2、四季管理局って何ですか?
今日はここまで。
「さて。邪魔者は居なくなったので、私達の所属している『四季管理局』について説明しましょう」
「は、はぁ……」
事務所にはハナと長谷川の二人きりになっていた。上司の事務所長は油虫対応に追われているようだ。それを特に悪いとも思っていない長谷川は、淡々とハナに語っている。
流されているという今の状況に思う所が無いわけではなかったが、国からの出頭要請ということは断れないだろうし、何よりも定年後の給付金制度に心惹かれまくっていた。将来おひとり様の正道を歩むハナとしては、金はあって困るものではないのだ。むしろ喉から手どころじゃない、腕が出るほどに欲しい。
「環境省というのはご存知ですよね。地球の環境、大気や水の環境、その他総合的に見る環境局があります。その中でも『日本』の『四季』を管理して守っていこうという動きにだけ特化した『管理局』という部署が二十年前から出来たのです。その時はまだ違う名前でしたけどね。『四季管理局』という名称になったのは五年前です」
「その時話題になりましたよね。美しすぎるなんとか局員とか……」
「ああ、秋組の人間です。あそこは目立ちたがりの『姫』がいますから」
「あの、私は……」
「私は一応主任で、あなたの上司にあたります。遠野さんには『春組』の『姫』になってもらう予定です。正式名称は『環境省四季管理局春組・姫・遠野ハナ』ということになります」
「ちょ、ちょっと、姫とかそういうの、何なんですか?」
これは物凄く恥ずかしい事になるぞと、ハナに怯えが走る。それを見て長谷川は申し訳なさそうな表情になる。
「すいません。これは役職名みたいなもので……私も春組の『剣』ですし、色々とあるんですよ」
長谷川はコホンと咳払いをする。
「まず、四季管理局には5つの組があります。春・夏・秋・冬の四つと、中央です。
主に動くのは春夏秋冬です。これは五行思想に則って動いている……らしいです。
それぞれの組には内勤、外勤の人間が二人ずつ。春組の内勤は私ともう一人、外勤は『姫』の遠野さんと『騎士』になります」
「姫と騎士……ですか」
「これは中央が決めているようですが、姫と騎士にはスタンスがありまして、春は王道、夏は年の差、秋は性格の違い、冬は外見が逆と、多種多様を取り揃えています」
「どこのラノベサイトですか。他はともかく王道って何ですか」
「まぁ、年が近くてほのぼのカップル……みたいな?」
「カップルみたいなって、仕事なんですよね」
「ええ、もちろんですよ。真面目に仕事してますよ」
ハナはこの件に関してはスルーする事にした。ここでツッコミを入れていたら話が終わらない。
「内部の事については後で聞きます。とりあえず、私は何をすれば良いんですか? 外勤ということですが」
「まぁ、出張が多いですかね。日本各地に行って『四季』を『調律』してもらいます」
「調律?」
「今やこの国では人の手を加えないと『四季』を維持出来ないんですよ。ですが『四季』を無くすと日本が生み出す全てが終わってしまうんです。それを管理して守るのが『姫』で、その護衛が『騎士』というわけです」
「はぁ……あの、私はこれまでここの事務員でしたし、『調律』? と言われても、特殊な訓練も何も受けたことないんで、無理なのでは?」
「ああ、それは大丈夫ですよ。夏組の『姫』なんか現役の女子高生ですからね。『姫』として選ばれた人間なら誰でも出来るみたいですよ」
「マニュアルとかあるんですか?」
「ないですよ。一子相伝みたいなものですし……ああ、でも前任の春姫は居ないんだっけ。……まぁ、大丈夫でしょう」
「ええ!? 不安しかないんですけど!」
「大丈夫ですって。気楽にやりましょう」
(前途多難すぎる……)
ハナは大きくため息を吐いて、爽やか笑顔の長谷川を睨みつける。すると急に目の前の男はもじもじし始めた。
「長谷川さん? どうしました?」
「そんなに熱く見つめられると、照れてしまいます……」
「違います!睨んでるんです!」
「ああ、怒ってる姿も……こ、これは危ないです。遠野さん気をつけてくださいね」
「危ないのは長谷川さんです!」
この男は一体何なんだとイライラするハナを、うっとり見る長谷川は自分の両頬を叩いてシャキッと背筋を伸ばした。
「では。一週間後にここの住所でお待ちしています。この書類に必要事項が記載されてますので、しっかり読んでくださいね。では!!」
長谷川は、バサバサと書類の入った封筒を大量にハナに手渡すと、深々お辞儀をして事務所を出て行った。
後に残されたハナは暫く呆然としていたが、とりあえず頑張るしかないと自身を奮い立たせ、無言で大量の書類を長谷川が置いていったキャリーバックに詰め込み、自分のデスクを整理し始めた。
そして彼女はこの日から一週間後、国家公務員になる。
お読みいただき、ありがとうございます。