世界のこと
「おお、すごいなー」
ベラの案内のもと歩いていると近くにとても大きく、水が透き通っている湖がマモルの目の前に現れる。
湖に目を奪われているマモルをよそにバラは肩から飛び離れ近くにある巨木の所まで移動する。
「マモルさんこっちです」
ベラに呼ばれマモルも移動し、そこらへんに転がっていた座るにはちょうどいい石に腰を下ろす。
「じゃマモルさん、この葉っぱの上にクリスタルホーンラビットを置いてください」
ここに来る道中で採取した葉っぱの上に置くようにとベラは言うが、マモルはそう言われてもやり方が分からない。
「どうやるんだ?」
「あ、説明してなかったですね。
クリスタルホーンラビットを葉っぱの上に出すように想像しながら、さっき使った魔法を唱えてください」
言われた通りにマモルは魔法唱えると葉っぱの上にクリスタルホーンラビットの肉と素材に別れて置かれた。
倒した時のままに出るかと待ち構えていたマモルは拍子抜けする。
「どうなってるの?」
「ディメンションボックスは指定した範囲を収納する魔法です。魔物を入れれば食べれる部分はお肉に、それ以外は素材に別けてくれます。また、収納内は時間経過しない大変便利な魔法なんです!」
魔法を熱く語るベラに若干引いてしまったマモル。
「そ、そうなんだ。便利なんだなー」
こんな感想しか出ないマモルにベラは呆れる。
「もう……
その時、マモルから空腹を訴える腹の音が鳴る。
「それより、この肉どうするの?」
ここにはガスコンロもないし、火を起こす道具もないのだ。どうするのかマモルは尋ねる。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!」
ベラはパッチンと指を鳴らすとマモルの目の前に調理器具一式と携帯コンロが現れる。
「これどうしたの?」
「これは全て神様から貰った物です。
本当はマモルさんに渡すものだったんですが、まだディメンションボックスや魔法の使い方を分かっていないと邪魔かと思われた神様は一時的に、私が持つことになったのです」
「そうだったんだ。
神様に感謝しないとな」
マモルはそれと、って言うとベラの頭も撫でる。
「ありがとうなベラ」
「えへへ」
マモルに撫でられ嬉しそうな顔になるベラ。
そのあと、魔力で動く携帯コンロの使い方を教わり早速ブロック状のクリスタルホーンラビットの肉を焼いて行く。調味料がないため焼いただけの料理になってしまたっが仕方ないとマモルは諦め、少し遅めの朝食を取る。
「うん、普通に美味い」
初めて食べた魔物の肉は元の世界で食べた肉より美味しくマモルは一気に食べる。ベラは何処かで拾ってきた果物を食べていた。
腹も満たされ満足したマモルの様子を見てベラが話し始める。
「マモルさんが気になっていること話しますね」
「うん、頼む」
「まずは、この世界の事からですね。この世界は大きく五つの国で成り立っている世界です」
ベラは順番にそれぞれの国の特徴を語る
「まずは王国カンシャス。
この国は様々な種族を受け入れている中立国になっています」
「平和な国ってこと?」
「はい、他の国よりかは平和です。
次に、帝国バアルスラ。この国は人族主義の者が多く、色々と問題を起こしている国です。行くときは気を付けてください」
面倒ごとは困ると思ったマモルは行かないと心に決める。
「その次に聖国プロセティア。他の種族も少なからずいますが、ほとんどが天使族と呼ばれる種族が暮らしている国です。何千年前までは魔国と争っていたんですが今では平和条約が交わされ比較的平和な国となりました」
「ふーん」
今が平和なら行ってみたいと思うマモルだった。
「そして、今少し出た魔国グウィディチトル。この国も他の種族も少なからずいますが、ほとんどが魔族と呼ばれている種族が暮らしている国です。この国は力が全てなのが特徴ですね」
「実力主義ってこと?」
「そうです。
では、最後は技国ケレスヴァティー。主な種族はドワーフやエルフです。他国より技術が優れていて、独占せず他国にその技術を販売している国です。
以上になります。何か質問ありますか?」
しばらく考えたが特になかったマモルは首を横に振る。
「特にないかな……ありがとなベラ」
「いえいえ。はっ! マモルさん直ぐに木に隠れてください!」
ベラに言われ木に隠れていると全身傷だらけの獣が一匹湖に近づき水を飲む。その後から三人組が来るのを気づいた獣は三人組に対して威嚇をする。
「おい、もう少しだ。油断するなよ。ディズは右から、ゴレイは左だ」
スキンヘッドの柄の悪そうな男が言う。そして、じりじりと獣との距離が縮むのマモルは遠くで見ていた。
「なぁベラ、あの魔物なにかわかるか?」
「あれは、ブレードウルフですね。気性は温厚な方なんですが、額から伸びているブレードが上質素材な為乱獲され数が少なくなっている魔物です」
マモルはブレードウルフを見ると額から伸びているブレードの剣先が無くなっていることに気づく。
「あいつらにやられたのかな?」
「かもしれません」
ブレードウルフは立っているだけで限界なのか三人組がさらに近づくが動かない。
「ベラ、あいつを助けてもいいかな?」
経緯は分からないなが弱っている者を一方的にいたぶるのを黙って見続けることが出来ないマモルは真剣な眼差しでベラを見る。ベラは軽くため息をついたあと笑顔で言う。
「これはマモルさんの人生なんですから、どうするのか決めるのはマモルさんです」
「わかった」
善は急げとマモルは三人組を囲める範囲を想像して魔法名を唱える。
「フリーズ!」
ブレードウルフは諦め目を閉じ、三人組が襲い掛かるところでどうにか間に合った。マモルは安堵する。
「おーい! 大丈夫か?」
マモルは不思議な光景をみて困惑しているブレードウルフに声を掛け近づく。また敵が来たと思ったブレードウルフはマモルに威嚇する。
「俺は敵じゃない!」
マモルは身振り手振りで敵じゃないアピールする。その時、とうとう限界が来たブレードウルフは倒れ込む。
「お、おい」
マモルは慌てて近づき傷から血が流れているブレードウルフを支える。
「ベラどうすればいい!?」
手に生暖かい血が付きマモルは混乱する。
「落ち着いてくださいマモルさん!」
マモルを落ち着かせるために頬を軽く叩くベラ。
「落ち着きました?」
「わるい……」
叩かれた頬をさすり我に返ったマモル。
「では、一旦ここを離れましょう。マモルさんディメンションホームお願いします」
「わかった」
魔法名を唱えると扉が現れる。
「次にブレードウルフに触れ、ブレードウルフのみを指定範囲でフリーズを使って時間を止めてあげてください」
気絶しているブレードウルフに使うと流されている血が止まる。
「止まった!」
「ブレードウルフを担いで部屋に行きましょう」
中型犬並みの大きさのブレードウルフを担いで部屋に入る。そして、ブレードウルフをベットにのせ魔法を解くとまた血が流れだす。
「後は私に任せてください」
ベラはそう言うとブレードウルフに触れるとベラから暖かい光が溢れる。すると徐々に傷が塞がっていく。しばらくすると傷は完全に塞がる。
「これで……大丈夫……かなと」
額に汗を流し疲れたのかブレードウルフの上で横になる。マモルは心配してベラに顔を近づける。
「ベラ大丈夫か?」
「はい……少し、魔力使っただけなんで、そんな心配そうな顔……しないでください」
「ありがとうベラ。ゆっくり休んでて」
マモルはベラの頭を撫でながらお礼言うとベラは眠りに就く。
背もたれ付きの椅子に座りマモルはベラとブレードウルフが目覚めるのを見守っていたのだがいつの間にかマモルも寝てしまっていた。