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ロートル冒険者、吸血鬼になる  作者: 藤崎
番外編

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番外編2 ロートル冒険者、オイルを塗る(塗らされる)

ウィッチャー3が一段落したので、番外編です。

ウィッチャー3のアイテムに特定の敵へのダメージが上昇するオイルというのがありまして、それにインスパイアされてできたお話だよ。

「オイルの評価試験? オイルって、あのオイルか?」

「ただのオイルではありません。混合オイルですわ」

「混合? 聞いたことねえな」

「依頼元のレン神殿とダニシュメンド神殿は、そう呼んでいますわね」


 そう付け加えながら、テーブルの上にポーションと似たビンを並べていくクラリッサ。


 冒険者ギルドの二階に存在する、パーティ用の談話室。

 左右にエルミアとルシェルのエルフ姉妹を侍らせたアベルが、堅い椅子に座りながら、その様子を疑わしげな視線で眺める。


『ご主人様 堅いのならスーシャに座る手がある』


 部屋の隅に立てかけた棺――コフィンローゼスからの念話をスルーしつつ、アベルは試作品だという混合オイルを手に取った。

 ビンを傾けると、どろっとした液体がそれに合わせてゆっくりと動いていく。透明で、まさにオイルだ。


「混合オイルというのも初耳だが、オイル自体、こうして目にするのは初めてだな。もちろん、存在は知っていたが」

「そういえば、前のパーティでも誰も使ってはいませんでしたね」


 混合オイルを矯めつ眇めつ眺めるエルミアとルシェル。

 物珍しさが先に立ち、実用品としては見ていなかった。


 冒険者にとってのオイルといえば、食用油でもなければ香油でもなく、武器に塗布する一種のマジックアイテムだというのに。

 もちろん一時的ではあるが、普通の武器を魔法の武器と同等の存在に変え、地水火風などの属性の力を与えることができ、特定のモンスターへの特攻を取得できるというのに。


 だが、それも仕方がない。


「ぶっちゃけ、割に合わねえからなぁ……」


 様々な手順を飛ばして乱暴に言えば、オイル――そして、ポーションもだが――は、理術呪文・神術呪文を液状にし、効果の発動を遅延したものである。

 つまり、作成には魔術師(ウィザード)司祭(プリースト)が関わらねばならず――高額だ。


 その上、持続時間の関係で戦闘中に塗布する必要があり、必然的に一手遅れる。


 Cランクの冒険者にとっては、有用だが費用負担が大きく。Bランク以上になると、わざわざ買うほどの物でもない。


 それがオイルなのだった。


「ポーションはまだ、生き死にに関わるから別なのだが……」

「ああ。値段がどうこう言ってはいられなくなるけど、オイルはなぁ……」

「もちろん、あれば便利なのだが……。パーティに魔術師(ウィザード)司祭(プリースト)がいれば、そちらに支援してもらったほうがいいからな」


 冒険者経験が長い二人が、しみじみとオイルの不遇さを語り合う。

 その分かり合っている感にも動じず、ルシェルはポーションとの違いを指摘する。


「ポーションの場合は、魔法は不要で薬草類から作られるエリクサーがあるのがまた、なんとも……ですね」

「薬神様のご尽力ですわ」


 うんうんと可愛らしくうなずいたクラリッサが、ぱんっと手を叩いて話を依頼(クエスト)に戻す。


「そこで……かどうかは知りませんが、ふたつの神殿が共同で開発したのがこの混合オイルですわ」

「混合ということは、二種類の効果が発揮されるのだろうか?」

「その通りですわ、エルミアさん。しかも、お値段と効果時間は据え置きで」

「効果時間は延びたほうがいいんじゃねえか?」

「そこは、効果は倍で時間は半分とかにならないだけ、ましと考えたほうがいいですよ、義兄さん」

「それもそうか」


 よくよく考えれば、値段が変わらないというだけでも画期的だ。本当に二種類の効果が同時に発揮されるのであれば、冒険者の力になることは間違いない。


「混合オイルがすごいもんだってことは、とりあえず分かった」


 次に考えるべきは今回の依頼(クエスト)についてだ。


 今や身内と言える、ダークエルフの受付嬢。クラリッサが持ってきた依頼(クエスト)なのだから、少なくとも不利益になることはない。


 また、レン神殿とダニシュメンド神殿。即ち、薬神と知識神の信徒であれば信用できるはず。


 そもそも、実験協力ではなく試験なのだから、危険性も低いはずだ。


 ゆえに、疑問は、なぜこの依頼(クエスト)をアベルたちに持ってきたのかという点に集約する。


 パーティで受注する依頼(クエスト)ではあるが、クラリッサは参加するつもりがないようだし、ルシェルは武器を使わない。そして、アベルの武器は、あれだ。


 棺桶だ。


 となると、エルミア一人が担当することになり、効率は著しく悪い。


「さすがに、俺もあれにこれを塗りたくはないぞ。振り回すのもごめんだ」

「もちろん、わたくしも、そんなことは求めていませんわ」

『……え?』


 どこに驚く要素があったというのか。

 呆然とするスーシャを置き去りに――クラリッサには念話は聞こえないので当然だが――受付嬢は説明を続ける。


「アベルは、いろいろな武器が使えますわよね?」

「ああ。そういうことか」


 ギルドが武器を用意するので、それを使えということらしい。

 夜しか動けないが生存性が――吸血鬼(ヴァンパイア)なので当然だが――高く、アベルとエルミアの二人で近接武器も遠隔武器もカバーできる。


 いつの間にか、アベルの中で武器とコフィンローゼスがイコールで結ばれるようになっていた。


「慣れって怖えな……」

「とにかく、私たちにうってつけというわけだな」

「私はおまけみたいですが、仕方がないですね」


 エルミアとルシェルは、クラリッサの意図にうなずいた。

 それはアベルも同じだったが――


「ちょっと待って承服できない」


 ――ただ一人、受け入れを拒む吸血鬼(ヴァンパイア)がいた。

 どれくらい納得できないかというと、コフィンローゼスから出てくるほど。


 珍しい。


 だが、それでよろしいなどとは、口が裂けても言えない。


 アベルは、淡い水色の髪を目元まで伸ばした美少女――外見だけ――へ、静かにゆっくりと首を振った。


「スーシャ。駄目なものは駄目だぞ」

「ご主人様絶対コフィンローゼスに塗るべき 武器であり盾でありアルファでありオメガであるコフィンローゼスに塗らないなんてとんでもない」

「だから駄目だって」

「だってぬるぬるなのに?」

「だからだろぅ!」


 気品はそのまま、スーシャは可愛らしく小首を傾げる。

 その所作、その表情、その儚さ。

 まさに、お姫様そのものだった。


 だが、それに騙されるアベルではない。


 冒険者ギルドのパーティ用面談室で、アベルとスーシャが見つめ合う。

 エルミアたちは、黙って成り行きを見守るしかない。関わり合いになりたくないという、わけではないはずだ。


 不意に、スーシャが力を抜いた。


「分かった」

「分かってくれたか」

「お願いの仕方が悪かった」

「そうそう……ん?」


 止めるという発想が、まず思い浮かばない。


 それくらい自然に土下座し、その状態でアベルの足下へとにじり寄ってきた。


「ご主人様お願いします 是非どうかそのオイルをスーシャに塗って下さい お願いします何でもします」

「スーシャじゃなくて、コフィンローゼスにって話だったよなぁ!?」


 そのまま靴を舐められそうになり、アベルはテーブルへと飛び乗った。混合オイルのビンが倒れ、遅れて反応したエルミアとルシェルがスーシャを押しとどめる。


 いかなる運命のいたずらか。傍目には、引き離された二人に見えなくもない。


 だが、スーシャはそれに気付くことはなかった。

 頭の中は、疑問に満ちあふれていたから。


「おかしい なぜ今回は失敗を」


 成功体験が砕け散り、不思議そうにスーシャは再び小首を傾げた。





「それで、この様というわけか……のう……」


 主神の封印から名実共に解放されたマリーベル・デュドネ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の王が、組んだ腕でたわわな双球を支えながら息をそっと吐いた。


 事情は聞いた。

 現場も見た。


 百聞して一見もしたにもかかわらず、脳は理解を拒んでいた。

 射干玉の黒髪は艶を失い、美しいはずのドレスも、どこかよれているように見える。端的に言えば、憔悴していた。


 傍らで同じ光景を眺めるアベルだったが、血の親へかける言葉が見当たらない。


 本当に、気の毒すぎて。


 同時に、自分より悲惨な人間がいると精神的な余裕が生まれるという最悪の感想も抱いていたが。


「いいところに来てくれた マリーも協力して」

「それが協力を求める態度……ではあるか……」


 マリーベルが、一人で指摘と納得をしてしまう。

 それも無理はない。


 なぜなら、スーシャは磔になっていたのだ。


 館の玄関ホールにわざわざ十字架を持ち込み、鎖で手足を縛られているスーシャ。その表情は穏やかで、原罪を一身に受けて地上の民を救おうとする聖女のようだ。


 もちろん、違う。スーシャが原罪の塊だ。


「そもそも、誰が磔にしたんじゃ……」

「容疑者は、一人しかいねえだろ?」

「ウルスラか……」


 執事と親友が協力して、磔が完成した。


 その事実に、マリーベルは美貌をしかめる。不意に、心臓が微かに痛んだ。無視できる痛みだが、痛みが発生していることこそが問題。


 スーシャが棺から出てきているのは喜ばしい。

 だが、違う。

 こんなことを望んだことなど一度もない。


「キュウゥゥゥンン……」


 そして、十字架の側には小さくなったクルィクが伏せていた。コフィンローゼスと並び、人が通りかかる度に哀しげな鳴き声をあげる。


 本当に、なんとも言えない光景だ。


 これを笑い飛ばせるのは、商業と幸運を司り、好奇心旺盛とされるラーシア神ぐらいのものだろう。


 それくらい、ひどい。


「アベル。これは、つまり、あれか」


 天を仰ぎ――天井しか見えないが――具体性のない単語で、アベルに問うマリーベル。


 血でつながった親子だからか。それとも、スーシャのことを深く理解しているからか。意図はあっさりと伝わった。


「ああ。コフィンローゼスにオイルを塗るまで、この状況は続くらしいぞ」

「少なくともスーシャはその覚悟」

「さらっと会話に混ざってきおった!」

「信じ続けていれば夢は絶対に叶うから」

「セリフだけなら、いい感じだよなぁ……」


 マリーベルは、口を閉ざした。

 下手に開いたら、親友――もちろん、今でもそう思っている――に、とんでもない言葉を投げかけてしまいそうだったから。


 無言が続く。


 結局、マリーベルが心の均衡を取り戻すまで、五分もの時間を必要とした。もしあと一分長かったら、アベルは吹きだしていたに違いない。


「アベルが少し自立したと思ったら、今度はスーシャが……」

「おっと。スーシャと同じ分類にするのは止めようぜ。いくら俺でも、あれよりはましだろ?」

「似たり寄ったりじゃ」


 そう吐き捨てたが、愚痴はここで終わり。

 まなじりを決し、赤い瞳をアベルへと向ける。


「それで、どうするつもりじゃ?」

「どうもこうも……。やるしかねえだろ」


 夢を通して精力を補充できるスーシャは、磔になっても衰弱することはない。これで、高位の吸血鬼(ヴァンパイア)なのだ。


 一方、この光景を目にする度、アベルたちは精神的に疲弊していく。


 勝敗は、明らかだった。


「本当?」


 表情は動かないが、スーシャの儚げな美貌がぱぁっと輝いた。

 そこだけ切り取れば、本当に聖女のよう。彼女を笑顔を浮かべさせた。それだけで、一生の誇りになると誤解してしまいそうになる。


「ゥワンッ! ゥワンッ!」


 足下のクルィクも、喜びの声を上げた。

 純粋に、飼い主の望みが叶って嬉しいようだ。純真で、眩しくて。マリーベルはそっとクルィクから視線を外した。


「嫌々だけどよ。本当に嫌々だけど、こうなったら嘘をついても仕方ねえだろ?」

「約束だけしてお仕置きするつもりとかではない」

「あ、その手があったか」

「ない」

「ただし、これっきりだぞ。二度と同じ手が通じると思うなよ」

「分かった」


 思いの外、いい返事だった。

 これで味を占められても困るので、とりあえずは、信じるしかない。


「……まあ、同じ塗るにしても、アベル以外であればまだましであろう」


 マリーベルの本音としては、当然ながら反対だった。

 しかし、よくよく考えれば、今の状態に比べたら、オイルを塗るぐらいどれほどのことか。


 いや、本当にそうだろうか?


 ……止めるべきだ、これ以上深く考えるのは。


 マリーベルは自己防衛を選び、親友と我が子の会話に耳を傾ける。


「ダメダメダメダメ ご主人様が責任持って塗って」

「その責任、重たすぎる」

「責任であれば、ウルスラにやらせるのが良かろう」


 立場的にスーシャの願いを断れないとはいえ、その前に報告するなりできたはず。愉快犯には情状酌量の余地はない。


「ご主人様以外は断固拒否」


 けれど、当事者からNGが出てしまった。


 表情は変わらないが、強気な言葉。アベルもまた、天を仰いだ。当然ながら、目に入るのは天井だけ。

 希望なんて、見えはしなかった。


「……いつの間にか、立場が逆転してねえか?」

「負債は大きければ大きいほど、借り手が有利になるからの……」

「なんならマリーも一緒に」


 さすがに、マリーベルにそんなことはさせられない。


「分かった、俺がやるよ。やればいいんだろ!」


 なので、そういうことに、なった。





『ふぅんっ あ ああああっっ』

『なんで、念話なのに鼻にかかったあえぎ声になってるんだよ!』

『気持ちいいから』

『ストレートォ!』


 ファルヴァニアの西。夜の大平原で、棺にオイルを塗る男がいた。


 さすがに、そんな怪しい存在は他にいない。


 間違いなくアベルだった。もちろん、実はマリーベルも一緒に……ということもない。


 マリーベルは、館で留守番だ。アベルとしても、こんなところを見られたくはなかったので、それ自体に不服はなかった。


 そもそも、不平を言い出したらきりはない。


「……ルシェル」

「なんですか、姉さん」

「こんなとき、どんな顔をすればいいのだ?」


 エルミアから情けない顔で問いかけられたルシェルは、思わず言葉に詰まった。

 魔術師(ウィザード)としてパーティの知力担当を自任する彼女だったが、咄嗟に答えを返せない。


「私にも、分からないことぐらい、あります……」


 同行したエルフの姉妹は、事情を理解していた。

 理解していたが、理解していたのは、自分たちの理解が及ばないということだけ。


 結果として、無言で、時折大仰なリアクションをする思い人を眺めるという意味不明な事態に陥っていた。


『あっ ダメ ご主人様 焦らさないで』

『焦らしてねえよ。でかいから、一瓶じゃ足りねえだけだよ!』

『その罵りいいと思う』

『罵ってねえよ! というか、急に冷静になるの止めろよな!』


 そう念話で言いつつも、アベルは律儀に手を止めない。

 両手を使って、草原に横たわらせたコフィンローゼス全体にオイルを行き渡らせると、大胆に塗り広げていく。


 かと思えば、表面の彫刻を繊細な手つきでなぞる。


『ふぅんっ』


 アベルが意図したものでは無かったが。その緩急にスーシャは、もてあそばれた。望むところだ。


『ご主人様 ステキ』

『しみじみ言わないでくれ』

『ソフトなのもいい』

『感想求めてねえから』

『あっ ご主人様そこはダメ』

『……もう、好きにしろ』


 依頼主であるレンとダニシュメンド両神殿の担当者が見たら、絶句するような光景。

 マリーベルがいたら、吐血していたかもしれない。


「ゥワンッ! ゥワンッ!」


 そこに、元のサイズに戻ったクルィクの鳴き声が夜の大平原に響き渡った。

 勢子の役割を果たした魔狼が、巨大なモンスターを一頭追い立てながら、こちらへ駆け込んでくる。


『やらなきゃ』

『唐突にやる気見せるの、止めてもらっていいですかね?』


 正直、ついていけない。


 しかし、スーシャがアベルの言うことを聞くはずもなかった。


 勝手にコフィンローゼスを浮遊させ、クルィクが追い立てたロングタスク・エレファントへと接近していった。

 体高は10メートル近く、体長はその倍。長い長い鼻や、その名の通り鼻よりも長い四本の牙を含めれば、より巨大だ。


 それが地響きを立てて近付いてくるのだから、重圧と圧迫感は並大抵のものではない。


 にもかかわらず、スーシャは。そして、アベルはいつも通りだった。


『ご主人様 燃えてる』


 燃えているのは、ロングタスク・エレファントではない。スーシャ――コフィンローゼスだ。

 宙に浮かぶ棺は、炎を纏っていた。


『ああ。魔法の武器にする上、炎で追加のダメージを与えるオイルらしいぞ……って、防御だけじゃなかったのかよ』


 宙に浮かぶコフィンローゼスは、敵からの攻撃に備えて自律稼働しているのではない。スピードこそ遅いが、ロングタスク・エレファントを迎え撃とうとしていた。


『なんだかできた』

『なんだかで、できてたまるか!?』

『テンションがあればなんでもできる』

『どうして、そんな気分が高揚してるんだろうなぁ!?』


 答えは聞きたくないが、ツッコまずにはいられない。


 遅ればせながら、アベルもグレイブ――ギルドからの借り物――に、テスト用の混合オイルを塗ってスーシャを追った。


『浮気されても大丈夫 ご主人様は最終的にスーシャの元に戻ってくるから』

『言い方ァ! あと、スーシャじゃなくて、コフィンローゼスだからな!』


 その横を、冷気と雷を纏った矢が通過していく。


 エルミアが放った一撃は、クルィクに追われるロングタスク・エレファントの眉間に突き立った。


 蚊の一刺しでしかないはず。


 しかし、冷気と雷撃がロングタスク・エレファントの全身を貫き、一時的にではあるが、その足を止めさせた。


「なるほど。こうして迎え撃つ場合には、オイルはなかなか有効だな」

「そうですね。加えて、ああやって武器が自ら行動できれば、オイルを塗ることによる手番の消費のデメリットも補填できそうです」

「しばらく遠距離から攻撃したら、私も斬り込むことにする」

「援護します」


 念話の聞こえていない二人――エルミアには、あえてチャネルを合わせていない――は、モンスターの襲来で、本来の調子を取り戻していた。


 一方、アベルとスーシャはと言えば――


『元々強いからオイルで強化されても実感がない』

「だな。違いがよく分からねえ」


 ――あまり、役には立たなかった。


 モンスター退治という意味であれば、二人とも貢献度は高かった。


 炎を纏ったコフィンローゼスにより、ロングタスク・エレファントの足を一本へし折ったのは間違いのない事実。

 混合オイルを塗って切れ味と、野獣系モンスターへのダメージを増したグレイブで、鼻を切り落とすという活躍もした。


 しかしそれは、混合オイルの試験という意味では、評価できるものではなかった。


 強すぎて、どこまでが実力で、どこからがオイルの恩恵なのか判断できなかったからだ。


「これ、まずはオイルなしの状態で殴らなくちゃいけなかったやつだ……」


 スーシャにより、オイルを塗らなければならないという先入観を植え付けられていたアベルは、ロングタスク・エレファントの死体を前に天を仰いだ。


 星空が見えた。


 希望は見えなかった。


 かくして。

 このあとも、何体かのモンスターを倒し、無事依頼(クエスト)は達成された。


 やはり、貢献度が高かったのはエルフの姉妹。


 まだ吸血鬼(ヴァンパイア)に成り立てのエルミアは常識の範囲内で、また、日々の収斂で自らの力を把握しており、正確な評価が可能だった。


 ルシェルも、客観的な視点から報告書を作成し、依頼主からも大いに喜ばれた。


 アベルやスーシャの貢献がないわけではないが、クルィクに比べると……比べるのも失礼な程度だった。


 それでも、成功は成功だ。


「これで、保留になっていたBランクへの昇格も通りますわよ」

「止めてくれ」


 とりあえず、代表者としてギルドへ報告を行ったアベルだったが、クラリッサの言葉に、力なく首を振った。


「自分のランクを意識する度、今回のことを思い出しちまう」

「……ですわね」


 とにもかくにも、依頼(クエスト)は達成された。


 様々な爪痕を残して。

内容に関してはあえてコメントしませんが。

なんというかこう、次はマリーベルがまともで格好良くて活躍する話を書きたいなぁと思っています。


それから、レベル99のほうも、明日辺り更新があるような気がします。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 『ご主人様 堅いのならスーシャに座る手がある』 実行するととても喜ぶし、無視しても喜ぶ悪夢のような一言。 さすが○ー○○と文字数一緒なだけある(たぶん関係ない
[良い点] 読み終わった 面白かった スーシャルートくーださい
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