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5、少しだけ話しましょう。

進みが遅いですかね。

螺旋になっている階段を降りていくと、休憩する場所があり、その奥に個室がいくつかあるようだ。

ハナは仮眠室があるのを見て、それなりの設備があるのだなと感じる。国の施設だから当然かもしれないが、小さな民間企業にしか勤めてないため、ハナにとって設備が不足している状況が普通だったのだ。


「今は誰も居ない。ここで良いか」


「はい。大丈夫です」


いくつかある丸テーブルの一つに座り、ハナは目の前にいる男性をじっと見る。

先程までは気にもしていなかったが、なかなか整った顔をしている。少し長めの黒髪は彼によく似合っているようだし、濃紺……光の加減で青みがかって見える黒い目も不思議な感じだがハナは綺麗だと思った。

これで武芸に秀でて国家公務員となると、合コンでは引く手数多だろうとハナは客観的に分析する。

正直、仕事を一緒にする相手に美醜を求めることはないが、整っている方が嬉しい。幸いにも最低限会話は出来るし、人を不快にさせる言動は無さそうだ。……ハナの勘だが。

勘に頼らずとも、もう一人との二択だったので、迷わずレンを選ぶしかなかったのだが。


「俺で良かったのか」


ハナがじっと見すぎたせいか、少し居心地悪そうに目をそらしてレンはボソリと言う。

一瞬言われた言葉の意味が分からなかったハナだが、さっきの礼儀知らずの「中古」という言葉を思い出して顔を顰めた。


「貴方は……レンさんには『騎士』の経験があります。私には前任者が居ないし、業務を滞りなく行うには経験者がいた方が良いでしょう?」


「だが、俺は歴代最短で先代の『姫』を降ろしてしまった」


降ろすという意味が分からないが、退職みたいなものだろうか。

ハナは少し考えてから会話を続ける。


「それはレンさんだけの責任ですかね。私はどんな仕事でもチーム組んでいる限り『個人の責任』というのは無いと思っています。だからそういうのは関係ないです」


レンはそらしていた目を戻し、驚いたようにハナを見た。


「それに、あの礼儀知らずが先代の『姫』の『騎士』だったら、嫌々だけど彼を指名しましたよ。嫌ですけどね。経験というにはそれだけ強い力になります。前にミスをしたとしたなら尚更です」


「ミスをしたのにか?」


「ええ。だってミスを繰り返さないように頑張るでしょう? 同じ事を繰り返さないように」


レンは惚けたようにハナを見ていたが、微かに口角を上げる。


「アンタ、今までの『姫』と違うな。サバサバしている」


「まぁ、物語の姫みたいに可愛げが無くて申し訳ないけど、仕事はキッチリしたいタイプなので。あと、アンタではなくハナと呼んでください。ここでは名前呼びとの事なので」


「俺もレンでいい。口調も普通でいい」


「ああ、これは気にしないで下さい。私は仕事中はこれが楽なんです」


「タスクみたいなものか」


「……あの人と一緒にされるのは不快ですね」


「……っぷ、悪い」


つい吹き出したレンを見て、ハナはずっと無表情なロボットみたいだと思っていたレンがそうでもないなと認識を変える。「タスクのネタは鉄板」と心のメモに書いておく。一緒に働く相手にのツボを知ることも、ハナにとって重要な事であった。


「仕事の流れを教えてもらって良いですか?」


「今日はこのまま宿泊施設で休んでもらう。明日は一度事務所……さっきまで居た上の階で打ち合わせをして、早速現地へ向かう」


「あの、現地で何をするとか……」


「すまない。『調律』については俺には分からない。展開図と現地に設置してある『盤』と照らし合わせるという所までは見ているんだが」


「はぁ、そうですか」


「大丈夫だ。どんな『姫』でも『調律』は出来る筈だ。そうでなければ国はハナを指名しない」


「はぁ……」


「一度事務所に戻るよう言われているが、他に聞きたいことは」


「また何かあれば聞きます。よろしくお願いします」


立ち上がってハナがお辞儀をすると、レンも立ち上がり一礼する。

ふと目の前に大きな手出され、少し驚くも、黙ってその手を握った。


ハナは『春姫』となり、レンは再び『騎士』となる。

これで二人は『姫と騎士』になったような気がした。




数分経過。




ハナは途方に暮れている。


(これ、いつまで握ってるんだろう)


レンの生真面目な様子に、ハナは何も言えずにただ手を握り返していた。


(目を離したら負けっぽい。私は負けない)


じっと目を見ていると、その濃紺の目が見開いて「す、すまん!」と手を離される。


(ふっ……勝った……)


ハナは謎の達成感を感じつつ、足取り軽くタスクの元へ向かう。その後ろをレンは無言でついて行く。

『騎士』は常に後ろに控えているものだと教わったが、慣れるのに時間がかかりそうだ。

事務所に戻ると、胡散臭い笑顔のタスクに出迎えられる。


「おかえり、ハナさん部屋の鍵はこれですよ。あとこれは専用の端末です」


スマホのようなものを渡され、それには各局員の番号が全て入っていた。ちなみにハナの携帯は事務所預かりであり、事務所の誰かの前でないと話せないしメールも出来ない。

ハナは普段からほとんど使わないので不便ではないが、連絡をくれる友人には遅い返信になって申し訳ないなと思う。

緊急は時はちゃんと連絡をくれるようになっているので、そこさえちゃんとしていればハナは特に文句は無かった。


「じゃあ部屋まで案内を……」


「俺がいる。問題ない」


「ああ、そうですか。ではよろしく」


無表情のレンの申し出に、少しだけ驚いた風なタスクだが、そのまま任せると笑顔で頷く。その後ろではカイが黙ってハナ達を見ていた。


(何だろう、何かおかしいの?)


首を傾げているハナに、レンが「案内する」と促すので素直に従う。


(まぁ、今日はいいか。部屋片付けなきゃだし)


まだ昼にもなっていないのに、やけに疲れたような気がするハナは自分の新しい住処へと向かった。





お読みいただき、ありがとうございます。


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