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ロートル冒険者、吸血鬼になる  作者: 藤崎
第三部 ロートル冒険者、昇格する

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第十六話 ロートル冒険者、嗤う

「タイムリミット……ですか」


 全身フルプレートのローティアが、意外なことを言われたと考え込む。


「人が来なくなったら決行するつもりだったので、あまり意識したことがありませんでしたね」

「覚悟決まりすぎだろ」

「自己保存本能よりも、使命遂行を優先する傾向にありますですね。なにせ、船ですので」


 それは次元航行船(プレインクラフト)ジョークだったが、アベルも、エルミアも、ルシェルも笑わなかった。

 マリーベルなど、さらに視線が鋭くなっている。


 厳しい反応を突きつけられ、ローティアは慌てて話を戻す。


「ええと……。今すぐどうこうというわけではありませんが、一週間も余裕があるわけではありませんね。準備が整えば、今すぐ決行したいぐらいです」

「今すぐどうこうじゃないけど、今すぐ決行したいって」

「それ以上かけると、ワームホールから出る眷属への対処も、制御した自爆もできなくなりますですから」


 ローティアは、そう、客観的な事実を伝えた。まるで、他人事のように。


「それしか猶予がない状況だと、ギルドに報告しても……」

「方針を決めてる間に、タイムリミットになりそうだ」


 アベルの懸念に、エルミアも同意する。


 冒険者ギルドから、領主へ報告。そこで方針を決め、調査し、戦力を派遣。どの段階でも、紛糾しそうだ。

 クラリッサという切り札はいるが、ここまで重大な話だと、本当に切り札たり得るか分からない。


「こうなると、クラリッサが、アベルをギルドマスターにというのも、理解ができる」

「俺を買いかぶり過ぎじゃねえ?」

「頼りになると信じているだけだ。クラリッサも、私もな」

「私も! 私もです!」


 アベルがやる気なら問題ないとルシェルも賛成する。どちらかというと、姉やクラリッサに負けじという面が強かったが、アベルへの信用は誰にも負けていないつもりだ。


 一方、それを向けられたアベルはたじろぐばかり。


「なんだこの展開……と、そうだ。今はそれどころじゃないだろ」

「そうですね。ローティアさん、これはあくまでも確認ですが……。自爆をすると、どの程度の範囲に被害が及ぶものなのでしょうか?」


 目の前のローティアと黒い帆船のローティアとを交互に見つつ、ルシェルが現実的な問いを投げかけた。


「う~ん。やってみないと分からない部分もありますが、せいぜい、この山が吹き飛ぶ程度ではないでしょうか」

「じゃあ、ファルヴァニアの街までは、直接被害は出ない……?」

「いや、爆発そのものは良くても、土砂や岩石がどうなるか分からないぞ」

「それも、次元の歪みも、なんとかこっちで抑えるですよ」


 それでも、危険があることは確か。


 理想は、アベルたちだけで、迅速に。

 なおかつ、自爆以外の方法で、解決を。


 都合の良すぎる結論に、全身フルプレートのローティアが首を振った。


「それが……」

「できたら苦労はせぬか?」


 先回りして、マリーベルがフルプレートのローティアを上から睨めつける。


「解決策はふたつあろう。ひとつは、あの次元門(ゲート)をどうにかすること」

「破壊も封印も、できればやっていますですよ」

「ならば、船のほうをなんとかすべきであろうな」

「なんとかできるのか?」

「知らぬ」


 希望を見つけたと勢い込むアベルに、マリーベルは肩すかしを食らわせる。

 思わず、コフィンローゼスと一緒に倒れそうになった。


『遠慮せず倒れて どうぞどうぞ』

『今、真面目な話してるんで、あとでな』

『言質ゲット』


 スーシャは、どこまでも前向き。

 空気は読めていないが、それにアベルもマリーベルも緊張がほぐれた。


「余は分からぬが、ローティア。おぬしは、知っておろう?」

「……所詮、机上の空論ですよ?」

「それは、余らが判断することよ」


 見た目とは裏腹に有無を言わせぬマリーベルの迫力と威厳に、ローティアが右往左往した。


「うう。創造主の女神様を思い出しますねぇ……。もちろん。悪い意味で、ですよ?」

「それはいいから、さっさと話さぬか」

「はい!」


 背筋を伸ばし――全身鎧だが――直立不動でマリーベルに返事をするローティア。まるで、上官と部下のようだ。


「おお、マリーベル。なんかすげぇ」

『すごくなんかないご主人様 マリーは初対面の相手には最強』

『ああ、分かるな、それ。付き合いが長くなると情が移って、強く出れなくなるんだな』

『そうそうそうそう さすがご主人様よく分かってる』

『ええいっ。黙って話を聞けい!』


 そんな裏の会話を知るよしもなく、ローティアが宙に浮く黒い帆船――次元航行船(プレインクラフト)を指さした。


「表面上は普通の船ですが、船尾には第五世代型次元航行船(プレインクラフト)の心臓部であるエレメンタル・リアクターが収められていますです」

「エレメンタル・リアクター? ルシェル知っているか?」

「いえ、初めて聞きました」

「そうでしょう、そうでしょう」


 空と星の間。エーテルの海を駆けるための動力源であり、各種兵装を使用するためのパワーソース。

 そこから抽出したエネルギーを元に、衝角攻撃(ラムアタック)を敢行し続け、ワームホールを抑えていた。


「それが、エレメンタル・リアクターです」


 そう、ローティアが誇らしげに説明を終えた。


「メンテナンスは欠かさず行っていましたが、180時間ほど前に事故が起こってしまい、現在は暴走を抑制するのがやっとです」


 ローティアが、うつむきながら言った。

 事故さえなければ、現状が維持できたはず。忸怩たるものがあるのだろう。


「それは分かった」


 驚きつつも、アベルは逆に納得していた。

 起こったことは仕方がない。重要なのは、これからのことだ。


「なら、どうにかする方法もあるのじゃな?」

「ありますが、不可能なのです」

「そりゃ、できるんならローティアが自分でやってるんだろうけど。不可能って、具体的にはどういうことだ?」

「エレメンタル・リアクターが収められた隔壁内は地水火風光闇の源素力が荒れ狂い、とても近づける状態ではないのです。この船外活動体が何体も跡形もなく破壊されたと言えば、理解してもらえると思うですが」

「そっか」


 詳しくは分からないが、相当に危険な場所であるらしい。

 表面上は、そんなことが起こっていると感じさせないが、内部は酷いことになっているようだ。


 それを押さえ込めるからこその、次元航行船(プレインクラフト)なのかもしれないが。


「でも、エレメンタル・リアクターの場所に行こうとしたってことは、どうにかできる方法があるんだよな?」

「物理的に、コアであるエレメンタル・ストーンを入れ替える。それができれば制御を取り戻し――」

「――現状維持に戻せる?」

「です」


 認めたくはないが嘘はつけないと、ローティアは肯定した。


「ですが、最後の最後。方法としては存在しても、実行は想定していない。そんな手段です」


 それならまだ、自爆したほうが人道的。


「アベルさんたちとお会いできたのは幸いでした。周囲に人的な被害が出ないよう避難の指示を出して――」

「なんだ、そんなことか」


 アベルが、ローティアの言葉を遮った。


 なにを言っているのか分からない。

 表情が見えないのではなく、そもそも存在しないのに、ローティアが狼狽しているのが分かる。


「もっとなんか難しい手順とかがあるのかと思ったぜ」

「アベルさん? なにを言っているです?」

「俺にぴったりの仕事じゃねえか」


 ローティアの戸惑いを置き去りにして、アベルが、サメのように笑う。

 自己犠牲ではない。適材適所。アベルにしかできない役割。


 無意識に、吸血鬼(ヴァンパイア)の牙が口から伸びていた。

マリーベルは、やはり、いじられて輝く。

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