時空間魔法
ピピピピピピピピピ
「ん……」
けたたましく部屋に鳴り響いている目覚まし時計にマモルは手を伸ばし、目覚まし時計の上部にある停止ボタンを押す。
「あと、五分……」
そう言いマモルは枕を抱き枕にし二度寝する。静寂が部屋を包む。
三十分後。マモルはゆっくり起きだし、軽くストレッチを時計を見る。
「…………八時! やっば遅刻だ!」
マモルは慌ただしくベットから下りる。洋服を脱ぎ、タンスから白のワイシャツ取り出し着たあと黒色スーツのズボンをはいたとき、鏡に映る自分の姿に違和感を覚える。そこには若返った姿が映っていた。マモルはしばらく鏡を見ていた。
「おはようございます、マモルさん」
ようやく起きだしたベラはふわっと飛びマモルの前で可愛いらしい笑顔で挨拶をする。そして、マモルはベラを見たことでここは別の世界で自分は死んだと思い出す。一番上までしめてたボタンを外し、ベットに座る。
「マモルさん?」
ベラはマモルの膝に乗り下から心配そうに顔を覗く。そんなベラにマモルは微笑む。
「いや、なんでもないよ。おはようベラ」
「はい、おはようございます」
ベラの笑顔をみて元気を貰ったマモルはこの小さな妖精がいればなんとか生きていけると思うのだった。
「お腹空いたな……」
この世界に来てから一切障子をしていないことを思い出し呟く。
「では、朝食探しに行きましょう!」
「なんか、魔法で出せないの?」
「むりです!」
マモルの提案を笑顔でバッサリ切り捨てるベラ。マモルは諦めて外に行くことに決めた。茶色のシャツに昨日と同じズボンに着替え扉を開けると森は太陽の日差しで明るく、空は青く雲一つない快晴の空だ。扉は自動で閉まりぱたんと閉めると跡形もなく扉は消える。
「ベラ、扉が消えたんだけど」
扉があったところを指さしながらマモルは尋ねた。
「大丈夫ですよ。またマモルさんが魔法を唱えたら扉が現れますよ?」
そう言われマモルは試しにディメンションホームの魔法を唱えると消えた扉が同じ場所に現れる。中も確認したがそのままだ。
「そのままだったでしょう?」
腕を後ろで組みドヤ顔で近づくベラ。何とも言えない顔になったマモル視線をベラから外すと、放置してそのままのゴブリンの死骸が無くなっているの気づく。
「あれ、ゴブリンの死骸が無い」
「それなら他の魔物が食べたと思います」
「そうなんだ。それで、何を探すんだ?」
早くお腹に何か入れたかったマモルはさっさと話題を変える。
「そうですね……マモルさんは何食べたいですか?」
朝食はいつも軽めに食べているマモルは腕を組み思考する。
「……肉食べたい」
昨日から食べてないも込みで肉を要求するマモル。
「お肉ですね。……近くに、ホーンラビットがいます。こっちです」
そう言うとベラは飛んでいく。だが、マモルはその場で止まりベラに尋ねる。
「あのさ、ホーンラビットって角が生えた兎であってる?」
「はい、あってます。ちなみにすばしっこい魔物です」
「なるほど……って、今からその兎を倒すの!?」
「そうですよ?」
さも当たり前に答えるベラ。
「そして、お肉を手に入れましょう!」
「え……倒した後解体するのか……」
ただのサラリーマンのマモルが生き物を解体なんてしたことないのは当たり前なのだ、そりゃ不安にもなる。
「あ、そっちを心配してたんですね。その辺は大丈夫です!」
ベラは肩に止まり、よいっしょと座る。
「では、とりあえホーンラビットを倒しに行きましょう!」
「はぁ……」
ベラが指さす方にマモルは渋々と従い歩き出す。
しばらく歩くと花を食べているホーンラビットをみつけ、茂みから観察しているとベラは静かに興奮気味に言う。
「マモルさん、マモルさん! あれ、クリスタルホーンラビットですよ!」
ですよ!って言われてもマモルはクリスタルホーンラビットなんて知らないし、聞いたことない。だから違いなんてわからない。何故ベラはここまで興奮しているのかマモルは理解できていない。
「なんで興奮しているのか分からないけど、とりあえず落ち着けベラ」
頭をぺしっとされベラは頭を押さえ涙目になる。
「痛いですよ……」
「わるいわるい、それでクリスタルホーンラビットってなんだ?」
「クリスタルホーンラビットはホーンラビットの希少種です。角は希少価値の高いクリスタルで出来ており売れば一生遊んで暮らせる程なんです!」
「へーそりゃ凄いな」
どこか他人事のように言うマモルにベラは呆れる。
「なんですか、その反応は……」
「とりあえず、あいつを倒せばいいんだな?」
ベラの反応をスルーして提案するマモル。
「……はい、では昨日使ったディメンションカッターの他に別の魔法も使ってみましょう」
そう言いベラはマモルに耳打ちで伝える。ちなみにクリスタルホーンラビットは昼寝をしている。
「……わかった、やってみる」
マモルはクリスタルホーンラビットを囲めるぐらいの円を想像しベラから教えてもらった魔法を唱える。
「フリーズ!」
しかしクリスタルホーンラビットには変化は見受けられない。
「失敗したか?」
「いいえ、クリスタルホーンラビットの近くで舞っている葉っぱを見てください」
ベラが指さす方をみると葉はまるでそこだけが時間の流れが止まっているように空中で静止している。ベラが教えたのは範囲内の時間を止める魔法だ。
「成功しているので近づいてみましょう」
肩にベラを乗せてマモルはクリスタルホーンラビットに近づく。目の前に近づいてもクリスタルホーンラビットは石のように動かない。
「すごいな……なぁ、俺が範囲内に入ると俺も停まるのか?」
素朴な疑問をベラに尋ねる。
「大丈夫ですよ。クリスタルホーンラビットの頭撫でてみては?」
マモルはおそるおそるに手を伸ばし頭を撫でるが、時間が止まっている為毛並みの感触はしなかった。それに影響が無い事を確認する。
「他にも魔法があるのか?」
時空間魔法に興味が芽生え始めたマモルは尋ねる。
「あります。けど、先ずは目の前のクリスタルホーンラビットを倒しましょう」
「そうだな」
マモルとベラは少し離れてからディメンションカッターを唱え、クリスタルホーンラビットは角を避けて真っ二つになる。フリーズの影響なのか血は流れ出ていなくマモルは安堵したが、生き物を殺す感覚に未だに慣れず顔を青ざめる。
「大丈夫ですよマモルさん。少しずつでいいので慣れて行きましょう。私が傍にいますから」
そんなマモルを察したベラは笑顔でフォローする。
「ありがとうベラ。それでこの後は?」
「クリスタルホーンラビットに手をかざしてディメンションボックスって唱えてください」
「分かった。ディメンションボックス!」
魔法を唱えるとクリスタルホーンラビットは影一つも残さず消えた。
「え、どこ行ったの?」
「それは後にしてとりあえず、あっちの方に開けた場所があるのでそこで朝ごはんにしましょう」
マモルの質問を後回しにしてベラは指をさしながら言う。
「……あとで絶対聞かせてもらうからな」
「分かってます。あっちですよ」
「はいはい」
マモルとベラは静かな森の中を歩き開けた場所を目指すのだった。