4、騎士は貴方で。
まだまだ序盤です…
(やっぱりよく分からない……なんなのよ一体……)
新しい仕事だからなのか、特殊な内容だからなのか、ハナには長谷川が言う内容が全く理解出来ない。
「さてと。今うちの組が帰って来たみたいだから、紹介しますね。あ、展開図は持ってて良いですよ。仕事に役立ててください」
「はぁ……」
そう言われても、その仕事がさっぱり分からんとも言えず、ハナは騒がしくなった入り口付近に目をやる。
そこに来たのは小柄(とはいってもハナより背は高い)若い男性と、ハナと同じくらいの年齢であろう男性だ。二人とも黒髪だが何故か青みがかった目の色をしているように見える。
「レン先輩はもう少し丁寧に見ないと、力押しだけじゃダメっすよ!」
「うるさい。時間がない」
高めの声の若者に対し、レンと呼ばれたもう一人はよく響く低い声をしている。その目はやはり青く光っているように見えた。
(色素が薄い? 違うか。何だろう。不思議だ)
ジロジロ自分達を見るハナに気づいた二人は、長谷川に目をやる。
「おかえりなさい。レン、カイ。こちらは今代の春姫になる、遠野ハナさんです」
「初めまして。遠野ハナです。よろしくお願いします」
立ち上がってお辞儀をする。
自己紹介は立ち上がり名乗ったら一礼をする。社会人の基本だ。
「え、この人が?」
「……俺はレンだ」
カイと呼ばれた若者は露骨にガッカリとした顔をし、レンは無表情で名前だけ名乗る。この場合レンの方がまだマシだとハナは思った。
これまでの長谷川の言ったことを思い返すと、今まで春姫だった女性たちは若く綺麗だったのではないかと考察する。やはり『姫』というのはお伽話でも美しいだの可愛いだの言われる存在だ。ハナのような褒められるのは肌質だけみたいな三十代はお呼びじゃないのだろう。
「態度悪いですよ二人とも……コホン。では遠野さん、この二人から騎士を選んで貰えますか?」
「この二人から?」
「ええ、この二人です。二人は騎士候補でもあります」
「騎士って、姫の護衛? ですよね?」
「そうですね。二人とも武芸は達者ですよ。安心してください」
「……先代の騎士は?」
「レンですよ。三代ほど騎士をしてましたね」
「そっちの人は?」
自己紹介をしない人間の名前は知ってても言う気はないハナは、礼儀知らずの人間には途轍もなく厳しい。
「カイはまだ騎士になったことはありませんよ」
「僕にしときなよ。中古より新しい方が良くない?」
可愛い顔立ちをしているものの、口調は全く可愛くない上に失礼すぎる。
「じゃあ、レンさんで」
「ええええ、またぁ? ズルいよ〜」
カイの物言いにイラっとしたハナは、まっすぐ彼の目を見る。
「私は先代から引き継ぎを受けていません。ならば一緒に仕事をするなら経験者を選びます。さらに、私は自己紹介も満足に出来ない常識知らずの人間と一緒に仕事をしたくないです」
唖然とするカイをそのままに、ハナは長谷川に顔を向ける。何故か怯える様子を見せているが、そのまま続ける。
「長谷川さん、ここでは名前呼びが普通なんですか?」
「そ、そうですね。役職か名前かですね。名字はあまり使いません」
「分かりました。それではタスクさん、今からレンさんに私の仕事について聞きたいので、ミーティングルームのような場所は使えますか?」
「は、はい。下の階にあります。自由に使えますよ」
「分かりました。レンさん少し時間をもらえますか?」
「……構わない」
「ありがとうございます。では、しばらく席を外します」
「い、いってらっしゃい……」
「……」
ハナとレンが去ると、カイは腰が抜けたようにクタリと椅子に座り込む。
「タスクさん、今代の春姫って……」
「ええ、まさかこんな早く」
「今度は長く続くかなぁ……」
カイの言葉に、タスクは何も言わずに二人の行った方向を見つめている。
姫と騎士には定石がある。
夏は年の差があり、秋は性格が合わず、冬は外見が反対。
春は王道で、年齢の近い二人が姫と騎士になる。
姫の定石もある。
夏姫は気が強く、秋姫は気まぐれ、冬姫は冷静沈着だ。
そして春姫は……
「春は、春姫は狂いやすい。貴女の春が長く続くよう祈りますよ。ハナさん」
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