騒がしい親子
屋台のおじさん――パイウスの家に泊まることになったマモルたちは移動式の屋台を押すのを手伝いしながらしばらく歩くと明かりの付いたパイウスの家に着く。
「屋台をしまってから行くから先に上がってろ」
「はい」
パイウスは屋台を仕舞いに裏に、マモルたちは表の入り口から扉を開けて入る。
「お邪魔します……」
扉を開けると美味しいそうな匂いが漂っている。
「いい匂い……」
「ワフ!」
「そうですね……」
匂いを堪能していると扉が開く音が聞こえマモルは首を曲げ見ると茶髪ショートの元気溢れる女性が現れる。
「お父さん、おかえ……って誰?」
「あ、はじめまして――」
「おう、帰ったぞ!」
マモルが挨拶するタイミングでパイウスが入ってくる。そのままパイウスはマモル肩に腕を回し女性に紹介する。
「しばらく泊まることになったマモルだ」
「マモルです、しばらくお世話になります」
「なんだ、お父さんのお客さんか……私は娘のアイラです」
怪しんでいた女性――パイウスの娘アイラは警戒を解き微笑みながら自己紹介する。
「わ、わわそのわんこは!」
マモルの足元にいるククリをみてアイラは目を輝かせる。
「こいつはククリ、一緒に旅しているブレードウルフです」
「ワフ!」
ククリが鳴くとアイラはぷるぷると震えるそして。
「か、かかかわいいいい!!!」
アイラは大声で叫ぶ。ククリはびくっとなりマモルの後ろに隠れる。
「マモルさん! ククリちゃんを撫でてもいいですか!」
「え、えっと……」
マモルは視線をククリに送ると激しく顔を横に振る。
「ククリが嫌がっているんでまた今度……」
「えーー! いいじゃないですか! わっ!」
食い下がらないアイラの襟元をパイウスが掴む。
「いい加減にしろ!」
「はひぃ……」
見事にパイウスの雷がアイラに落ちる。自業自得である。
「マモル、飯にするぞ」
「は、はい」
パイウスは落ち込んでいるアイラを放置して居間にマモルたちを案内する。
居間に着くと席に座るよう言われマモルはしばらく座って待っていると、マモルとククリの分が運ばれ目の前に並べられた。
「そうだ、妖精って何を食うんだ?」
ベラはフードからひょこっと顔出しパイウスの前に飛んでいく。
「野菜や果物いただければ」
「わかった、少し待ってろ」
パイウスは台所に行く。入れ違いにアイラが入ってくるとテーブルの上にいるベラを見つける。
「な、なななんですか! その可憐な妖精さんわ!」
はいまたアイラの暴走が始まる。ベラは急いでフードに隠れようと飛ぶときにパイウスのが怒気がこもった声で娘の名を呼ぶ。
「アイラぁっぁぁぁぁ!」
「はぃ! ごめんなさい、もうしません!」
ベラの暴走は一瞬で終る。マモルたちは揃って安堵する。
「大人しく座って待ってろ!」
「は、はい!」
ドアの隙間から顔を覗かせたパイウスが言うとアイラは大人しく座る。
マモルは面白い親子だなと思いながら眺めていると妹の夏鈴を思い出す。マモルの両親は就職したあと交通事故で亡くなり、マモルが夏鈴を引き取り育てていた。けど、マモルも亡くなり、今は夏鈴一人であの家にいると思うとマモルは心配で仕方ない。
「あいつ、どうしているのかな……」
思わずつぶやいたことにベラはフード出て肩に止まりマモルの顔を覗き込む。
「マモルさんどうかしました?」
「え、あ……妹のこと考えてたんだ。
俺が死んで今頃どうしているのかなって……まぁ意外とあいつは図太いし両親と俺の遺産でどうにかしてるでしょ」
「マモルさん……」
ベラが何かを言おうとしたときパイウスが戻ってきて無駄に凝った形に切られた果物がマモルの前に出される。
「す、すごい……」
「すごいだろ! がっはっは!」
パイウスも椅子に座りようやく食事を始める。
アイラが作った料理に舌鼓を打っているとアイラが尋ねてくる。
「マモルさん、お口に合いましたか?」
「はい、とっても美味しいです」
「よかった……それと、さっきはごめんなさい。
可愛いの見ると触りたくなっちゃうの……ククリちゃんと妖精さんもごめんなさい」
ベラは食事を一旦止めてアイラの前に行く。
「気にしてないですよ。
まだ自己紹介してませんでしたね、ベラですよろしくお願いしますアイラさん!」
「うぅ……こちらこそよろしくベラちゃん!」
アイラはうれし涙を流している。ククリはどうすればいいという困った顔でマモルを見る。
マモルはそのしぐさが可愛いと思い頭を撫でる。
「ククリが決めな」
「ワフ!」
ククリも食事を止めアイラのもとへ。そのまま膝に頭を乗せる。
突然のククリの行動に慌てるアイラはマモルに視線を送るとマモルは頷き返す。
そのままククリの頭を優しく撫で始めるアイラ。顔が緩み切って変な顔になる。
「ありがとう」
「クゥン……」
長い時間撫でられククリは疲れ気味になりマモルの足元で伏せる。
ベラとククリとアイラの仲もよくなったところで食事も終わり、洗い物はアイラに任せマモルはパイウスに部屋に案内される。
「ここがマモルの部屋だ。自由に使ってくれ」
扉を開けるとベット一つに丸いテーブルと一人用の椅子だけの部屋だ。
「ありがとうございます、パイウスさん」
「気にすんな! なんかあれば言ってくれ」
「はい」
パイウスは去っていくとマモルは扉を閉め、ベットに大の字で仰向けになる。ベラはマモルの顔の横に座り、ククリはマモルの上に乗っかる。
「ククリ重いよ」
「ワフワフ!」
退かないよと言ってるようにククリは鳴く。マモルは諦めククリの毛に埋もれる。
その様子を優しい眼差しで見ていたベラが言う。
「マモルさん明日はどうしますか?」
顔をベラに向けマモルは答える。
「明日は身分証を作りに冒険者登録しに行くよ」
「わかりました、明日に疲れを残さないように今日はもう寝ましょう」
「そうするよ、ハァー……お休みベラ、ククリ」
「おやすみなさい」
「ワフ」
疲労が限界を迎えていたマモルはククリを抱きながら直ぐに眠りに就く。
ベラはテーブルの上にあるランプの明かりを消しに飛んでいく。部屋は月明かりのに照らされる中ベラはマモルの寝顔を眺める。
「……」
「ワフ?」
ククリが心配そうに鳴く。
「なんでもないです、明日早いんだからククリももう寝ましょう」
「ワフ……」
ベラは枕を背にし、ククリはマモルに抱かれながらマモルの後を追うように眠りに就くのだった。