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ロートル冒険者、吸血鬼になる  作者: 藤崎
第一部 ロートル冒険者、吸血鬼になる
6/102

第五話 ロートル冒険者は、吸血鬼になっていた(後)

本日は2話掲載しています。

前話を読んでいない場合は、そちらからお願いします。

 吸血鬼(ヴァンパイア)は、呪われし種族である。


 神祖、あるいは真祖と呼ばれる男が大罪を犯し、地・水・火・風・光・闇。六大源素の王から呪いを受けた。


 火の源素の王からは、陽光に照らされると灰になるという『陽の呪い』。

 水の源素の王からは、流水を渡ることができない『水の枷』。

 光の源素の王からは、鏡やそれに類するものに姿が投影されない『虚像の掟』。

 地の源素の王からは、白木の杭で心臓を貫かれると、陽光と同様に真の死を迎えるという『自然の慈悲』。

 風の源素の王からは、招かれざる地への侵入を拒む『孤独の檻』。

 闇の源素の王からは、他者の血を吸うことでしか生きられなくなる『狩人の宿命』


 同時に、吸血鬼(ヴァンパイア)は、大いなる力を持つ種族である。


 他の生物から血を奪い、自らの糧とし、それを代償に様々な力を振るう。


 かつて、この世界――『黒鴉の領域』(レイヴン・フォール)の覇権は、吸血鬼(ヴァンパイア)が握っていた。


 悪徳を振りまくほど力を得る世界法則(ルール)に支配され、夜ごと道に外れた饗宴が開かれていた闇に閉ざされし世界。


 人間もエルフもドワーフも岩巨人(ジャールート)も。草原の種族(マグナー)でさえも、そのくびきから逃れることはできず。

 その支配に屈するか、自らも虐げる側に回るか。その二者択一だった。


 この世界を浄化したのが、異世界からやってきたイスタス神群だった。


 浄化の後、主神イスタスに付き従う芸術神ヴェルミリオにより世界は再設計され、新たな歴史が始まったのだという。


 つまり。


『いきなり日の光を浴びせるんじゃねえ、殺す気か!』

『そこからか。そこを蒸し返すのか。分かりやすかったじゃろうが』

『身をもって思い知ったけどよ、なんでそっちは無傷なんだよ』

『そこは年季の差よな』

「畜生が……」


 床に倒れ伏していたアベルが、よろよろと立ち上がりながら中空のマリーベルを睨む。

 カーテンは下ろされ、見る限り体に火傷の跡も見当たらない。


 陽光を浴びたショックで、倒れただけらしい。


 それだけでも充分な問題だが、もっと大きな問題は、吸血鬼(ヴァンパイア)にさせられたことだ。


『そもそも、吸血鬼(ヴァンパイア)って、悪いやつじゃねえか。滅びろよ』

『ううむ。顔に似合って浅薄な認識じゃ』

『その表現自体が間違ってると言いたい。なんだよ、顔に似合ってって』


 顔に関しては、自覚している。

 エルミアと一緒になったときも、格差がどうこう言われていたものだ。


 不思議なもので、幸せな間は、なにを言われても心地好い嫉妬にしか感じなかったのだが……。


 それはさておき。


『まあ、新参者(ニュービー)ゆえ、浅慮は致し方なし。それに、夜動けば良いだけのことじゃ』

『根本的な解決になってねえからな、それ』

『なにを言うのじゃ。やめるんじゃろ、冒険者』

『それはそうだが……って、なんで知ってるんだよ!?』

『余の御座近くであれだけ吼えれば、嫌でも聞こえるわ』

『ああああああ』


 声に出すのを我慢したのは、偉業だった。報われることのない行為だとしても。


 アベルはそのままベッドへダイブし、潰れた枕に顔を埋めて悶絶する。


 吸血鬼(ヴァンパイア)化して身体能力が上がっているため、思わず感心しそうなスタイリッシュな動きだった。


 しかし、かなり見苦しい。


「ちょっと、早まったかのう……」


 血の絆によりアベルに憑依しているマリーベルも、腕を組み己が選択を後悔しかける。

 それくらいみっともなかったが、他に選択肢はなかったのだと思い直す。


『まあ、是非もなしじゃ。とりあえず、夜までそうやっておるが良い』

『……夜になったら、どうするんだよ?』

『分からんのか? まずは、これじゃろ、これ?』


 マリーベルは赤い瞳を妖しく輝かせ、親指と人差し指で円を作って愉快そうに笑った。

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