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美人になったら、人生バラ色になると思っていたのだけど……

 その日、わたしは浮かれていた。

 美人になったら、人生バラ色になると思っていたのだけど、当にその通りになっていたからだ。

 派手に着飾って、繁華街を歩いていたら、簡単に男に声をかけられて、そのまま奢りで飲みに行く事に。向かった店には他にもたくさん客がいて、皆、わたしをちやほやしてくれた。ちょっと顔を整形して、化粧をしただけでこの差だ。とても馬鹿馬鹿しく思える。世の中なんてくだらない程に薄っぺらいんだ。ずっと前からそう思っていたけど、改めてそう思う。

 一時間ばかり飲んだだろうか? けっこう酔って来たなと思った辺りで、わたしの視界に不快な姿が入った。

 「あら? 久しぶり」

 彼女はわたしを見つけると、そう言いながら嬉しそうに近づいて来た。

 彼女はかなりの美人だ。

 周囲にいる男どもは、そんな彼女を見て明らかに嬉しそうにした。男の一人がわたしに向って「知り合い?」と訊く。それから男はわたしの返事を待たずに彼女が座る分だけのスペースを空けてしまった。彼女はそこにごく自然な仕草で腰を下ろす。

 ……相変わらずだ。

 そうわたしは思う。

 歯軋りしながら。

 一体、何をしに来たのだろう? まさか、わたしがちやほやされているのが気に入らなくて、邪魔をしに来たのだろうか?

 彼女は高校時代からのわたしの友人で、周囲から羨まれている彼女を、わたしはいつも妬んでいた。

 スタイルは努力すればある程度はなんとかなる。喋りだって訓練すれば上手くなる。でも、顔立ちだけは真っ当な方法ではどうにもならなかった。わたしはブサイクなのだ。そのわたしが手に入れられないものを、彼女は何の努力もしないで生まれた時から持っている。

 狡い。

 高校時代、そんなわたしに彼女はこう言った。

 「美人になったらなったで、それなりに苦労するものなのよ」

 自慢話のようにしか聞こえなかった。

 

 一緒に飲み始めた彼女は、すっかりと場に溶け込んでいた。いつの間にか、男どもの半分はわたしよりも彼女に注目している。いや、半分以上だろうか? 彼女は今までその美貌を武器に生きて来たのだ。私とは年季が違う。わたしはそれをとても悔しく感じていた。

 ある時、不意に彼女が言った。

 「そういえば、あなた、あの彼とはまだ付き合っているの?」

 

 ――は?

 と、わたしは思う。

 

 わたしは今まで一度だって誰か男の人と付き合ったことなんかない。何故、そんな嘘をつくのだろう?

 わたしは直ぐにこう考えた。

 自分に匹敵する美貌を手に入れたわたしに、彼女は嫌がらせをするつもりなのじゃないか?

 「何を言っているの? 付き合っている男なんていないわ」

 わたしは直ぐにそう返した。しかし、彼女はまったく動じた様子を見せず、こう切り返してくる。

 「あら? 内緒にしているんだ。あの警察に勤めている彼のこと。もしかして、なにかまずい事情でもあるのかしら?」

 「――なんで、そんな嘘を!」

 そう憤慨したが、彼女は相変わらずに泰然としている。感情を乱しているわたしの方が、まるで嘘をついているように見えたかもしれない。

 なんとかわたしは弁解しようとしたのだが、そこで彼女は妙な視線を送って来る。それで気が付いた。周りにいる男どもの表情が明らかに硬くなっている。冷たい。

 なんだ?

 仮に彼女の言葉を信じたにしても、誰か男と付き合っているくらいで、ここまで態度が変わるものだろうか? むしろ、奪ってやろうと昂るものじゃないのか? よくは知らないけれど。

 そんなタイミングで彼女が言った。

 「あっ もうこんな時間。ねぇ、そろそろ帰らない? 帰るのが遅いと、警察官の彼も心配するでしょう。どうせ、今晩も会うのでしょうし」

 それから彼女はわたしを強引に引っ張って一緒に店を出た。あれだけわたし達をちやほやしていた男どもは、何故か一人もわたし達を引き留めようとはしなかった。

 

 店を出るなり、彼女は言った。

 「危なかったわね」

 危なかった? 彼女は何を言っているのだろう?

 そう思ったわたしの表情を見てか、彼女は間髪入れずにこう続けて来た。

 「あいつら、ヤクザよ」

 わたしはそれを聞いて愕然となる。

 「……いや、だって、全然そんな感じじゃなかったけど」

 「そりゃそうよ。騙して女を捕まえようとしているんだから」

 わたしはその彼女の言葉をまだ信じられなかった。ただ、そう考えるのなら、「わたしに警察官の彼がいる」という彼女の嘘に彼らが何故あんな反応をしたのか納得できてしまう。

 彼女はまだ続けた。

 「連中は女を騙してどっかに連れ込んで、そこでクスリを打つのよ。どんな類のクスリかは分かるわよね? それで女をクスリ漬けにして逃げられないようにして、ボスにプレゼントしたり、風俗で働かせたりするのよ」

 わたしはそれを聞いて青くなった。

 「そんな…… 嘘…」

 そんなわたしを見て、彼女は軽くため息をつく。

 「本当よ。だからわたしは、なんとかあなたを助けなくちゃと思って一芝居打ったのじゃない。

 これに懲りたら、もうこんな場所はうろつかないことね。男なんて、もっと安全な場所でいくらでもつかまえられるから」

 

 そう彼女からを諭されても、わたしはまだそれを信じ切れてはいなかった。そんな一昔前の極道もののドラマみたいな話が本当だなんて思えなかったからだ。

 ところが、それからしばらくが過ぎて、目を付けた女性に覚せい剤を打ち過ぎて殺してしまったヤクザと関りのあるどっかの社長が、殺人罪で逮捕されたなんていうニュースが流れたのだった。

 もちろん、だからってあの時のあの男達がヤクザだったとは限らない。限らないのだけど、それでもやっぱり気を付けた方が良いのだろう。

 わたしはそう思って反省し、同時に助けてくれた彼女に感謝をした。

「今でも女性をクスリで逃れられないようにして、風俗で働かせる」なんて事が行われている。

そんな内容が本に書いてあって、「本当~?」とか、疑っていたら、覚せい剤の打ち過ぎで、女性を殺してしまったニュースが報道されたので、驚きました。

女の人は気を付けましょう。

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