序の1
「せいっ!」
短い気合と共に左の拳が相手の腹部にめり込んだ。相手の口からは音にならないうめき声が漏れ出る。
「これで、終わりだ、っ!」
左拳を引き抜くと同時に相手の顎に向けて右の拳を固めてジャンピングアッパーの要領で拳を放つ。狙いは違わず相手の顎にクリーンヒット。相手はそのまま地面に倒れ伏した。
「ふうっ」
倒れた相手に向けて軽く残心を残したその人物は男としてみた場合やや小柄であった。しかしその身体は無駄なく鍛え上げられておりスリムでありながら筋肉質という、いわゆる細マッチョな体型をしていた。
「勝者、リュウイチ」
どこからともなく合成されたような声が聞こえてくる。その声と同時にリュウイチと呼ばれた男とその足元に倒れていた男の間に張り巡らされていた結界が解かれていく。そして、結界の外から眺めていた観衆からは驚愕の色がついたどよめきが広がっていた。
「嘘だろ、あのガレスが瞬殺かよ……」
「しかもあのチビ、闘士登録されたのつい先日だって話じゃないか」
「マジか! でもあの肉体はちょっとやそっとで鍛えられたようなもんでもないだろ」
あーでもないこーでもないと観衆は感想を言い合っている。その光景を眺めながらリュウイチと呼ばれた男は自分の拳をじっと見つめていた。
(ああ、この世界は間違いなくあのゲームの世界ななんだな)
ゲームの名前は「バトルマスターワールドオンライン」通称BMWO。そしてリュウイチの姿形はそのゲームの中で使用できるスピードとテクニックに長けたキャラクター「エギル」のものだった。
「どうして、どうしてこんな事になっちまったんだ!」
突然の大声に周囲が集まるのもお構いなしにリュウイチは慟哭した。
人生折返しを過ぎた所で「オリジナルの作品を創って、完結させたい」という願望を叶えるためになろうでの執筆をはじめました。定期的に更新できるかどうかはわかりませんが、マイペースで完結まで持っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。