小さな相棒
「あなたがマモルさんですか?」
つぶらな瞳で掌に乗っている小さな妖精が尋ねる。元の世界では絶対に合わない存在に出会い頭が追いつていないマモル。
「?」
放心状態のマモルはなかなか答えてくれないのを疑問に思い頭を傾ける妖精。
「あ、ごめん。俺がマモルだ。君は?」
「私は、神様よりマモルさんのガイドを任させれた妖精です。これからどうぞよろしくお願いします」
掌で器用にスカート?部分をつまんで挨拶をする妖精。
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
森の中で正座をしてぎこちなく挨拶を返すマモル。
その時、ガサガサと草木をかき分け此方に近づく音が聞こえる。
「マモルさん、こっちです」
妖精はふわっと飛び茂みに隠れるように指示をする。マモルは大人しく言われた通りに茂みに隠れると背丈は子供ぐらいで全身緑色の存在が現れた。右手には錆びた剣を持っている。
「妖精さん、あれはゴブリン?」
昔に読んだ異世界系ライトノベルを思い出し妖精に尋ねるマモル。
「はい、魔物のゴブリンで合ってます。他に仲間もいなさそうなのでマモルさんが貰った力を使ってゴブリンを倒しましょう」
「え、無理無理無理! 虫とかならまだしもあんな化け物は無理だ!」
「マ、マモルさん! しゃがんでください!」
「あ」
いつの間にか茂みから上半身をさらし大声で叫んだマモルは、はっと思い出しゴブリンを見るとゴブリンはマモルを視界にいれ近づいてくる。
「やばい、やばい! 逃げなきゃ!」
平和な日本じゃ味わうこのない恐怖に逃げ出そうとするマモルの顔の前に妖精は飛び言う。
「逃げてもゴブリンは執拗に追いかけてきます。ここで倒さないと!」
「で、でも、俺!」
妖精はさらに顔に近づきおでこに手を置く。
「大丈夫です。マモルさんなら出来ます。そのための私ですから」
妖精の笑顔で少し落ち着いたマモルは、近づいてくるゴブリンを見たあと妖精をみて覚悟を決める。
「……わかった、どうすればいい?」
「詳しいことは省きます。私の言った通りに動いてください」
妖精はマモルの肩に乗る。マモルは無言で頷く。
「まず、ゴブリンが収まるぐらいの丸い円で囲むように想像してください」
ゴブリンは涎を垂らしながらさらに近づく。
「出来た、次は!」
「あとは魔法名を唱えるだけです。私の後に言ってください。ディメンションカッター!」
「ディメンションカッター!」
マモルが魔法名を唱えいるとゴブリンは突然真っ二つに裂け絶命する。人生初の戦闘を終えるとマモルは腰が抜けその場でしゃがむ。
「お、終わった……」
「お疲れ様です、マモルさん。お見事でした」
「今のはなんだったんだ?」
妖精は神様から貰った力を含め説明する。
「マモルさんが神様から貰った力は時空間魔法です。指定した範囲内の時間と空間を自在に操る魔法で、先ほどのは空間内の対象切り裂く魔法です。他にも色んな魔法があるんですが追々説明します」
「時空間魔法……俺が最も欲した力……」
何故と考えたマモルだが、昔、仕事が忙しいことに「時間が欲しい!」っと願ったことがあるな、と思い至る。真っ二つになったゴブリンを見た後盛大な溜息を吐きマモルは森の中で大の字に仰向けになる。妖精は心配そうにマモルの顔を覗く。
「マモルさん大丈夫ですか?」
「ちょっときつい……」
両手で各目を押さえながら答えるマモルに妖精は言う。
「休んでいるところごめんなさい。森の中は安全じゃないのでディメンションホームって言う魔法を使ってそこで休みましょう」
早く休みたかったマモルはむくりと起き上がり妖精に尋ねる。
「どんな魔法なんだ?」
「指定した範囲内に亜空間を作り出す魔法です。その亜空間の中ではマモルさんの想像によって快適な空間に作り変えることも出来ます。今回は想像しやすいようにマモルさんの部屋を思い浮かべてください」
マモルはベットや机、タンス等の配置を事細かに想像して魔法名を唱える。
「ディメンションホーム!」
するとマモルの目の前にドアノブが付いた木製の扉が現れる。
「成功ですね。では、入りましょう!」
マモルはドアノブを捻り開けると、想像した通りのマモル部屋がそこにはあった。
「マモルさんの部屋広いんですね」
妖精は部屋の中を飛び回り探索し始める。
「はは……魔法ってすごいな……」
乾いた笑いをした後マモルはベットにうつ伏せで飛び込む。頭の近くに妖精は飛んできて座る。
「本当にお疲れ様でした、マモルさん」
柔らかい笑顔に言う妖精にマモルは小さい頭を撫でる。
「妖精さんの髪の毛って柔らかいんだね……」
「あぅ……あ、ありがとうございます」
マモルの突然の行動に頬を赤く染める妖精。
「妖精さん――そういえば、名前を聞いてなかったな。君の名は?」
「私には、名前がありません」
「そうなんだ。名前ないと不便だよな……俺がつけてもいい?」
「はい、お願いします」
身体を起こし妖精を観察しながら名前を考えるマモルは、妖精の頭にある黄色い花飾りに目が行く。
「その花飾りってなんの花なの?」
「これはガーベラって言う花です。実は私、ガーベラの花の妖精なんですよ?」
恥ずかしく頬を掻きながら笑顔で言う妖精。
「そうなんだ。じゃあ……ベラ、なんてどう? 少し安直なんだけど……」
「ベラ、ベラ……」
妖精は何度ベラと反芻する。
「どうかな?」
個人的にもしっくり来ているマモルは尋ねる。
「はい! 素晴らしいお名前です! ありがとうございますマモルさん!」
妖精――改めベラは嬉しさのあまりマモルの周りを上機嫌に飛び回る。
「気に入ってもらってよかった。ふぁー……眠い……えっと、ベラ少し寝るね」
「はい、おやすみなさいマモルさん」
「おやすみ」
マモルは身体を横にするといつも嗅いでる部屋の匂い安心し深い眠りに就く。ベラも枕を背もたれに
して眠りに就くのだった。