6、騎士というよりも…。
短めですが…
部屋は一人暮らし専用マンションのような作りになっており、風呂とトイレが別になっていてハナを大いに喜ばせた。
「良かった。トイレットペーパーが湿るのが嫌なんだよね。それにエアコンも完備だし、テレビもあるし、キッチンも2つコンロがあるから料理も出来るし……って、出張が多いから自炊は少なくなるかな。食材腐らせちゃうもんね」
冷蔵庫には各種ドリンクと保存のきく調味料などがあり、冷凍庫には冷凍食材やアイスが入っている。
レトルト食品やお菓子などもキッチンの引き出しに豊富にあり、お茶セットなどもホテルのように置かれている。食器も揃っていた。
「おお、至れり尽せり」
ドアに貼ってある局内の説明書きに、食堂の利用時間や細かな規約が書かれている。食堂があるのはありがたいとハナは喜ぶ。
しかも無料。
もう一度言う。無料。
感激に浸っているハナに、ふとベッドの上に青いものが置かれているのが見えた。
「真っ青な綺麗な色。え、軍服? 制服?」
先程会った春組のメンバーは、こんな服を着ていなかった。皆灰色のスーツのような服を着ていたし、組以外の事務所の人間と同じような服装だった筈だ。
広げてみると前合わせのジャケットに、襟が二重になっている。カチッとした作りに見えるが、動きやすそうでもある。プリーツスカートは膝くらいまでで、百六十ないハナだから良いが、背の高い『姫』はミニスカートになるのではと余計な心配をしてみたりする。
よく見たら中でキュロットのようになっている。良かった。この歳で短めのスカートは恥ずかしい。
「靴は……ショートブーツか。ますます恥ずかしいかも。黒いタイツとかあるかな……」
壁にあるクロゼットらしき戸を開くと、中に引き出しがあり各種下着が揃っていた。サイズがぴったりだ。特に聞かれた覚えがないハナは、一瞬恐怖を感じるも「考えたらいけない」と思考をストップさせた。こういう事は深く考えず、落ち着いた頃に誰かに聞いてみようとハナは心のメモに書いておく。
「とりあえず確認終了」
持ってきた私物も整理し、何となく自分の部屋という感じになった。思い出の小物とか雑貨を置くと落ち着く。
観葉植物は置けないなぁと思っていたら、ドアに貼ってあった説明書きに「清掃・クリーニングのサービス(毎日)」とあったのを思い出す。もしかしたら、植物の水やりとかもやってもらえるかもしれないと考える。
「マンションっていうか、ホテルみたい」
それも悪くないとハナは自然と顔がニヤける。夢のホテル暮らし、至れり尽せりなのだから。
色々やっていたら、ハナのお腹がクゥーと鳴る。気づけば昼は過ぎている。
部屋の鍵 (カードキーだった)と端末をポケットに入れ、早速食堂に向かうことにした。
◇
「やっと出たか」
「え? 待っていたんですか?」
部屋の前にいたレンの姿に、ハナはぎょっとして思わず仰け反る。レンは背も高く筋肉質な体つきなので、今まで関わることのなかった部類の人間に該当する。とりあえず丁寧な言葉で対応しているが、無愛想な男性なので感情が読み取りづらい。
(怒っているのかくらいは知りたいかな……)
とりあえず謝ろうと口を開きかけると、レンは片手を軽く上げる。
「怒ってはいない。昼を食べないのかと思った。そしてここで待機するのは騎士の務めだ」
「え!? ずっとですか!?」
「いや、昼には出てくると思って待機していた。普段は部屋で待機している」
「私がずっと部屋にいたら、ずっと隣の部屋にいるんですか?
「騎士は護衛が仕事だからな」
「この建物くらいは……」
「姫と騎士はそういうものだと思ってほしい」
「……分かりました」
恋人がいるわけでもないし、部屋では一人だから別にいいかと、ハナは気にしない方向でいくことに決めた。その様子をレンは興味深そうに見ている。
「では、食堂に行きます。レンさんも一緒に食べますか?」
「ハナが許可するなら」
「では許可します」
生真面目に言うハナを、やはりレンは驚いた顔で見ていたが、ハナは気付かず昼ごはんのメニューに思いを馳せているのであった。
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