魔物からの頼み
シャドーウルフが先導してどんどん暗い森の奥に進むマモルたち。
途中までは後ろに付いて走っていたマモルなのだがシャドーウルフとククリの足が速く徐々に引き離され、きつくなったマモルは足を止めていた。
「はぁ……はぁ……体力キッツ……」
額から流れる汗を拭きながら二匹の後ろ姿を見ていると二匹は振り返りマモルを見ていた。
「……よし、休憩終わり!」
マモルが走り出そうとその時ベラが不思議そうに尋ねる。
「マモルさん、なんで使わないんですか?」
「……あ、忘れてた」
ギルドマスターのヴァーナルと戦った時はあんなに魔法を使っていたのにうっかり忘れていたマモルだった。
「ほら、ククリとシャドーウルフが待ってますよ」
「わ、わかってるって。クイック!」
マモルは自身を起点にし見える範囲を指定してクイックを使い二匹に追いつく。
追いつきそうになった時ククリとシャドーウルフが走り出し、マモルは二匹と並走して森の中を進んでいく。
しばらく進むと一本の巨木がマモルたちの前に現れ、シャドーウルフが止まる。空はもうすっかり茜色に染まっていた。
「ここなのか?」
「わふ!」
マモルが尋ねるとシャドーウルフが返答する。そして、シャドーウルフは巨木の幹に刳り貫かれている穴に入っていく。
マモルたちはしばらく待っているとシャドーウルフが戻ってくる。
「っ!!」
マモルはシャドーウルフの後ろからついてくる魔物に驚く。その魔物は大型トラック並みの大きさにシャドーウルフの漆黒の毛皮より黒く、鋭い眼差しに鋭い牙や爪を持っていた。
『お主が妖精とブレードウルフを連れている者か?』
「魔物が喋った!?」
魔物が喋ったことにマモルが驚いているとベラが訂正する。
「マモルさん、あの魔物――ダークネスウルフは念話を使って直接頭に語り掛けているんです」
「そ、そうなんだ。それよりダークネスウルフって?」
ベラが言った魔物名前をマモルは尋ねる。
「簡単に言えばシャドーウルフの上位種です」
「上位種? シャドーウルフが進化した存在ってこと?」
『我の問いに答えろ人間!』
マモルがベラに尋ねようとしたとき質問に答えなかったことに少し怒り気味のダークネスウルフは一瞬でマモルの前に現れ、ギラっとした目でマモルを睨む。
「あ、はい! そうです! ごめんなさい!」
必死に謝るマモル。
『そうか。ならついてこい』
ダークネスウルフは穴の方に歩き出す。その後にシャドーウルフにククリが続く。
「マモルさん、早く行かないとまた怒られますよ?」
「わかってるって。……なんでベラ落ち着いているんだよ?」
マモルは恐怖すら感じているのに何故落ち着いているのか尋ねた。
「なんでって、ダークネスウルフに敵対心がなかったからですよ?」
「からですよって……なら、教えてよ……」
マモルはため息をつく。
『早く来ぬか!』
「は、はい! 今行きます!」
慌てて歩き出し、穴の中に近づくが暗すぎて入るか躊躇ってしまう。
『何をしているんだ!』
いくら待っても来ないマモルに怒るダークネスウルフ。
「ご、ごめんなさい。実は暗くって……」
『……人間は不便だな』
マモルの理由を聞いて呆れるダークネスウルフ。
『これで見えるようになるだろう』
ダークネスウルフはマモルの額に鼻をちょこんとつける。すると、マモルの視界は暗い空間に適応していき穴の中がはっきり見えるようなった。
『一時的だ、時間が来れば効果はなくなるから早く来い』
「はい」
ようやく穴の中に入るマモル。しばらく進むとそこには数十匹のシャドーウルフが横たわっている。
よく見ると体の至る所を怪我をし、辛そうにしている。
「なにがあったんですか?」
マモルが尋ねるとダークネスウルフはゆっくりと口を開く。
『……他所から来た同族と縄張り争いだ。勝利はしたがこの有様でな、人間にほとんど懐かないブレードウルフが懐いているお主に頼みたい。仲間を助けてほしい』
ダークネスウルフは頭を下げマモルに頼む。
「助けてあげたいんだけど……今持っているポーションこれしかなくって」
ディメンションボックスからポーションを取り出し見せる。
「それにこの数だとベラも流石にきついですし……」
マモルはちらっとベラを見ると何故か呆れた表情をしていた。
「あの……マモルさん、リターンの魔法使えば……」
「あ! あはは……ごめん、忘れてた」
ククリに噛まれたときやブレードを治した時に使った魔法すっかり忘れていたマモルは素直に謝る。
「ダークネスウルフさん、治せそうなんで任せてください」
『おお、そうか。頼んだぞ』
「はい」
マモルは横たわっているシャドーウルフを全て囲むように範囲指定する。
その時、ベラが言う。
「あそこにいるシャドーウルフを状態を想像しながら唱えてくださいね」
「わかった」
ベラの言われた通りに想像しマモルは唱える。
「リターン!」
するとシャドーウルフたちの傷は徐々に戻っていき元の状態に戻る。そして、元通りになったシャドーウルフたちは気が付き、お互いの体を確認し合い、治っていることに喜んでる。
「お疲れ様です、マモルさん」
「ワフワフ!」
ベラとククリがマモルを労う。
『感謝するぞ、人間よ』
ダークネスウルフはお礼を言う。
「治せてよかったです」
『お礼がしたい。なんでも望むものを言ってみろ』
「え……」
急に言われ考えるが何も思いつかないマモル。
「ごめんなさい。今なんも思いつかないです」
『そうか……お、そうだ!』
ダークネスウルフは何かを思いついたのか一鳴きするとマモルたちと接触したシャドーウルフが駆け寄ってくる。
ダークネスウルフは駆け寄ってきたシャドーウルフを鼻で押しマモルの前に差し出す。
『こいつの両親は縄張り争いで亡くってな、よかったら連れて行ってやってくれないか? お前の助けになると思うぞ』
「わふ!」
シャドーウルフはつぶらな瞳でマモルを見る。
すると、肩に座っていたベラが言う。
「私はマモルさんの意見に従います」
次にククリがマモルに甘い鳴き声で甘えてくる。
「クゥン……」
マモルは頭を撫でながらククリに言う。
「はぁ……わかったよククリ。シャドーウルフを連れて行こうか」
「ワッフ!」
ククリは嬉しいそうに鳴くとシャドーウルフのもとに行き戯れ始める。
「ダークネスウルフさん。シャドーウルフを旅に連れていこうと思います」
『そうか、よろしく頼む。そうだこいつには名前がない付けたやってくれないか?』
「わかりました」
マモルはククリと戯れているシャドーウルフに近づき頭を撫でる。
「これからよろしくな。えっと、そうだな……クロ、なんてどうかな?」
「わふ!」
嬉しく鳴いた後マモルに飛びつき顔をペロペロしだす。おかげでマモルの顔は涎まみれに。
「改めてよろしくなクロ」
「わふ!」
無事ダークネスウルフの頼みを成し遂げたマモルは新たにシャドーウルフのクロを仲間にしたのだった。
ただ、外はすかっり夜になっていることにマモルたちは気づいていなかった。