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8.水の国 ★

 勇次が目覚める数時間前――。 

 アストロ大陸南側を統治するウェルズ国では異界の魔物からの侵略を受けようとしていた。

 異界の穴から出現する魔物を観測したウェルズ国は今まさに戦の準備中であった。魔物たちはウェルズ国を囲う巨大な湖の傍まで進行している。


「ふふ。来たわね。今回も一網打尽にしてあげるわ」


 城のテラスから遠くの異界の穴を見つめる少女がいた。ウェルズ国女王シズである。リーナたちと同様彼女もまた『魔剣』の継承者なのだ。

 肌の露出が多い戦闘服に簡易的な武具を装着している姿は見る者を虜にする。その姿は神話に出てくる乙女戦バルキュリーのようである。


「シズ様。城の防衛配置整いました」


 魔物を見つめるシズの傍らに騎士の女性が現れた。


「そう。ご苦労様。いつもの手筈でお願いね。今回も私の力でサクッと終わらせちゃうから。ふふ」


「はっ。頼もしいお言葉でございます」


 シズは腰に装着している『魔剣』を鞘から抜き、テラス中央へと向かう。その先の大理石の床には直径三メートル深さ三十センチメートルの円形型の泉があった。


 その床にはいくつかの水路が繋がっていて国全体へと流れている。ウェルズ国は水源豊かな国である。ウェルズ国全体を囲う湖はここを源泉としていた。


 シズは水源へと入り『魔剣』を逆手で持ちながら刀身を泉へと突き立てる。

挿絵(By みてみん)


静かに目を閉じたシズの体が燐光を帯びた。


 その光は『魔剣』へと伝い水源へと広がる。水源から国中に広がる水路が発光し、最終地点である湖へと広がり眩い光を放つ。


「さぁ、『魔剣』アクアよ。その力を解き放ちなさい。――『テスタメント』ッ!!」


 発光していた湖から無数の水柱が勢いよく立ち上がり、鋭い鏃と化して異界の魔物へと襲い掛かる。光を放つ水の矢は魔物共の体を大きな穴を空けて貫通してく。


 その光景は一方的な蹂躙であった。魔物どもは成す術もなく地に伏していく。


「おお! 流石シズ様! 数多の魔物共を一瞬にして倒してしまうとは!」


「ふふ。これくらい当然……よ……。くっ……」


「シズ様!?」


 シズはその場に崩れそうになる。傍に居た女性騎士に肩を貸されて何とか踏みとどまった。『魔剣』の行使によってシズは体力を根こそぎ持っていかれていた。


「だ、大丈夫ですか!? お辛いようでしたらあまり無理をなさらないでください」


「平気よ。これはちょっとした力の反動だから」


「ですが……」


 騎士が見る限りではシズの顔色は悪かった。このままでは倒れてしまうのではないかという程に。

 心配そうに見つめる騎士にシズは無理に微笑む。


「敵の数は後どれくらい残っている?」


「はっ!」


 騎士はテラスから見える範囲で魔物の勢力を確認する。


「殆ど残っていません。恐らく残存敵数は百にも満たないでしょう。シズ様、後は我々にお任せください」


「そう。なら、後は任せたわ」


「はっ!」


 騎士がテラスから出ていくのを見届ける。


(やはりテスタメントを使うのは辛いわね)


 現『魔剣』継承者の中でシズの力は群を抜いている。だがそれはあくまで漏れ出る断片的な力を行使するという意味でだ。

 先程使った術式・テスタメントは本来扱えない能力である。


 だがシズは限定的で術式『テスタメント』を扱える力を得ていた。水の精霊『アクア』の加護を受けているウェルズ国の水脈を利用することによって、『魔剣』本来の力を限定的に引き出していたのだ。

 しかし、巨大な力は使用者の肉体を蝕む。現にシズの肉体は限界にきていた。戦況をひっくり返したいのだが、城を離れれば『魔剣』本来の力を使えない。かといって防衛線を強いていればジリ貧。


 現状打破する一手がないことにシズは歯がゆさを覚えていた。


「かといって、私から他の継承者に協力を求めるのはプライドが許しませんし。はぁ……」


 シズは誰よりもプライドが高い。それは継承者としての自負があるからだ。


「せめてオリジナルのペンダントがあれば……」


 シズはため息をつきながら先ほどの戦場へと視線を向けると異変に気づいた。


 生き残った少数の魔物共が共食いを始めているのだ。まだ地に伏している魔物をも食らっている。それらは徐々に姿かたちを変えていく。

 最後に残った魔物は一匹の巨大な獣へと変貌していた。獣が咆える。遠くから分かるくらいの咆哮が轟く。


「な、なによあれは。なんなの!?」


 今迄の魔物の比ではない。禍々しいその姿にシズは戦慄を覚えた。


「くっ! もう一度『テスタメント』を!」


 シズが泉へと向かおうとした時、獣が更なる咆哮と共にエネルギー波を撃ち放ってきた。


「しまっ――」 


 シズがいた城のテラスは獣の攻撃によって爆発した。








 遥か大空の上空。


 俺とリーナはシャルウィが用意してくれた魔獣グリフォンの背に乗り空を飛んでいた。俺はグリフォンの扱いなんて当然できないので、シャルウィの後ろに乗っている。

 グリフォンを操るリーナの後ろを俺が座り、さらに俺の後ろにリーナが乗っている形だ。因みにイグニスとアウラは実体を消している。いや、魔剣の中に戻っていると言った方が正しいのだろうか。


 少数での行動なのでグリフォン単騎でウェルズ国へと向かっていたのだ。


「あ、あのユージさん。落ちないようにしっかりと捕まっていてくださいね」


「ああ! 分かった!」


 俺は二つ返事で返すと、シャルウィの体にしっかりと腕を回した。


 最初は女の子の体に抱き着くのは抵抗があったが、実際空を飛ぶとそんな羞恥心は吹っ飛んだ。しっかり掴まっていないと振り落とされそうになるのだ。


「おい、ユージ! あまりシャルに引っ付くでない!」


「いや、そんなこと言ったって無理! 風が強くて掴まってないと落ちるだろっ! てか、リーナも俺にガッチリしがみ付いているじゃねーか!」


「余はいいんだ!」


「何その理屈!?」


「わ、わたしはその、別に構いません……。もっとぎゅっとしてくれても……」


「ごめんシャルウィ! 風が強くてよく聞き取れないんだがー!」


「な、なんでもありません!」


 なんだかシャルウィの顔がほんのりと赤い気がした。


『シャルウィ様、頑張ってください! 私はシャルウィ様を応援しております!』


「ちょっ、ちょっとアウラ!?」


 シャルウィが急に手綱を引っ張ったために、グリフォンがびっくりする。バランスが崩れ落下しそうになった。


「シャル! どうしたのだ、大丈夫か!?」


『おーい主ー。しっかり掴まると託けてツインテールのお嬢ちゃんににイヤらしいことしていないだろうなー?』


「してねっつーのー!!」


 イグニスがとんでもないことを言う。後ろにいるリーナからは「ほう?」と不穏な空気が漂ってきた。  


「ご、ごめんなさい! 大丈夫です大丈夫! 大丈夫だから!」


 シャルウィが慌ててグリフォンのバランスを保たせる。


 ふう。落ちるかと思ったけどなんとか大丈夫みたいだ。それにしてもグリフォンの速度は半端ない。

 バイクを乗り回していた経験上、体感で100キロ以上は出ていると思う。シャルウィが言うにはウェルズ国まで2時間も掛からないそうだ。


 暫く風に身を委ねていると、地形が今までと変わってきたことに気づいた。荒野だった景色が次第に緑豊かな草原へと移り変わった。


「ユージさん! 見えてきました! あれがウェルズ国です!」


 シャルウィが指さす方向へと顔を向けると、その先には湖に囲まれた大きな町があった。そしてその中央には城がそびえ建っている。

 だが城は半壊し、所々火の煙が立ち上っていた。


「シャルウィ!」


「はい! ウェルズ国へ降り立ちます! しっかりと掴まっていてください!」


 俺たちは急いで城へと向かった。

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