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ロートル冒険者、吸血鬼になる  作者: 藤崎
第四部 ロートル冒険者、封印に挑む

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第十三話 ロートル冒険者、花嫁を迎える(前)

「アベル、よく聞くのじゃ」

「マリー……ベル……。やっぱ……普段の喋り方……の……ほうが、いいな」

「聞けとは言うたが、そういう感想は求めておらぬ!」


 大きなマリーベルが、小さなマリーベルの様なことを言う。

 同一人物なのだから当然だが、アベルは思わず笑ってしまった。よく顔が見えないが、怒り顔が目に浮かぶ。


「お陰で、元気が出たぜ」


 地面に身を横たえながら、アベルはそれでも笑うことができた。


 その空元気に、スーシャが敏感に反応する。


『腕を切り飛ばされて元気が出たのご主人様 やったー』

『やってねえよ。どんな変態だ』

『余のアベルを、引きずり込もうとするでないわ!』

『余の?』

『余の?』


 マリーベルが、うっと言葉に詰まる。

 そういうことだが、そういう意味ではない。この先のことを考え、意図しない所有格がついてしまった。


 下手に言い訳をすると、泥沼にはまりそうな気がする。


 そのため、マリーベルは固まってしまった。


「マリーベルお嬢様……」

「仲良きことは美しき哉というらしいぞ」


 参加はしていないが聞こえているウルスラは笑いをこらえ、念話が聞こえないはずの彼女も、微笑ましそうに見つめている。


「とにかく、余の話を聞くのじゃ」

「あ、ああ……」


 結局、親としての強権を振りかざすことにしたらしい。

 斬り飛ばされ、恐らく爆風で粉々になった手を再生しつつ、アベルはうなずいた。


 血制(ディシプリン)赫の大太刀ハート・オブ・ブレードにと、命血(アルケー)が限界なのは事実だが、それ以上に、彼女の拳によるダメージは大きかった。

 休めるのならば、それに越したことはない。


吸血鬼(ヴァンパイア)は、吸血鬼(ヴァンパイア)から命血(アルケー)を吸収できぬ。これは、前にも話したな?」

「その例外が……血の花嫁(ブラッド・ブライド)……なんだろ?」


 そのとき、ようやくアベルは気付いた。


 自分が、マリーベルに膝枕をされていることに。あっさりあしらわれたショックと、傷の痛みと、スーシャへのツッコミで意識の外だったのだ。


 マリーベルの顔が、よく見えないのは当たり前。大きなマリーベルの双球がそびえていたからだ。エルミアやルシェルは薄い部位が、邪魔をしていたのだ。


 そして、一度気付いてしまうと、後頭部から伝わる柔らかさと暖かさが気になって仕方がない。


「じゃが、もうひとつ例外がある」

「その……前に、離れて欲しい……んだが」

「ならぬ」

「あ、はい」


 アベルは、反射的にうなずいてしまった。いや、反射というよりは本能だろうか。どちらにしろ、逆らえない。


吸血鬼(ヴァンパイア)が、吸血鬼(ヴァンパイア)の血を完全に吸い尽くす。有り体に言えば、吸い殺すことでも命血(アルケー)は得られるのじゃ」

「マジ……かよ……」

「のみならず、その吸血鬼(ヴァンパイア)から力を吸収することもできる」


 エルミアから、マリーベルから、そうすることができる。

 やるやらないは関係ない。


 することができる。


「同族喰らい」


 その言葉は鋭い刃となって、アベルの心に突き刺さった。


吸血鬼(ヴァンパイア)における、最高最悪の禁忌よ」


 ここまで説明されれば、血の花嫁(ブラッド・ブライド)が、いかに荒唐無稽なものかアベルにも分かる。


 どれだけ絆や信頼を積み上げても、魔が差すということはある。結んだ絆や積み上げた信頼が砂上の楼閣ではないと、どうして断言できるだろうか?


 それだけのリスクを負いながら、メリットは吸血鬼(ヴァンパイア)同士で命血(アルケー)を融通し合うことだけ。

 人間やモンスターから奪ったほうが、遥かにいい。


「それもまた、源素王がまいた不和の種。呪いの一種だと主張し、血の花嫁(ブラッド・ブライド)に固執する同族もおったが……まあ、それはどうでも良いな」

「……あれ? なんで、血の花嫁(ブラッド・ブライド)が出てきたんだ?」

「察しが悪いのう。破滅的に」

「そこはせめて、壊滅的にならねえか?」

「どちらでも良いわ」


 まったく……と、マリーベルはため息をついた。


「本当に、察しが悪いの! 信頼を示すと言うたであろうが!」

「そういうのを、俺に期待するんじゃねえ」

「それもそうじゃな……」

「そうだぞ」

「そういうところじゃぞ!」


 ぺしっとアベルの頬を叩いてから、マリーベルが前傾姿勢を取ってのぞき込んでくる。

 二人の視線が交差した。


「アベル。汝を余の血の花嫁(ブラッド・ブライド)とする」

「……逆じゃねえの?」

『ご主人様血の花嫁(ブラッド・ブライド)は相互関係だからどっちも花嫁』

『なるほど』

『なるほどではないわーー! スーシャも、少し黙っておれ!』

『焦って照れてるマリーかわいい超かわいい』

『黙っておれと言うたぞ!』


 念話ではすっかり取り乱しているマリーベルだったが、表面上は、アベルを優しく膝枕をしている。まるで、慈母のように。


 そのギャップに、アベルは自然と穏やかな気持ちになる。


「もしかして、血の花嫁(ブラッド・ブライド)になるには、相手に血を吸われる必要があるとか、そういうことなのか?」

「そうじゃ」


 下手にごまかさず、マリーベルはゆっくりとうなずいた。

 しかし、わずかに緊張していることが、触れ合っている場所からアベルにも伝わってくる。


「一方が、命血(アルケー)が払底する寸前まで血を吸い尽くす。その後、吸われた側が、相手の血を吸う。こうすることによって、婚姻関係が結ばれるのじゃ」


 どちらにもリスクがあり、アクシデントが起こる可能性は単純に二倍。

 エルミアが血の花嫁(ブラッド・ブライド)になると言い出したとき、マリーベルが慌てた理由が分かる気がした。


「理屈は分かったけどよ……。吸い殺せば力が手に入るとか、先に言わなきゃ良かったんじゃね?」

「それでは、フェアではあるまい」

「まあ、そりゃそうだがなぁ……」


 言っていることは分かるが納得できないと、アベルは唇をとがらせた。


「それに、説明をしておかねば、勢い余って吸い尽くされかねんからの」

「納得した」


 その可能性は充分にある。

 ただでさえも信用できない自分なのに、吸血中は歯止めが利かなくなる。その自覚が、アベルにはあった。


「要するに、マリーベルから血をもらって神様をぶっ飛ばせばいいんだな?」

「汝は、多少は言葉を飾らぬか!」


 ぺしんと、アベルの額を叩き余計なことを言う口を閉じさせた。

 とはいえ、マリーベルから信頼を示し、アベルがそれに応えることで彼女を納得させられる……とまでは思っていなかった。


 補強する要因にはなるだろうが、最後には、力を見せないと納得しないはずだ。


「そもそも、余に害されると思わぬのか?」

「いいや」


 返答は短く、誤解のしようもない。


「マリーベルに拾ってもらった命だからな。そうなっても、元の鞘に収まるだけだろ」

「アベル……」

「そんなことしたら、マリーベルに神様のボディーブローが飛ぶだろうし」

「アベル……」

「いや、やっぱ今のはなしで」

「アベル……」


 スーシャのことは言えないと、アベルは起き上がった。

 膝枕から脱し、地べたに座ってあぐらを組みながら、アベルは言葉を探す。


「それに、マリーベルはそんなことしないって信じてるからな」


 見つけた言葉は、シンプル

 理屈ではない。だが、絶対だ。


 それを聞いて、マリーベルの我慢は限界を迎えた。


「ゆくぞ」


 地面に座るアベルに四つん這いで近づきながら、マリーベルはアベルの手を取る。


「え? そこから行くのか?」

「歯止めが利かなくなったら困るじゃろうが」


 アベルの左手を捧げ持ち、舌を何度もこすりつけ。

 マーキングでもするかのように、たっぷり唾液をまぶしてから。


 マリーベルは、手首にかぶりついた。

マリーベル派の皆様、お待たせしました。

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