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ロートル冒険者、吸血鬼になる  作者: 藤崎
第四部 ロートル冒険者、封印に挑む

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プロローグ

お待たせしました。

最終章、更新再開です。

 この世界であって、どこでもない場所。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の王と、その執事が語り合う。


「まったく……。油断したとは言いとうないが、不覚を取ったことは認めねばならぬの」

「私めの責任でございます、マリーベルお嬢様」

「気にするでない。本当に奴等が動くとは、思いもせなんだ。余と同じく、時代の徒花となれば良かったものを」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の王、忌々しいと、盛大なため息。


「それでも、私めはマリーベルお嬢様の執事でございますので」

「分かった。次はない……これで良いな?」

「承知いたしました」


 男装の執事、頭を下げる。


「しばらく、引っ込んでおらねばならぬの」

「安全のためには、それが一番かと」

「……アベルは、大丈夫かの」

「恐らくは」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の王、再び盛大なため息。


「じゃが、スーシャもおるし、エルミアもルシェルもクラリッサもあれじゃし、スーシャもおるし……」

「マリーベルお嬢様」

「な、なんじゃ?」

「僭越ながら、アベル坊ちゃまとはいえ、今は他人の心配をしている場合ではないかと」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の王、不満げに執事をにらみつける。


「なにを言うか。余がおらなんだら、アベルが――」

「どちらかといえば、助けが必要なのは、こちらでございます」

「それはそうじゃが……」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の王、勢いがしぼむ。


「まずは、ご自分の心配をなさいませ」

「……それは苦手じゃな」

「分かっております」


 男装の執事、間髪入れずに答える。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の王、不満げに頬を膨らます。


「そもそも、余を探そうとするかどうか。それが、問題ではないか?」

「それは杞憂でございましょう。アベル坊ちゃまは、いい人でございますよ」

「まあ、それは余も認めるがの」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の王、無力感に苛まれ天を仰ぐ。


 そして、時は過ぎゆく。





「分かりましたわ」

「え? マジで分かったのか?」


 巨人の坑道から、館へ戻った翌日。

 アベルは、館の応接室で、アベルは時折壁際をちらちらと見ながら、クラリッサへ依頼(クエスト)の顛末を語り終えた。


 肉体的にも精神的にも疲れ果て、報告ができるようになるまで一日が必要としたのだ。


「わたくしの理解を超えていることが、分かりましたわ」


 しかし、語られたクラリッサは、たまったものではない。


 アンデッドナイトだと思われていたローティアが、実は次元航行船(プレインクラフト)の船外活動用端末だった。


 この時点で、クラリッサは途方に暮れた。続きのほうが衝撃的だと、誰が想像するだろう。

 その次元航行船(プレインクラフト)は、絶望の螺旋(レリウーリア)の眷属を押しとどめ。なおかつ、巨人の坑道そのものとも言える存在だったなどと。


 巨人の坑道の仕組みと秘密が明らかになったが、まったく嬉しくはなかった。


 しかも、アベルが――そして、スーシャも――いなければ、次元航行船(プレインクラフト)は自爆していたところで、様々な方面に被害が出かねなかったのだという。


 アベルが、コフィンローゼスを――嫌々ながら――足置きにするというご褒美を与えているところから、間違いないようだとクラリッサは判断していた。


「どうして、アンデッドナイト退治の依頼が、こんな大事になるんですの?」

「それを言われると、なにも言い返せねえんだよなぁ……」

「そもそも、次元航行船(プレインクラフト)というだけで、もう……」


 同時にため息をつく二人。

 なぜか、視線が床に伏せるクルィクへと向いた。無意識に、癒やしを求めていたからかもしれない。


「ゥワンッ! ゥワンッ!」


 当のクルィクは、理由も分からず注目され、散歩に行くのかと歓声をあげていた。


「違うからな」

「クゥン……」


 クルィクが哀しそうな鳴き声をあげ、尻尾をだらんと垂らす。


 可哀想だが可愛い。


 クラリッサは、心が軽くなる思いがした。この気持ちが、ヴェルミリオ神の言うMPが回復した状態ということなのだろうか。


『クラリッサ奥様が癒やしを求めるのも分かる』

『なぜ、俺を省いた?』

『ご主人様にはスーシャがいるから常時癒やしの泉状態のはず』

『その自信、どっから溢れてくるんだ。その毒の沼地を埋め立てるぞ』

『あふん』


 スーシャの言い分はともかく、クラリッサに心労をかけていることは、アベルも理解していた。


 ローティアの件だけであれば、紆余曲折色々あったが、とりあえず現状維持には持ち込めた。


 しかし、重傷を負ったエルミアは吸血鬼(ヴァンパイア)となり、マリーベルとウルスラは行方が分からない。


 一度に、処理しきれるはずもなかった。


 ちなみに、吸血鬼(ヴァンパイア)に転化したばかりのエルミアはベッドで眠りについており、ルシェルはそれに付き添っている。


「こうなったら……」


 こめかみを揉みながら、クラリッサが言う。


「お父様に、直接、説明をしてもらうしかありませんわ」

「えおうふッ?」

「え? そんなに驚くことですの?」


 クラリッサとしては、当然の結論だった。


 ローティアの存在を明らかにするわけにはいかないが、かといって完全に隠蔽もできない。

 下手に冒険者ギルドを通じて報告するぐらいなら、個人的なコネクションを用いてトップ……即ち責任者である領主に事情を説明するのが手っ取り早い。


 もちろん、話せる部分と、そうでないところを切り分けた上での話ではあるが。


「いや、ほら。あれだ。明日になっても戻ってこないようなら、マリーベルを探しに下水に潜るつもりだったからよ」

「ですわよね。そこも心配ですわよね……」


 アベルの、本心ではあるが完全に真実ではない言葉に、クラリッサが考え込む素振りを見せる。


「あまり表に出たくはありませんが、お困りなら説明に行きますですが?」


 そこに、ずっと壁際で控えていたローティアが割り込んできた。


「うわっ。そういえば、いたのでしたわね……」

「あの存在感なのに、どうして忘れられるのか」

「いえ、鎧が壁際に立っていると、調度品のようではありません?」


 アベルには、まったく共感できない感想だった。


「実家の城館にも、ありますし」

「分かります、分かります。立派なお屋敷ですから、廊下に置いてもらいたい衝動に駆られるですよ」


 どういうわけか、クラリッサとローティアが分かり合ってしまった。

 とりあえず、正常化した今は次元航行船(プレインクラフト)から離れても大丈夫……というよりは、エレメンタル・リアクターが暴走した状態がイレギュラー。


「この館に長期滞在しても、まったく問題ないですよ?」

「人の家を幽霊屋敷にしようとするの、やめてもらっていいですかねぇ!」


 せっかく、ゴーストを退散させたのに、元に戻してどうするというのか。


 それはともかく。


「でも、そうですわね……」


 少し冷静になったのか。クラリッサが人差し指で唇を軽くなぞる。


「下手にアベルの存在を表に出すぐらいなら、ローティアさんに協力してもらったほうがいいかもしれませんわ」

「それ、まずいんじゃ……。いや、そうか」


 反対しかけたアベルだったが、話の展開を予想して即座に結論を覆す。


次元航行船(プレインクラフト)の話をするのなら、どっちにしろローティアと会わせろという話になりそうだしなぁ」

「まあ、何事も無ければ今後200年か300年は維持できそうですから、急がなくてもいいですよ」


 というわけで、領主――クラリッサの父親――との会談は、先送りが決まった。


「その分、Bランクへの昇格もずれ込むことになりますわよ?」

「いいさ」


 コフィンローゼスから足をどけながら、アベルは言った。大変な思いをしたわりには、あっさりとしたもの。


「他に、やることがいくらでもあるからな」


 エルミアのこと、マリーベルのこと。

 アベルにとって、どちらもこの上なく重要だった。

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