漫才 『そっくりさん』
A「僕さ、散歩が趣味って、話したことあったっけ?」
B「どうだろう。過去に話してたとしても、ぜっったい覚えてない」
A「なんでよ。もっと僕に興味もってよ」
B「ううん」
A「じゃあ今日は僕の趣味である散歩の話をするよ。まえの日曜、迷路と名高い新宿駅へ散歩しに行ったんだ、散歩好きとしてはやっぱ行っておこうって思ってさ」
B「駅に散歩しに行くのか。変わってんなお前」
A「Bくん僕に興味湧いた?」
B「話続けろ」
A「でさ、結論言えば迷わなかったんだよ」
B「なんだよそれ。オチどころか山もないのか」
A「日常を感じながら歩く。それが散歩だから」
B「知らんけど」
A「まあそれは置いといてさ、そのときBくんのこと見かけたんだけど」
B「ええ?新宿駅で?」
A「おばあさんの手つなぎながら構内案内してたよ」
B「いや、たぶん人違いだ」
A「優しく案内してて、Bくんいいひとだなって思ったんだけど」
B「俺じゃないな。日曜新宿行ってない」
A「あれ?Bくんだったと思うんだけどな。Bくんなんもしてないのか」
B「うん。違うな」
A「じゃあさ、これは帰省したときに近所を散歩していたときのことなんだけどさ。田んぼに落ちた学生の自転車を引っ張ってる人いたんだよ」
B「へえ」
A「人助けなんて偉いなって思って手伝いに駆け寄ったら、なんとそのひと、Bくんだったんだよ」
B「……俺じゃないね」
A「え?Bくん僕と一緒に自転車引き上げて、中学生にお礼言われたよね」
B「俺じゃない。至近距離で間違えてんの?そんなにそいつ似てた?」
A「そっか。Bくんはなにもしてないっと」
B「うん…」
A「じゃあこれは?夜の飲み屋街歩いてたらさ」
B「ちょっと待って」
A「ん?」
B「それ、また俺じゃなくて、がっかりされるパターン?」
A「え?」
B「だから。街で散歩中俺に似た奴を見つけて、そいつが善行するんだけど、そっくりさんだとわかって、相対的になにもしてない俺が、情のないやつみたいにみえるパターンかって聞いてんの」
A「え、どういうこと?そのひとがBくんじゃなかったら、それで話は終わりだよ。別にBくんなにもしてないし」
B「いやだからなにもしてないせいで印象悪いんだよ。俺に似た善人Xによって、なにもしてなかった俺が、『なんだこいつはなにもしてないんだな、ふうーん』って見られちゃうんだよ」
A「気しすぎでしょ。似た人がいるもんだなーってだけだよこの話は」
B「気にしすぎか……?まあいいや。話続けて」
A「ああうん。その飲み屋街歩いてたら男ふたりが喧嘩してたんだよ。すごい口論で、いまにも手が出そうってときに、颯爽と現れて仲裁したひとがいたんだよ」
B「……うん」
A「うんってこれ、Bくんの話だよ」
B「あの、これも俺じゃあない」
A「つまりBくんはなにもしてないってこと?あ、ふうーん」
B「ほらフォーマットができてるんだよ。俺じゃない場合、俺の好感度が下がるんだよ」
A「気にしすぎだって。でもBくんがそういうなら、今度からちゃんといいことしてるひとがいたら、Bくんじゃないな?Bくんはいいことしてないな?って念入りに確認するよ」
B「ちょっと待って俺が全くいいことしてないみたいな言い方は、やめろ」
A「でもここまで話したことは、全部、Bくんでは?」
B「ないけど!なんだよもう」
A「まだBくん目撃情報あるんだけど、聞く?」
B「一応聞く。さっきからそのそっくりさんの正体も気になるし」
A「おっけーじゃあこれは?遊園地でピエロが泣いてる子どもを笑わせてたんだけどこれはBくん?」
B「違う。ピエロやってないよ。芸人は基本的にピエロやらない。やってたらワーカーホリックだから」
A「ううんそっか。じゃあこれは?沈みかけた船のうえで」
B「絶対俺じゃない。俺泳げないから海行かないし」
A「あれおっかしいなあ、そのときBくん俺はトビウオジャパンだって言ってたんだけどな」
B「俺のそっくりさん競泳日本代表なの?オリンピック録画するわ。ところでそんなに他人と俺を見間違えるって、お前逆に、俺に興味ないだろ。全然俺のこと見分けられてないじゃん」
A「大好きだから、ふとした日常にBくんを探しちゃうんだよ」
B「失恋ソングかよ」
A「でも、僕はこんなにBくんのこと思ってるのに、Bくんは僕に興味ないよね」
B「いやお前が散歩が趣味なのは知ってるよ」
A「なんで知ってんの!?」
B「いまお前から聞いたんだよ!」
A「よく聞いてるね。僕に興味津々じゃん!もしかして相思相愛?」
B「もうそれでいいよ」
A・B「どうもありがとうございました」




