15.驚愕のマリー
本日は前半マリー視点、後半ベンジェフ視点です。
前回マリー視点のみとは言っていないからセーフ。
−マリー視点−
「聖女様に・・・文字を・・・ですか」
私達の提案を訊いた兄さんが心底信じられないといった表情で、さっきエノール女官長が喋っていた言葉を反芻するように言っている、でもうまく言葉が出ないのか普段と比べて辿々しい。
そんな兄さんに我感せずとした態度でエノール女官長は、聖女様に文字を覚えて貰う理由を説明しだした。
「はい、今現在聖女様との意思の疎通はこちらから一方的なものでしか無く、これでは聖女様の意思に本当に我々は沿っているのか確認すら出来ていないのです。これは歴代の聖女様の召喚に携わっていた者達の願っていた、聖女様に健やかに過ごして頂きたいというものに反する事になると私は愚考しています」
「た・・・確かに女官長の言う通りですね」
さっきよりは持ち直した兄さんがエノール女官長の説明に肯定した。
「しかし、文字を教えるとして誰がその大役を引き受けるのでしょうか?」
確かに兄さんの言う通り、このお役目は大変よね。
聖女様にはちゃんと文字を覚えて貰わないといけないし、正確に文字を教えられる人じゃないといけない、そう考えるとやっぱりバイセが適任
「マリーに任せようかと考えています」
かな・・・?
あれ?今エノール女官長がとんでもない事を言ったような?
「きょ・・・教師役にマリーをですか?!」
聞き間違いじゃ無かった?!
と言うか私が教師役?え?何故にそんな結論に?!
「まず第一に彼女自身が言い出した事であると言うこと」
そんな言い出しっぺの法則みたいな理由ですか?!
「次にマリーの立場を鑑みての事です」
「えっ?」
「マリー。貴方は私が女官としての仕事を指導した教え子です。だからこそ師として貴方に少しでもチャンスをと考えました」
そんな・・・、エノール女官長はそんなにも私の事を思ってくれていただなんてっ!
「マリー、貴方が選択するのです。聖女様に文字を覚えて貰い少しでも自身の必要性を示すか、聖女様に文字を教える仕事を他者に譲り、自身は国王陛下の沙汰が決まる迄ただ無為に過ごすのか選びなさい」
エノール女官長・・・、ここまで言われたら一歩も退けません!
私にだって女の意地ってものがあります!
「やります!やってみせますっ!」
「よろしいでしょう。ベンジェフ騎士団長、この様に本人からのやると言う承諾を得ました。如何でしょうか?」
−ベンジェフ視点−
俺の目の前でマリーとの交渉?を終えたエノール女官長が尋ねてきた。
これは一体何なのか、俺が呆けている間にほぼ完全に人員が決まってしまった。
エノール女官長からの決ったのですから問題無いですよね?と言いたげな視線が容赦無く俺を突き刺して来てコワイ。
だが正直な話、マリーの兄としてはこの提案は是が非でも承諾したい。
自分の妹の失態を返上出来るチャンスなのだから。
しかし一方で既にやらかしてしまっている女官に任せて、本当に良いものかとも考えている護衛騎士としての自分がいる。
俺が決めかねているとエノール女官長がマリーに、
「マリー、騎士団長は私が説得します。ですので、貴方は待機部屋に戻りなさい、そろそろ聖女様のお世話をする当番になりますよ」
と言った。
するとマリーは慌てた様子で、
「え?あっ!すみません!もうそんな時間でしたか、直に待機部屋に戻ります!・・・っとっと、失礼します。」
そう言って出て行った。
自分の妹ながら落ち着きの足りない娘だと思ってしまった。
「さて、ベンジェフ騎士団長。私の予想が正しければ騎士団長は兄としての自分と、護衛騎士としての自分に板挟みの状態になっているため返答を躊躇しているとお見受けします」
他人の心を観る方法でもあるのか、それともこれが長年王宮という場所に仕えてきたから出来るのか、どちらにせよ目の前の老獪は俺の胸中を容赦無く抉ってくる。
「えぇ、その通りですよ。エノール女官長。」
「でしたら何の問題も御座いませんね」
俺の返答に間髪入れずに目の前の老獪は喜々として言い放ってきた。
「・・・それは一体どう言うことでしょうか?」
背中に薄ら寒いものを感じ、ひと呼吸置いてから尋ねてみた。
「簡単に申しますとマリーにこの件の全責任を取ってもらうのです」
俺の疑問に笑顔で答え、そして更に付け足した。
「まず一つ、マリーが聖女様への文字の教育が上手く終えましたら、今後の事も踏まえて陛下も処罰するわけにはいかなくなるでしょう。当然ですね?その時まで意思の疎通すら出来るか不明な現状ですものね。」
これは俺も解る。
そうなって欲しいと俺も思っている。
「次にマリーが聖女様への文字の教育が失敗、もしくは教育の過程で再び聖女様への無礼を働いてしまった場合。全責任を取ってもらう訳ですから先ず女官としては戻ってこれないでしょうね。つまり護衛騎士として早い段階で不安材料を排除する事が出来る訳です」
・・・成程、確かにこの話を訊く限り俺の中にある両方の考えに対しての答えになるだろう十分な程に、だからこそ確かめねばならない。
目の前の老獪がマリーの師としてこの大役を任せたのか、それとも別の思惑があってマリーに責任を押し付けたのか。
俺は自身から発せる闘気を前方に叩き付けた。
扉の外でそれにあてられた騎士が警戒してるのを感じた。
目の前の老獪は・・・俺をじっと視ていた。
その眼からは恐怖や敵意は微塵も感じられなかった。
言うなれば決意に近いのかもしれない、・・・昔同じ様な眼を見たことを思い出した。
俺が一端の騎士だった頃、初陣に向かう俺を見送っていた師の眼だ。
俺は自身から発していたモノを収め、エノール女官長に改めて向き直りこう言った。
「分かりました。聖女様への文字の教育を宜しくお願いします。」
エノール女官長は薄っすら笑った後、了承してから部屋を出て行った。
ここまで読んで頂き有難うございます。
後半のベンジェフにエノール女官長に対する印象の変化を他称を変える事で表現してみたのでしがどうでしたでしょうか?
ちゃんと上手くいっていると良いのですが。
それでは次回またマリー視点になります。
・・・もうヒーローポジションをマリーに変更してしまおうかな・・・。