旅立ちの日
多くの人で賑わっている夜の街をマモルは走った。右手に小さい種のような物を握りしめ。だが、今夜は何故か人がいつもより多く中々前に進めないでいた。
マモルは途中の脇道に入りディメンションホームを唱え、扉を作りククリとクロが入ってからマモルも入り扉を閉め、新たに教会の前に出る扉を作り外の世界に出た。
先ほどとは打って変わって教会の周りは静寂で人影は無かった。
「フェンスが閉まってる……どうすれば」
教会の入り口のフェンスが閉まっておりマモルは悩んだ。最悪フェンスをよじ登ってっとマモルは考えるが思い悩む。
その時だ、教会から一人の女性が出てくる。こちらに気づき駆けてくる。
「マモルさん!? どうしたんですかこの時間に!? それよりももう大丈夫なんですか!?」
イビルトレントを討伐した時のパーティー、ティシュが放心状態のマモルの状態知っている為心配して声を掛けてくる。
「あ、はい……あの時はご心配お掛けしました。今は大丈夫です」
まだ立ち直っていないマモルだが、あまり心配をかけさせたくなくマモルは嘘をつく。
「そうですか……よかった」
ティシュは胸を撫で下ろす。
「ティシュさん、今教会って入れますか?」
「今ですか? 今日はもう終わってしまって……」
「あのティシュさん! アテペウス様にどうしても確かめたいことがあって……お願いします教会に入れさせてください!」
マモルはフェンス越しに九十度頭を下げる。
「アテペウス様、に? 一体どうやって……」
「お願いします!」
頭を下げ続けるマモルをみてティシュは気になることを尋ねようとしたが止める。
「……わかりました。こちらに」
ティシュは閉じているフェンスを開けマモルを招き入れる。
「ありがとうございますティシュさん」
「今回だけですよ?」
ティシュの後を追ったマモルたちはアテペウスの神像が置かれている部屋に案内される。
「外で待ってますね」
そう言いティシュは外へ。マモルは軽く会釈する。
扉が閉まりマモルは神像に対して祈りを始める。
「マモル、よう来たのう」
後ろからアテペウスに声を掛けれマモルは立ち上がり振り返る。
「お久しぶりですアテペウス様。あの――」
「わかっておる。ベラの事じゃろ?」
「はい……」
「ついてまいれ」
アテペウスが歩き出す白一色の神界に赤や黄、白など様々な種類の花が咲き誇り、マモルが見たこともない蝶々が飛び交っている庭園が現れる。
「わふ!」
「え、クロ? それとククリも!」
蝶々と共にクロとククリがマモルのもとに駆けてくる。
「儂が呼んでおいた。そやつらも大事な仲間じゃろう?」
「はい、ありがとうございますアテペウス様」
しばらく歩き噴水の近くに着くとアテペウス白を基調にした椅子とテーブルを生み出し座るように促す。
「マモル、持っている種を見せてみろ」
「やっぱこれ種だったんですね……どうぞ」
ずっと握っている種をアテペウスに渡す。
「ふむ、これはベラのもとになった花の種じゃの。最後の最後でベラが残したものじゃ、この種を咲かせれればベラは戻るだろう」
「本当ですか!?」
真剣に聞いていたマモルの表情が明るくなる。
「正し、条件がある」
そんなマモルにアテペウスは話を続ける。
「お主が倒した、いや消滅させたラースという者は大罪の悪魔と言われている者だ」
「大罪の悪魔ですか?」
マモルはオカルトとかには疎い方だがテレビとかでも何となく知っている七つの大罪を思い浮かべる。
「大罪の悪魔。全ての悪魔の君臨している八体の悪魔を指す言葉じゃ」
「八体? 七体じゃなく?」
「お主の世界では七つの大罪と言われているようだな。それと少し違うが一体加わった八体がこちらの世界の大罪の悪魔じゃ」
さらにアテペウスは詳しく教える。
「暴食、色欲、強欲、憤怒、悲嘆、怠惰、虚栄、傲慢の八つにそれぞれの悪魔がいるのじゃ。ラースは確か憤怒を司っていたかの。そやつらを倒せれば大罪の証が手に入り全部集めれば、希少なアイテム世界の理というのが現れる。それを種にかざせばよいのじゃ」
アテペウスの話を聞いていて一つの疑問が生まれマモルは尋ねる。
「あの、ラースを倒したんですがそんな証は出ませんでしたよ?」
「いや出てたと思うが、お主が空間ごと消滅させるもんじゃから一緒に消滅させたんじゃよ」
「そんな……!」
慌てて立ち上がるマモルをアテペウスは宥める。
「落ち着くのじゃマモル。まだ希望はある。大罪の悪魔は封印されぬ限り一定期間が経てばまた復活すベるのじゃその時に手に入れればよい」
「わかりました。ありがとうございますアテペウス様。最後に一つだけいいですか?」
「なんじゃ?」
「大罪の悪魔たちの居場所とかってわかりますか?」
「ふぬ。詳しい居場所は分からぬ。世界中を巡るしかないかのう」
「世界を巡る……」
ベラと一緒に行きたかったなあと内心思うマモル。それに気づいたのかククリとクロがマモルを見上げる。
そんな二匹をマモルは優しく撫でる。
「わかりました。世界を巡る旅に出ます」
「そうか。気を付けるのじゃぞ?」
「はい」
神界を去ったマモルたちは部屋の外で待機しているティシュにお礼を言い教会を出た。
寄り道をせずアイリの家に帰ると居間の明かりがついていることに気づいたマモルは居間に向かうとアイリがテーブルに突っ伏して寝ていた。
「アイラ、ここで寝たら風邪引くよ?」
肩を揺らし起こすとアイラの瞼が動く。
「うぅ……ま、マモル……?」
「ただいまっておわ!」
意識がはっきりしたアイラはがばっと起き上がりマモルに抱き着く。
「もう帰ってこないのかと思った……」
「……ごめん」
マモルは優しくアイラの頭を撫でる。アイラが落ち着いてから椅子に座りマモルは話し出す。
「アイラ、俺、旅に出るよ」
「……ベラの為?」
「うん」
「いつ行くか決めたの?」
マモルは腕を組み考え込む。
「準備ができたら出発するから、多分ニ、三日後かな」
「わかった。私に手伝えることがあったら言ってね?」
「うん」
話もひと段落するとアイラは大欠伸する。
「ふぁー、そろそろ寝るね、おやすみマモル。ククリとクロもおやすみ~」
「おやすみ」
「ワフ!」「わふわふ!」
アイラを見送った後マモルたちも自室に向かい眠りに就く。
そして三日後。準備が終わったマモルたちは街の出入門の前にいた。
見送りにアイラ、エレン、エレミレの三人が来ていた。
荷物はディメンションボックスに入っている為ほぼ手ぶらなマモルは三人に振り返る。
「見送りありがとうございますエレンさん、エレミレさん」
「気を付けて行って来いよ」
「はい」
「マモルさん、ご武運を」
「ありがとうございます」
エレミレとエレと話した後アイラに向く。
「アイラ行ってくるね」
「うん。気を付けて。いつでも帰ってきていいからね! それと身体には気を付けてね! それから、それから……」
「アイラ落ち着いて」
慌てるアイラの様子に愛おしさを感じ微笑むマモル。
「ベラと一緒に戻ってくるから待ってて」
「うん! 絶対、絶対だからね! 約束だよ!」
お互いに小指を出し指切りをする。
「じゃあ行ってきます!」
「ワフ!」「わふわふ!」
「いってらっしゃいマモル、ククリ、クロ!」
手を振るアイラ。その後ろでエレンとエレミレも手を振る。
そしてマモルたちは歩き出し門を潜りスーリンガの街を出ていく。大切な仲間ベラのためにマモルは長くて険し旅に出るのだった。