
それが後悔の為か、自身の不甲斐なさに対する怒りから来たものかは本人にしか分からないだろう。
だがそれでも、グレイルは国王なのだ。
国王の後ろには自身が護らねばならぬ民がいる。
罪悪感に自身が浸り続ける訳にはいかない。
国王は聖女への贖罪と王国と世界を護る事を一緒くたにして、行動するしか無かったのだ。
「今まで以上に各国にも聖女様の支援に力を入れて貰う様に打診する。せめてこの世界が聖女様の未来に取って、幸せな世界と感じられる様にしよう」
国王はそう言って騎士団長に向き直り騎士団長にこう告げた。
「騎士団長、聖女様に関する報告誠に感謝する。君の妹君のおかげて今代の聖女様の事が分かった、彼女にも礼を言っておいてくれ」
「勿体無き御言葉有難うございます。私の妹も喜ぶ事でしょう」
聖女の現状を知ることで荒んでいた国王は自身が何をして、聖女への贖罪とするか決めた事によって冷静さを取り戻して、改めて騎士団長への謝辞を述べる。
騎士団長も国王の心中の乱れが治まったのを認識し、素直に国王からの言葉を受け取ったのだった。
「いいや、私には礼を言う事しか出来ぬ。・・・これからも聖女様をお守りしてくれ、頼んだぞ」
「陛下の御心のままに」
そうして国王も騎士団長もお互いに佇まいを正して自身の仕事に戻ろうと動き出した矢先。
ドンっ!ドンっ!ドンっ!ドンっ!
とても王宮の、それも国王がいる場所に似つかわしく無いノックの音が響いた。
そしてノックの後に慌てた声が告げた。
「陛下っ!オールデン辺境伯から火急の報せで御座います!」
騎士団長は声の主が宰相補佐官だと分かり、国王の指示を仰ぐ様に顔向けた。
それに対して国王は静かに頷き扉を開けるよう促した。
騎士団長がそれに頷き返し扉を開けると慌ただしく入室した宰相補佐官が国王の目の前に直ぐ様伏した。
「宰相補佐官、オールデン辺境伯からの火急の報せと言っていたな?何があったのか申せ」
「はっ!オールデン領北部にある森林地帯から大量の瘴気と魔獣の群れの発生を確認したとの事です!」
宰相補佐官の彼は国王の問いかけに対して、伏してまま報せの内容を告げた。
「何だとっ?!」
「瘴気は既に森林地帯の七割を呑み込んでおり、更に拡がり続けております!」
そしてその内容は国王を驚愕させるには十分であった。
オールデン領はラーゼント王国の三割の土地を占める領土である。
そしてオールデン領北部の森林地帯とはオールデン領の半分を占めているのである。
更に、オールデン領から王都までは起伏の無い穀倉地帯になっており、現状オールデン領が絶対防衛ラインとなってしまったのである。
「馬鹿なっ!瘴気や魔獣が出現した場所は過去に魔素溜りが発生した局所とされた場所だったハズだ!何故オールデン領から・・・まさかっ⁉」
「陛下。まだそうと決めてかかるには早いかと。今は情報を集めると同時にオールデン領の防衛に当たるのが賢明かと具申します」
国王が今まで起きた事が無かった異変に動揺し、それを騎士団長が諌めている中、更に急報が舞い込んで来た。
「失礼します!陛下、騎士団長、緊急で御座います!」
「今度は何だっ⁉」
唯でさえ一大事の中に再び投げ込まれた報せに、国王は取り繕う暇も無く、まるで言葉を投げつける様に言い放った。
「女官長から“聖女様がオールデン領に向かう”との報せです!」
急報を持ってきた伝令係からもたらされた報せは、国王にも騎士団長にとっても冷水を叩き付けられた様な内容だった。
ここまで読んで頂き有難うございます。
いやぁ、急に事態が動き始めましたね。
わーたいへんだー(棒)
果たしてかの世界に平穏はあるのでしょうか?
そして次話の構想は紫馬峪の頭にはあるのでしょうか?
次回・・・未定!
お楽しみに!では!