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ロートル冒険者、吸血鬼になる  作者: 藤崎
第三部 ロートル冒険者、昇格する

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第十九話 ロートル冒険者、エレメンタル・リアクターを目指す(後)

 光と闇の巨人が、白と黒の刃を振り上げた。


 それに合わせて、アベルは前へ出る。《疾風(セレリティ)》こそ使用していないが、吸血鬼(ヴァンパイア)の全力疾走。

 巨人の反応速度に負けるはずがない。

 茨の鎖でつながったコフィンローゼスを旗のように掲げたまま、アベルは巨人の足下を走り抜けた。


「これでも食らえ!」


 そして、立ち止まると同時にコフィンローゼスを振り回す。

 茨の鎖は最大限に伸ばされ、吹き荒れる暴風に乗って遠心力で加速した棺が、光と闇の巨人を打ち据えた。


 背後からの一撃に、抗しきれず巨人が大きくバランスを崩す。


『ご主人様もっともっと』

「言われなくても!」


 喜ばすためにやっているんじゃないぞと、渦動で流されそうになるコフィンローゼスをぐっと引いた。

 まるで、長い釣り竿を扱うような手さばき。


「《剛力(ポテンス)》!」


 アベルの両手が、赤い靄に包まれる。

 中に人が入っているとは思えない雑な動作で、もう一度、光と闇の巨人へコフィンローゼスを叩き付けた。


 インパクトの瞬間、暴風を圧する轟音が鳴り響き、衝撃がアベルの足先にまで伝わってくる。

 茨の鎖が腕を食い千切ろうとし、相変わらず、砂礫が混じった風が全身を苛む。


 それでも、アベルは力を緩めない。


「どうだッ!」


 手応えがあった。


『会心の一撃ナイスご主人様』


 スーシャの歓声の意味はともかく、バランスを崩した光と闇の巨人が背中を仰け反らせ、苦しそうに地面へと倒れ伏した。

 震動が、こちらにまで伝わってくる。


 好機と見たアベルが追撃を試みようとした――ところ。


「うおぉっ」


 そのタイミングで、落雷が発生した。

 光と闇の巨人とは関係がない、ただの自然現象。


 間一髪。直撃は避けられたものの、雷鳴でアベルが一時的な朦朧状態に陥る。


 それで、光と闇の巨人が息を吹き返す暇を与えてしまった。


 転倒したままの巨人の体が、ドロドロに溶ける。

 液状になった肉体が球状にまとまり、アベルの直上に移動。その場で、瞬時に体を再構成した。


『ご主人様引いて』


 意識は朦朧としているが、念話は通じた。

 言われるままにコフィンローゼスを引き寄せると、黒い棺がアベルの目の前に屹立する。


 その瞬間、光と闇の巨人が振るった白い刃が、コフィンローゼスを強打した。


「うおっ」


 その衝撃で、アベルの意識が覚醒した。


 遥か頭上から、間断なく白と黒の斬撃が降り注いでくる。

 その風圧だけで体勢が崩され、光の剣が地面を穿ち破片がまき散らされた。


『くっそ』


 慌ててコフィンローゼスを抑え、なんとか攻撃を受け止める。しかし、衝撃を完全に殺しきることはできず、少しずつ押し込まれていく。

 その度に、砂礫を含んだ風がアベルの体を傷つける。


『痛えな、ちくしょう』

『ご主人様このまま我慢比べ 受けて立つべき』

『まだ足りないのかよ』

『自信がある』

『防御力に?』

『言うまでもないご主人様』

『これ、絶対防御力じゃないやつだ』


 とはいえ、今は、耐えるとき。

 先ほどは落雷でチャンスを逃したが、ただの自然現象なのだ。光と闇の巨人に不利に働くことだってあるはず。


 それを待って――という目論見は、あっさりと覆された。


 巨人の体が、再び、ドロドロに溶けた。

 ただし、溶けたのは体の一部。


 左右二対。

 四本あった巨人の腕が、二本に減った。切り落とされたのではない。ドロドロに溶けた後、融合したのだ。


 手にしていた白と黒の刃も同じく融合し、より長大な武器となる。


 光と闇の巨人は、まず、右の白い刃を振り下ろした。


「《剛力(ポテンス)》」


 命血(アルケー)を燃やして筋力を倍加。天災のように振ってくる白い光の刃を、コフィンローゼスで受け止めた。


『くうううびんびんくる』

『それどころじゃねえ!』


 受け止めたが、威力までは殺しきれない。

 コフィンローゼスを受け止めていた腕が折れ、即座に再生し、アベルは棺共々サッカーボール――ホワイト・ナイト神が広めたとされている――のように吹き飛ばされた。


 腕を減らして、威力を上げたということなのか。武器自体の破壊力も上昇している気がする。なんとも厄介だった。


 その光と闇の巨人がまたしても肉体をドロドロに溶かし、肉玉となってアベルとコフィンローゼスを追う


「普通に移動できねえのかよ!」


 八つ当たり気味叫ぶアベル目がけ、光と闇の巨人は左の黒い刃を振り下ろした。


 回避は難しい。


 吹き飛ばされながらも、茨の鎖でなんとかコフィンローゼスを操作し、闇の剣に黒い棺を合わせる……が。


「なあぁっ!?」


 黒の刃は、コフィンローゼスを通り抜けた(・・・・・)


「《金剛(フォーティテュード)》」


 咄嗟の判断で全身を硬化させ、なんとか致命傷は避けた。

 黒い刃はアベルの皮膚を貫くことはできず。ただ、超巨大な鈍器としてアベルをたたき伏せた。


 衝撃で全身がばらばらになりそうになる。

 息が詰まる。


 しかし、吸血鬼(ヴァンパイア)の肉体が自動的に再生を始め、敗北を許さない。


「くうぅッ、《疾風(セレリティ)》」


 地面をバウンドしたアベルは、一緒に弾むコフィンローゼスを足場にして、飛ぶようにその場を離れた。

 さすがに、光と闇の巨人も、それには反応できない。


 離れた場所で態勢を整え油断なく巨人と対峙するアベルだったが、内心、パニック寸前だった。


『スーシャ、無事か!?』

『うう……』


 スーシャが――念話でだが――うめいている。


 あのスーシャが。


『おい、無事なのか! 大丈夫なんだよな!?』

『刷毛で体の中をなで回された感じ』

『全然分からねえ!』


 とりあえず、無事ではあるらしい。

 落ち着いて考えれば、スーシャが棺そのものではなく、そこからつながる異空間にいることを思い出せたはず。


『ご主人様優しい』

『違えからな』

『そういう優しさで女も男も勘違いさせちゃう』

『味方がいねえ!』


 ああ、なぜクルィクを残してきてしまったのか。

 本当に、後悔とは先に立たないものなのだ。


「そもそも、防御なんかしてるから駄目なんだ!」


 無茶苦茶な結論に達し、アベルはコフィンローゼスを引きながら駆け出した。

 光と闇の巨人が、白い刃をすくい上げるようにして迎撃する。


 その光の剣へ目がけ、アベルはコフィンローゼスを振るった、


 風と遠心力で加速した棺が、巨人の剣と激突した。


 衝撃。

 拮抗。

 そして、破壊。


 半ばから折れた光の刃が、くるくると回ってアベル目がけて飛んでくる。


『ご主人様』

『嫌な以心伝心だな!』


 アベルは避けない。

 コフィンローゼスを力の限り引き戻し、その反動で折れた光の刃を打ち返した。


 再び、くるくると飛翔する刃。


 それが、光と闇の巨人の結節点。ちょうど中間に突き刺さった。


 血こそ流れないが、光と闇の巨人が動きを止める。


 そこを見逃すアベルではなかった。


「《剛力(ポテンス)》」


 全身全霊。

 全力を傾けて、コフィンローゼスを叩き込んだ。


 スーシャが半端な感想を言えないほど、強く強く強く。


「恨むなら、俺たちに変な呪いを与えた源素王とやらを恨めよな! お前らの親玉だろ!」


 たった今気付いたとばかりに、アベルはさらに力を込めてコフィンローゼスを何度も何度も何度も叩き付けてやった。

 その度に、光と闇の巨人は縮んでいき……最後には、綺麗に消滅した。


「やれやれだぜ……」


 光と闇の巨人を倒しても、環境にはなんら変かはない。

 未だに、風が体を苛んでいる。


 それでも、ひとつの脅威が去ったのは確か。


『さすがご主人様 責任転嫁のプロフェッショナル』

『褒めてるつもりなのが分かるから、怒れねえなぁ』


 まったくもって嬉しくはないが、悪意はない。それだけに性質が悪いと言えば、まったくその通りなのだが……。


『まあ、スーシャだからな』

『すごい今ゾクッときた最高』


 相変わらず、スーシャは無敵だった。


 強敵に勝利したのに、なぜか敗北感を憶えつつ、アベルは先を急いだ。

次回、スーシャと二人なのにシリアス。

(今回がシリアスとは主張しないらしい)

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