序の3
このゲームにはある特色があった。それは「スキルチェンジシステム」と言われ、他のキャラクターが持っている固定の必殺技をバトル終了後に一つ取得できるというものであった。他にもメインの格闘ゲーム部分以外にもオープンワールド的なフィールドでキャラクターを動かしていわゆる狩猟ゲームができるモードもあったりしてそこで獲得した素材を使ってキャラクターの容姿を変えたりステータスの補強を行えたり(その補強部分を対戦時に反映させるかどうかを選べる項目もある)と従来の格闘ゲームからは一部かけ離れたゲームだったが、核となる対戦格闘部分がしっかりしていたため、ゲームセンターに通うような猛者からの受けは非常に良かった。ゲームを始める際にだらだらと表示される何語で書かれているのか分からない注意書き以外は。
リュウイチも当然その注意書きは読めず、そのまま一番下までスクロールさせて決定ボタンを押してゲームを始めた口である。そしてゲームをある程度やりこんだ所でそれは突然起こった。
「動くな!警察だ!」
そんなカビが生えたような常套句と共に根城にしていた地下ゲーセンに警察がなだれ込んできたのである。逃げ惑う客連中に紛れるようにリュウイチも慌ててゲームセンターから逃げ出した。そしてさらなる追跡から逃れようと道路に出ようとした次の瞬間、リュウイチの目には工事現場のワイヤーが切れて今まさにリュウイチを押しつぶそうという光景だった。
「了解しました。では、規約に則りこの人の魂をあちらに運びますね」
「ああ、よろしく頼むよ。どうやら彼はこの世界に対しての適応力がかなり高い。ひょっとしたらひょっとするかもだ」
「ほほう、それは楽しみですね」
「本人にとってどうかは分からんがね」
「まぁ、あの規約に署名したのですから望む望まないにかかわらず私は職務を全うするだけですがね」
近いようで、それでいて遠く感じる。そんな感じの声のやり取りが続いているのをリュウイチは遠くなていく意識の中で聞いていた。
これで一応序章の終了になります。