ブレードウルフ
「っ!……いたい」
椅子でいつの間にか寝ていたマモルは盛大な音をたて椅子から落ちる。身体を起こし強く打った部分をさすりながらベットを見るとブレードウルフとベラはまだ寝ている。
マモルは起こさないよう近づき様子を見る。顔色も良くマモルは安堵する。
「良かった……」
マモルはブレードウルフの頭を優しく撫でる。すると、ぴくぴくと耳が動きゆっくりと瞼が開く。
「お、気が付い――」
「ガウ!!」
ブレードウルフはマモルの撫でている右手に噛みつく。マモルの手からは血が流れだし、さらにベットが汚れる。
「グルルルルル!」
「っ!」
さらにブレードウルフは噛む力を強め骨がミシミシと音が聞こえる。
「ん……どうしたんですかマモルさん」
騒ぎのせいで寝ていたベラが目を擦りながら起きだす。そして、その光景をみたベラは顔面蒼白になる。
「マ、マモルさん!」
「大丈夫だ!」
苦痛に歪むマモルの顔をみた後なのでマモルの言葉には説得力はなかった。
「で、でも!」
「っ! 俺に、任せて」
一向に噛む力を弱めないブレードウルフ。ベラはマモルの本気の目を信じて任せる。
マモルはブレードウルフの目を見る。
「怖かったよな……」
「グルルルルル」
「いっ! 自慢のブレードも、折られて、辛かったよ、な」
さらに痛みが増し涙目になりながらもマモルは言葉を続ける。
「ここ、にはお前を傷つける奴はいない、から」
無事な腕を伸ばしブレードウルフの顔にそっと左手を添えて、痛みを耐えながら安心するような顔で伝える。
「安心していいから、な?」
「……」
マモルの言葉が届きブレードウルフは噛む力を緩めゆっくりと口を開ける。
ブレードウルフは真っ赤に染まったマモルの右手をペロペロと舐める。
「ありがとう」
マモルの言葉を信じてずっと見守っていたベラが物凄い勢いで泣きながら飛んでくる。
「マモルさん! 手が! 今ヒールを掛けます!」
ベラの身体から光が発せられるがすぐに光が収まる。
「うぅ……ごめんなさいマモルさん……まだ魔力が……」
マモルは近くにある布で右手を押さえる。それから落ち込むベラの頭を撫でる。
「大丈夫だよ」
ベラは必死に傷を治す方法かないか考える。
「そうだ、あの魔法なら! マモルさん、その手だけ指定範囲してブレードウルフに噛まれる前の状態を想像しながらリターンって唱えてください!」
「リターン?」
「説明は後です、早くお願いします」
「わかった」
ベラに言われた通りに想像し魔法を唱える。
「リターン」
すると、マモルの手は時間が戻るように傷が無くなり元の状態に戻る。
マモルは右手の甲とひらを交互に見ながら驚く。
「すごいな、この魔法……リターン……時間を戻す魔法なのか?」
「はい、その通りです。ただ、この魔法には注意点がありまして……どこまで戻すのかを想像しないで使うと存在する前に戻ります。つまり、消滅してしまうんです」
「え、そんなに危険な魔法なの!?」
「使い方さえ間違えなければ最強の魔法ですよ?」
「そ、そうなんだ……」
マモルはリターンの魔法を極力使わないように誓うのだった。
「ワオン!」
「お、おいやめろよ」
右手が治ったの見たブレードウルフはマモルの顔ペロペロと舐めだす。その時、ブレードウルフの額がマモルの目に入りるとあることを思いついたことをベラに確認する。
「こいつの額のブレードってリターンで直せるのか?」
「はい、右手を治した要領でやれば可能です」
「わかった」
マモルはブレードウルフの顔を両手で押え目を見ながらこれからやることを伝える。
「今からお前のブレードを元通りにするよ。ちょっと動かないでね」
「ワフ!」
ブレードウルフは早く直しって言っているように一鳴きすると頭を下げる。
折れたブレードに触れマモルは魔法を唱える。
「リターン」
折れたブレードの剣先が戻り約二十センチ程の長さに戻る。無事に元通りに出来たことにマモルは安堵する。
マモルは立ち上がりブレードウルフを鏡の前に連れていく。
「どう? ちゃんと元通りになっているかな?」
「ワフ!」
鏡の前で直ったブレードを何度も確認したブレードウルフは振り返り尻尾を激しく振り、マモルの周りをぐるぐると回る。
そんな様子をみたマモルとベラは顔を見合わせ笑う。
マモルはベットの端に座るとブレードウルフも後からついて行き、頭をマモルの膝の上に乗せて撫でて欲しそうな目で見てくる。マモルは身体を撫でるとブレードウルフは目を瞑り身体をマモルに預ける。
「すっかり懐いてますね」
「そうだな」
ブレードウルフの毛並みを堪能するマモルにベラは言う。
「ここまで懐いていますし、仲間にしましょう!」
「この子次第だと思うけど、仲間になってほしいな……」
マモルがそう口にするとブレードウルフは仲間になりたそうにマモルを見上げる。
「なぁ、俺たちについて行くるか?」
マモルが尋ねると。
「ワフ!!」
と元気よくブレードウルフは答える。
「そっか、これからよろしくな。そうなると、名前ないと不便だよな……」
マモルはいい名前が無いか考える。
「そうだな……ククリ、なんてどうだ?」
「ワフワフ!」
ブレードウルフ改めククリは嬉しそうに鳴く。
「改めてよろしくなククリ。
そうだ、自己紹介はまだだったな、俺はマモル。でこっちが」
「ベラです、よろしくお願いしますククリ!」
「ワフ!」
自己紹介も終わり、部屋にある時計を見ると夕方の五時になっていた。
「そろそろ夕食にするか」
「ワフワフ!」
ククリもお腹が空いていたようで同意する。
「肉はまだあったよな、焼きたいけど外にまだあの三人組がいると面倒だな……」
マモルが悩んでいるとベラが提案する。
「なら、新たに部屋を作ってみては?」
「え、作れるの?」
「部屋一つしか作れないって言ってませんよ?」
マモルはディメンションホームの説明したときのベラの言葉を思い返す。
「たしかに、言っていないな」
「じゃあ早速作りましょう! 今までのことを思い出してやってみてください」
「やってみる」
マモルは元の世界のキッチンを想像し、なにもない壁に向かって唱える。
「ディメンションホーム!」
壁に新たな木製の扉が現れる。扉を開けるとそこにはコンロや流し台、レンジや冷蔵庫もある。冷蔵庫を開ければ最後に見た中身のそのまま。
「相変わらずチートだな……」
思わずマモルは呟く。
「早く夕飯にしましょうマモルさん!」
「ワフ!」
「よし、調味料もあるし、ククリが仲間になったことを祝って豪華な料理にするか!」
マモルは時間をかけ鳥のから揚げやとんかつ、ステーキなど大量の肉料理を作る。それだけじゃバランスが悪いと色とりどりのサラダに具材たっぷりのスープを作り終わると、ちょうどごはんが炊き上がる。
お皿に盛ると一旦ディメンションボックスにしまい部屋を移動。押入れからテーブルを取り出し乗せれる分だけ乗せる。
「では、ククリが仲間なったことを祝してカンパーイ!」
「カンパーイ!」
「ワオーン!」
マモルの掛け声で食事が始まる。ベラは野菜と果物中心でククリは肉中心に食べる。マモルは久しぶりの米も噛みしめて味わう。
楽しい食事を終え、皿を流しに置いたあと血で汚れたベットをリターンで元通りにする。
マモルは仰向けでベットに横になると右側にククリ、ベラは左側に横になる。
「おやすみベラ、ククリ」
「おやすみなさい」
「ワフ……」
腹が満たされたことで睡魔が襲ってきて二人と一匹はすぐに眠り就くのだった。